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196 タヌキと鬼の副長、再戦
しおりを挟む乾班目の瞳術・緑炎は、一時的にだが相手の肉体の自由を奪う。魅了効果もあり。ただし効果は相手の精神力にかなり左右される。
第二形態となったことで瞳術の威力も格段にあがっている。
しかしこれを受けてもなお立ち向かってくる小娘に、鬼の副長は眉根を寄せて不快さをにじませる。
「おとなしく縮こまって震えておればいいものを……。これだから鈍いヤツは嫌いなんだ」
言うなり近くにあった石くれを乾は蹴り飛ばす。
通学中の子どもが小石を蹴って遊ぶかのような仕草。だが、はじかれたソレはボーリングの球ほどもある石塊。当たればとてもただではすむまい。
自分へと向かってきた石くれ。芽衣はこれを左腕にてあっさり払う。
打ち払われた石はおれの目の前にズドンと落ちる。
おっさんは「ひぇぇぇえぇ」と情けない声をあげた。
ゆっくりと瓦礫の坂をのぼっていくオカッパ頭の小娘。
先にて待つ二本角の鬼をしっかりと見据えつつ。
「狸是螺舞流武闘術、洲本芽衣。まだまだ未熟者なれども、精一杯にお相手を務めさせていただきます」
堂々とした名乗り。
しかし乾はこれを「ふん」と鼻で笑う。
「ケモノ風情が殊勝なことよ。だがその態度に免じて相手をしてやる。私は乾班目。緑鬼一族の副長である」
鬼の副長は動かず。芽衣が自分のところに来るのを待つ。
かとおもわれたが、その芽衣が唐突に横っ飛び。
直後にさっきまで芽衣がいた地面がえぐれて爆ぜた。
乾の蹴りにより射出された石の攻撃によるもの。
相手をしてやるとは言ったものの、まともに立ち会う気はないらしい。
次々と射出される石弾。
足を止めたらたちまち被弾する。ひたすら駆け続けるタヌキ娘。
「ほらほら、どうした? トロトロしていたら当たってしまうぞ」
嬉々と石を蹴り続ける乾。その顔のなんと小憎たらしいことか。
これには周囲にて戦いの行方を見守っていた敵味方からもブーイングの嵐。
「副長、超だせえ」「ここは正面からガツンと殴り合うところだろう」「小っさ、器、めちゃくちゃ小っさ」「おら、ちゃんと戦え」「えー、それはないわぁ」「近年まれにみるガッカリ具合です」「かっこ悪すぎる」「ないわー、さすがにあれはない」「いくら見てくれがよくても、男としてもオスとしても魅力ゼロだな」「へー、あれが緑鬼の副長なのですか、そうですか……」「ちょ、ちょっと、蔑みの目でこっちを見ないで!」「そうだそうだ。あんなのといっしょにするな!」
好き放題ほざくギャラリーたち。
外野からのヤジを受けて、ついに乾がブチ切れ。
「えぇい、やかましい、だまれ! なんならお前たちの方から」
先にぶちのめしてやろうか。
という乾の言葉が最後まで発せられることはなかった。
彼がよそ見をした瞬間に飛んできたコンクリートの欠片にて顔面を痛打したため。「そっちがその気なら」と芽衣が投げつけたモノ。
おもいのほかにいい角度で入ったもので「ぐおぉぉ」と悶絶する乾。
はずみでまぶたも切れ血が流れたが、傷口はすぐにふさがる。
第二形態となったことで鬼の身には超回復まで宿っていることが、ここに発覚する。
◇
顔をあげた乾が怒りを押し殺した低い声でぼそり。
「いいだろう。そこまで言うのならばちゃんと相手をしてやる。ただし、後悔するなよ」
スルスルと蛇行するかのような動き。地を這うヘビのような歩法。
じわりと水が染み入るようにして間合いを縮めた鬼の副長。
その左腕がゆらゆら脱力していたかとおもったら、肘から先が唐突に消えた。
シュッという風切り音。
間髪入れずに芽衣の左頬が裂ける。
乾の放った超高速の拳をからくも避けたタヌキ娘。
はずした乾が「ちっ」と舌打ち、からの左の怒涛の連撃。
ムチのしなやかさと槍の穂先のごとき鋭さを併せ持ち、かすっただけで皮膚が裂け、血飛沫が舞う。みるみる細かな傷だらけとなる芽衣のカラダ。
この猛攻をどうにかしのぎ、芽衣は相手にじりじり肉薄する。
と、そこに降ってきたのは右の拳。
高身長に加えて長い手足。振りおろし気味に放たれた拳は、古代の攻城兵器である投石機が発射されたときのような半円軌道を描き、脳天を砕かんとする。
頭上の死角からの一撃。
引くか、進むか、それとも留まり受けるか。
刹那に選択を迫られた芽衣はためらうことなく足を踏み出す。
天空より落ちてきた拳。その下をギリギリかいくぐり、敵の懐深くへ。
けれども反撃はならず。せり上がってきた膝が芽衣の行く手を阻む。
乾の膝蹴り。突進中の出会いがしら、これは避けられない。
タヌキ娘はとっさに肘打ちを放つ。
膝と肘がかち合う。
ゴチンと鈍い音が鳴った。
強い衝撃と震動。
二人を中心にして粉塵が立ち昇る。
一瞬の拮抗。
押し負けたのは芽衣。腕と足とでは膂力に差があった。
芽衣の両足が地を離れた。カラダがわずかに浮いてしまう。
そこに横薙ぎの一閃。旋風を生じさせるほどの回し蹴り。
踏ん張ることも、逃げることも出来ないゆえに、芽衣は乾の攻撃を受けるしかない。
タヌキ娘が盛大に宙を舞った。
二十五メートルプールの端から端ぐらいまでも飛んだであろうか。
だが弧を描きながらもその身がひらりくるりと回転し、無事に着地を決める。
手の甲で頬の血をぬぐい、すちゃっと立ち上がったタヌキ娘。
これを忌々しげにねめつける乾班目。
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