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209 バベルの塔の鉄騎
しおりを挟む五番勝負の四番目、対ピンポンイエロー戦。
「山のイエロー」が指定したバトルフィールドは七十七棟。
なにやら縁起がいい番号だが、かつて住人が宝くじで大当たりを出したとか、パンパンに詰まったサイフを拾ったとか、見知らぬ親戚から突然に遺産が舞い込んだとか、ステキな彼氏彼女ができて夏の浜辺をおおいに満喫、などいう景気のいい話は皆無である。
ゆえに裏では「ご利益なしのガッカリ棟」とも揶揄される場所。
第四戦目、芽衣はお休み。鼻血を噴いたことと、レッドに敗れた精神的ダメージが原因だ。助手のタヌキ娘は珍しくしおれている。
よって、おれこと尾白探偵のみにて戦うことに。
で、結果はおれの勝ち。
えっ? ずいぶんとあっさり流すのね、だって。
いやいや、戦隊モノのイエローの扱いなんてこんなものだろう。黄色は不遇。古き良き伝統みたいなものだ。まぁ、最近はそうでもないらしいが……。
ちなみにピンポンイエローの得意技は隠れ身の術だった。
ほら、忍者とかが柄や色付きの布で目くらましをしてパッと姿を消すヤツ。あれだ。
実際イエローは上手いこと隠れたよ。気配の消し方といい、たいした隠形の技。
だが少しばかり運が悪かった。
イタズラなビル風によって布がペロンとめくれて「いやん!」となってしまった。
おかげで居場所がモロわかり。あっさり御用となる。
かくして二勝二敗の引き分け。残すは最終戦のみ。
◇
ピンポンレンジャー対尾白探偵事務所の五番勝負。
おおとりを飾るのはピンポンピンク。風林火山になぞらえて戦う他のメンバーたちとはちがい、紅一点の彼女は自称・地球を守る愛の戦士。胸も志も立派なヒロインである。
そんなピンクが指定した戦いの場所は棟ではなくて、給水塔であった。
全百棟を誇る屯田団地。その敷地内には七つの給水塔が点在している。
水圧を調整することで団地内の暮らしを支える重要施設。高さや規模、形状はバリエーションに富む。四角い柱のようなシンプルなものから、灯台をおもわせるもの、デカいエリンギみたいなもの、古代遺跡のような趣を持つものまである。
そんな中からピンクが選んだのは、地元っ子から「バベルの塔」と呼ばれている給水塔。
ウエディングケーキのような段々型。外壁の装飾にレンガが使用されており、表面が蔓で覆われている。
いかにも決戦の舞台にふさわしい雰囲気ではあるが、さりとて「こんなところでピンポンダッシュ?」と首をかしげる場所でもある。
そんな疑問がありありと顔に出ていたのであろう。
ピンクが教えてくれた。
「じつはここにも呼び鈴があるのよ」
建物入り口脇にひとつ。
内部を登った中ほどにひとつ。
最上階にある管理室にひとつ。
まるで三つもゲートがあるような構造をしているのは、安全確保のため。
これはずいぶん古い話になるのだが、まだ世相が不安定で過激派と呼ばれる血気盛んな連中がちょろちょろしていた時代のこと。
一時期、公共施設を狙った無差別テロのような行為が横行していたのである。
とはいえだいたいが素人のイタズラレベルでたいしたことはなかったが、ときおりシャレにならない事件も起きていた。
電車の脱線を目論んだり、大手企業のビルに爆弾を仕込んだり、要人の身内の誘拐騒ぎ、水源に異物や毒を放り込んだり……。
それを警戒しての、現在のような厳重なチェック体制になったという。
しかもなまじ時代に取り残されてハイテク化をしなかったがゆえに、昔ながらの堅牢さを誇るというオマケつき。
「へー、ってそんなところへ勝手に立ち入って大丈夫なのかよ」
ピンポンダッシュ勝負で警察のお世話とかになれば、三面記事のいい笑いもの。
またぞろカラス女に何を言われるかわかったものじゃない。
しかし心配するおれにピンクは「大丈夫よ」と豊かな胸を強調して自信をにじませる。
「裏から手を回して、ちゃんと大目にみてくれるように許可はとってあるから」
屯田団地を管理運営するのは公団。そことの関係を暗に匂わせるピンク。なにやらキナ臭い話である。
が、詳しいことはあえて訊かないことにする。
社会の暗黒面なんぞは知らない方が日々安穏に過ごせるというもの。
まったく……これだから世の中油断がならない。どこで誰と何が繋がっているのかわかったもんじゃないのだから。くわばらくわばら。
ピンポンピンクとの勝負は簡単明瞭。
先行するピンクがバベルの塔にある三つの呼び鈴を鳴らすのを、二分遅れで後発するおれたちが阻止するというもの。
お触りナシのやや変則的なルールのハンデマッチ?
なのは「だってか弱い女ですもの」とのアピールで半ば強引に呑まされた。ピンクは押しが強い。
「それを言ったら、うちの助手も女なんだが」とのおれの抗議はスルーされた。どうやらピンポンピンク的にタヌキ娘は女の範疇に入らないらしい。まぁ、ダメ元で言ってみただけだからおれもおとなしく引き下がる。
かくして最終戦がスタートするわけだが、か弱さと女性であることを臆面もなく押し出してきたピンクがよもやの手段に打って出る。
バサッと取り払われた迷彩シート。
姿をみせたのはBMXの車体。
BMXはバイシクルモトクロスの略で、数多の技を披露したり厳しいコースを疾走したりすることから、自転車の格闘技と呼ばれている。
黒いハンドルに赤い車体カラーの愛機にまたがるなり、猛烈な立ち漕ぎにていっきに加速。鮮やかなスタートダッシュを決めたピンポンピンク。
か弱さなんぞ微塵も感じさせないパワフルな走りに、おれと芽衣はぽかーん。
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