おじろよんぱく、何者?

月芝

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222 ガチャ一発目

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 じゃんけんの結果、ガチャを回す順番は零号、宇陀小路瑪瑙、千祭那津となる。
 みんなが固唾を飲んで見守る中、器械のツマミをひねった零号。
 ガチャコンと出てきたカプセルの色は黒。
 なかから出てきた紙片。折りたたまれたそれを受け取った司会者が確認する。

「最初の競技はテーブルクロス引きボウリング」

 高らかに宣言されたものの、会場中がそろって「なんのこっちゃい?」と首を傾げた。

 テーブルクロス引きボウリング。
 テーブルの上に載せられた茶器や食器類などを微動だにさせることなく、クロスのみを抜き取るテクニック。これをテーブルクロス引きという。
 これにボウリングの要素を組み合わせたのが本競技。
 長いテーブルにとってもロングな白いテーブルクロスを敷き、その上にビールの空きビンを十本、ボウリングのピンのように並べる。この状態にてテーブルクロス引きを行う。
 ボウリングとちがう点は「より倒したピンの数が少ない方が勝ち」ということ。
 五回行って倒したビンの合計数にて勝敗を決する。

  ◇

 メイドさんのお仕事と関係がありそうでなさそうで、やっぱりありそうなこの競技。
 種目が決まったところで、さっそくスタッフがセッティングに入る。
 準備が整うのを待つ間、ごにょごにょと相談をしていたのは千祭の妹が率いるメイド四人衆。

「ふふふ、この勝負もらったわね。テーブルクロス引きならば宴会の余興で散々にやってきたもの。よし、アン、一番手はあなたにまかせたわ。シャンパンタワーすらをもやっつけたあなたの腕前で会場中の度肝を抜いてやりなさい」
「オーケー、ボス。そのかわり勝ったらボーナスはずんでよね」

 千祭那津から指名されたのは栗毛のツインテールがトレードマークのメイド。
 彼女の名前はアン(源氏名・本名は秘密)、百八のメイド集団である梁山泊きっての宴会芸の実力者。

  ◇

 いざ最初の競技が始まった。
 三巡目までは互いに一歩も引かぬデッドヒート。
 どこまでも器械的に淡々とテーブルクロスをシュッと引く零号。
 ネコ耳メイド型アニマルロボットは超科学の子。からくりボディゆえに正確無比な動作を判で押したようにくり返す。
 圧倒的経験値と多彩さ、プロ意識の持ち主である宇陀小路瑪瑙。
 つねに落ち着いた仕草にてさらりとテーブルクロスを引く。そればかりかまるで闘牛士がマントを操るがごとく、クロスを宙に舞わせつつ畳むという華麗な技を披露しては、たいそう会場中を湧かせる
 一方でアンもまた自慢の腕を存分にふるう。瑪瑙と零号を相手にむしろ健闘を続けている。けれども四巡目に彼女はアクシデントに見舞われた。

 一本でも空きビンを倒したら即脱落が決定するかのような場面。
 しようもない競技にも関わらず、いつの間にか会場中がシーンと静まり返り、真剣な面持ちにてステージ上を喰い入るように見つめている。
 緊迫感が充ちてゆく中、テーブルクロスを引いたアン。
 けれどもひょうしに長テーブルがわずかにガタリと揺れてしまった!
 これにより一本がカタカタカタ……。ビンの底が軽快なタップを踏む。ついにはこらえきれずに傾き、となりのもう一本を巻き込んで計二本が倒れてしまう。
 会場中から「あーっ」というがっかり吐息。

「くっ、不覚」

 ゲーム終盤にあって致命的な失敗。悔しそうに顔を歪ませるツインテール。

「おーっと、ここでアン選手が脱落かぁ。まだ最終第五フレームを残すものの、ちょっと厳しい展開の模様。ところで先ほどのは、らしからぬミスでしたねえ?」

 いきなり司会者から話をふられたのは審査員席にいたイケメン獣医師。
 なかなかの無茶ぶりながらも真田誠一郎はにこり。白い歯をみせ余裕のイケメンスマイル。

「そうですね……、おそらくですがアン選手の失敗の要因は、土台に用いられている長テーブルでしょう。学校や集会所などではお馴染みの折りたたみ式のパイプテーブルですが、アレってわりと足下がぐらつくんですよね。パフォーマンスを続けるにあたって、その弱さが出たせいかと。ちょっと運が悪かったですね」

 はじめて目にする競技の解説なのに、知ったかぶりで堂々とそれっぽい解説をする真田誠一郎。それでいてさりげに失敗した者へのフォローも忘れない。大人の対応だ。客席からは黄色い声援が飛ぶ。
 手を振り声援に応えつつ「ペットでお悩みのことがありましたら、ぜひ当真田動物病院へお気軽にご相談下さい」との宣伝もちゃっかり忘れない獣医師。
 出来るモテ男は一味ちがう。

  ◇

 最終第五フレーム。
 瑪瑙、零号、アン、ともにノーミス。
 よって瑪瑙と零号はパーフェクトを達成し引き分け、アンは惜敗となる。
 けれどもその健闘を称えて、会場中からは惜しみない拍手が送られた。
 そしてどさくさに紛れてチラシ配りに余念がない梁山泊の面々。転んでもただじゃ起きないメイドたちの熱心な営業っぷりを目にして、おれは舞台袖にてあきれるやら感心するやら。


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