おじろよんぱく、何者?

月芝

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142 ホニャララ

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 ウィーン、ざく、ウィーン、ドサっ。
 ウィーン、ざく、ウィーン、バサっ。
 ウィーン、ざく、ウィーン、ザザっ。

 せっせとユンボが動く音が聞こえる。
 手足は縛られており、猿ぐつわのみならず目隠しまで。
 それでもひんやりした土のニオイと、さっきからカラダに降りかかる重みにて、自分がマズイ状況にあることだけはわかった。
 懸命に身をよじりどうにか少しだけ目隠しをずらす。
 で、隙間から見えたのは穴の底に横たわる男と女が二人。
 男の方は頭から血を流しており、肌がすっかり青白くなっている。
 女の方はさっきトランクに囚われていた人物。ぐったりしている。
 遅まきながらおれは女性銀行員が行方不明になっている事件について思い出す。この二人と、上でせっせとユンボを動かしている輩との関係は不明だが、何もかも地中に埋めてなかったことにしようとしているのは確か。
 でもって、マヌケな探偵は巻き込まれてしまったと……。
 あっぶねー。気がつかなかった生き埋めにされているところだった。そうなればさすがの尾白探偵も助からない。けれどもおれは目覚めた。でもって相席している二人がそろって気を失っているのが好都合。
 というわけで「変化」
 化け術にてドロンと化けたのは煙突。イメージとしては古式ゆかしい銭湯のアレを模してみた。
 こうすることで中に二人を囲い込んで守りつつ、おれ自身が生き埋めにされるのも防ぎ、なおかつ自分がいまどこにいるのかを知るという算段である。

 穴の底よりギンギンにそそり立つ煙突が出現。

「……ううん? なんだよ。母屋のすぐ裏じゃねえか。よかった、山奥とかに運ばれてたら帰りがたいへんだった」

 高みより周囲を睥睨しつつおれがそんなことをぶつくさ言ってたら、足下から「ひぃいぃぃぃっ」という悲鳴が聞こえてきた。
 声の主はおれを昏倒してくれちゃった犯人。
 まぁ、そりゃあびっくりするわな。ふつうの人間としては至極まっとうな反応である。
 はてさてどうしてくれよう?
 けっこう痛かったし、ちょっとイジメちゃおうかな。
 とか考えていたら、パニックになった犯人。泣きわめきながらユンボを乱暴に操作しては、アーム部分でガンガン煙突を横殴り。チカラまかせにぶつけ始めたからたまらない。

「あっ、こら、バカ、やめろ! 化け術中のダメージは解いたあとにきっちり反映されるんだぞ。またぞろ菜穂の診療所の世話になっちまうじゃねえか。いいだろう。そっちがその気ならこっちにも考えがあるからな!」

 言うなり煙突がぐらり。
 とはいってもおれはいろんなモノに化けられるけれども、操作自体はほとんどできない。そこで煙突の根元の一部に切り込みを作成。
 キコリが木を切る~ってな具合に。
 そこにトドメの一撃を入れたのはほかならぬ犯人である。ユンボにてぐらりに拍車がかかって、煙突がゆっくり倒れた先には母屋。

「秘技、断罪の煙突落とし!」

 ドンガラガッシャーン。
 二階建て住宅を斬っと真っ二つ。
 炸裂した必殺技によって家がメキャメキャ粉砕され、破壊音が鳴り響き、大量の粉塵が舞う。
 でもって穴の底にいる男女は無事だけど、地上にいた犯人は余波をモロに喰らう。
 ユンボごと横転し、投げ出されたばかりか飛んできた瓦の破片の直撃を受けて、「ぎゃん」と鳴いたきり静かになった。
 そこでおれは化け術を解いて、人の姿となる。
 が、とたんにしゃがみ込む。「アイタタタ。あの野郎、スネばかり狙いやがって」
 ユンボアタックの影響で弁慶の泣き所がぷくぷく腫れていた。
 折れてはいないようだが、めちゃくちゃ痛い。
 痛む足をさすっているとパトカーのサイレンの音が聞こえてきた。どんどんと近づいてくる。
 いかに広い敷地内とはいえ、こんな派手なマネをしたのだから、当然ながら近隣より通報が入ったのだろう。
 このまま居残っていたら、いろいろ面倒に巻き込まれる。
 あとのことはカラス女にまかせておけばいいだろう。
 おれは痛む足を引きずりながら、そそくさと退散することにした。

  ◇

 痛み止めの飲み薬と湿布ですんだ名誉の負傷。
 昨夜の出来事がちょうどワイドショーでやっていたから、ぼんやり眺めている。
 あの犯人は造園業者で名を山野卓三やまのたくぞうといい、頭から血を流して倒れていた男とは金銭トラブルでモメいたそうな。
 で、深夜の公園で酒が入ってヒートアップしたあげくに、ついガツンと。
 ただし男は死んでいなかった。なのに山野があわてて死んだとかんちがいしてしまったのが悲劇の始まり。すぐに救急車を呼んでおけば、酔っ払い同士のケンカですんだのに。
 殺っちまったと思い込んだ山野。まず男を回収するも、そのときになってスプリング遊具に血がべっとりついていることに気がつく。このままだと事件が発覚する。だからあわてて痕跡を消そうとするも、ゴシゴシするほどに汚れがますますひどくなる。
 どうしたものかと悪戦苦闘しているときに、運悪く現場の公園を通りかかったのが行方不明になっていた女性銀行員。
 マズイところを見られたと山野は女性を拉致。
 で、女性を連れ去ることからスプリング遊具そのものを盗み出すことを思いついたと。
 なんていうか、ものの見事にアリ地獄にハマったといおうか。
 やることなすこと裏目に出てあげくに探偵にまで介入されるとは、絵にかいたような負の連鎖による転落。
 人生ならぬ獣生、こうはなりたくないものである。くわばらくわばら。

 テレビを観ていたら事務所のドアが蹴破られた。
 うちに顔を出すロクデナシどもでも、こんな無作法をするヤツは一人しかいない。

「今回はお手柄だったな、四伯。ほらよ」

 カラス女が投げて寄越したのはタバコのワンカートン。おれが愛煙している品。
 事件の方はうまいこと処理してくれたようで、スプリング遊具も近日中にアニマル公園に戻されるそうな。
 かくして事件は解決しめでたしめでたし。
 と話を締めようとしたのだがナゾが一つ残った。
 それは「あのスプリング遊具の正体」である。

「結局、あのホニャララは何の動物だったんだろう」
「動物? バイクじゃないのか」

 安倍野京香の言葉に、おれはますます首をひねることに。
 イルカ、ニワトリ、ウマ、リス、ウサギ、イヌの動物だけでなく、オートバイなどの乗り物にも見えるだなんて、ある意味すげえな。見る人のイマジネーションを刺激しまくりじゃねえか。
 ちなみにおれはネコかと思ったんだけど……。


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