おじろよんぱく、何者?

月芝

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223 おじろオンステージ

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 宇陀小路瑪瑙がガチャガチャのつまみを回し、出てきたカプセルの色は銀。
 なかの紙片に書かれていた競技は「髪結い着付け対決」であった。
 ご主人様の身だしなみを整えるのはメイドの務め。
 ようやくちゃんとしたメイドのお仕事っぽい競技の登場に、やや色物臭が薄れる本大会。

「この勝負、今度こそうちがもらうわよ。リリィ、お願いね」
「は、はい。精一杯がんばりまっしゅ!」

 千祭那津から指名されて返事を甘噛みしたのは、手の込んだ編み込みお団子頭がトレードマークのメイド。
 彼女の名前はリリィ(源氏名・本名は秘密)、美容師の専門学校に通うかたわら、学費と独立資金を貯めるためにメイド業に勤しむ勤勉な子。カットの腕こそはまだまだだが、髪結いの腕には定評があり。

  ◇

 いよいよ始まろうとしていた二番目の競技。
 しかし直前で物言いが入る。

「女性の身だしなみを整えるのに、衆人環視の中でなんてありえない」

 いつの間にか審査委員長に就任していた出灰竜胆の鶴の一声。
 小股の切れ上がった和装美人から、キッとにらまれてそう言われては誰も反論なんて出来やしない。
 そこで急遽、演者らはモデルともども裏に引っ込んで準備をすることになる。
 でもこうなるとステージの上がガラ空き。
 いかに百戦錬磨の腕利きの司会者のオバちゃんとて、間を持たすのには限界がある。

「いくら何でもムリだから。なんとかしてちょうだい!」

 司会者から泣きつかれた運営側は困惑。

「何とかって、急にそんなこと言われても」「誰か隠し芸でも披露したらどうだ?」「でもこれだけの観衆の前でしょうもない芸を披露したら、それこそ暴動が起こりかねんぞ」「演歌歌手に何曲が歌ってもらうとか」「アイツならとっくに帰ったぞ。次の営業があるとか」「芸人の方もすでに引きあげてるし」「うーん、どうしたものやら」

 そうこうしているうちにも客席がざわつき始めて、ますます焦る運営側。
 この窮地に白羽の矢がストンと立ったのが、おれこと尾白四伯。

「ったく、揃いも揃ってだらしがないねえ。こうなったらしゃーない。おい、四伯。あんた、ちょいと場をつないできな」

 葉巻をくわえた山姥こと花伝美咲がのっそり登場して、「とっとと行ってこい」と命じる。探偵事務所が入っている雑居ビルのオーナーであり、化石級の古ダヌキの彼女におれは逆らえない。
 で、しぶしぶステージへとあがることに。

  ◇

 冴えないおっさんの登場に、当然ながら舞台はさらに盛り下がる。
 客席から向けられる視線が痛い。
 それをガマンし審査員席にいるイケメン獣医師と渋面マスターの二人に協力してもらい、ちょいとした隠し芸を披露する。

「はいはい、みなさまご静粛に。気持ちはわかるけど騒がない。そこ、静かにする。女性の身支度に時間がかるのは当たり前。それを焦らずドーンと構えて待つのが男の器みたいなもの。とはいえあんまり退屈させるのもアレなので、いまからマジックをしまーす」

 言いながらイケメンと渋メンの二人が広げた布の裏に隠れたおれ。
 一、二の三にて布を払えば、あら不思議!
 あらわれたのは等身大の招きネコの置き物。
 早変わりの妙技に、会場がちょっとだけ「おぉ」と湧く。
 でも反応が鈍いので今度は等身大の信楽焼のタヌキに、続けて神社でお馴染みの狛犬やら稲荷の石像となる
 タネも仕掛けもありまくり。おれによる化け術の連続行使、えせマジックショー。
 はじめは微妙な反応だったのだが、ほんの数秒ごとに目まぐるしく変化していくうちに、やんやと拍手が起こるようになってゆく。
 気を良くしたおれは五変化目に等身大のクマのぬいぐるみとなり婦女子をキャアキャアいわせ、六変化目には大型バイク、七変化目にはスーパーカーとなり、みなの喝采を浴びることになる。

「相変わらず見事な化け術ですね」
「いっそ探偵をヤメてマジシャンに転職すればいいのに」

 なんぞという助手のイケメンと渋メンの言葉に、鼻の穴をぷくぷくさせながらもおれはドロンと化け続ける。
 でも三十を超えたあたりでネタを考えるのがめんどうになり、マトリョーシカで休憩がてらしばらく点数を稼ぐ。
 しかしこれがおもいのほかにウケた。自分としては手を抜いたつもりなのに、それの評判がいいことに内心複雑である。

 首がふらふら上下する赤べこ、踊る女のポーズをした埴輪、球形の頭部に円柱の胴体をしたこけし、シャケをくわえたクマの置物、選挙事務所に飾られる大きなダルマなどなど、民芸品シリーズは地方出身者の笑いと慕情を誘う。
 子・丑・寅・卯・辰・巳・午・未・申・酉・戌・亥の十二種類からなっている動物のブロンズ像による干支シリーズでは、自分の干支が登場すると観客が喜んだ。
 そしてラストの五十番目にして、トリを飾った変化は道成寺縁起に登場しそうな大きな釣り鐘。
 こいつを拳でゴーンと鳴らしたのは、遅ればせながら参上した探偵助手のタヌキ娘。

 盛況のままに幕を閉じた尾白四伯オンステージ。
 でも調子乗ったせいで、舞台袖に引っ込んだときにはすっかりヘロヘロ。
 だというのに「つなぎがメインよりも目立ってどうする? このバカたれめがっ」と花伝オーナーからは叱られた。


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