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224 ガチャ二発目
しおりを挟む髪結い着付け対決。
シックな濃紺のイブニングドレスは左肩が露出しているワンショルダーワンピースタイプ。
前髪をあげて頭のてっぺんでとめふんわりとさせる。これにロープ編みを組み合わせたヘアアレンジ・ポンパドールにより、グッと高まるのは大人の艶っぽさ。
足下は光沢のある黒。ヒールのあるパンプス。
モデルがステージに登場するなり、会場中のそこかしこから「ステキ」という声が漏れ伝わってくる。
夜の雰囲気にぴったりなコーディネートでまとめてきたのは、宇陀小路瑪瑙。
彼女の主人である鹿島紗月が好むのは和装。しかしあえてそれをはずし洋装を選択するところに瑪瑙というメイドの底知れぬ実力の一端が垣間見える。
ひと目見たら、目がそらせなくなる。
そんな鮮烈さを持つ白と黒の着物。
パンダを連想させるような色の組み合わせ。
着物は白地であるが襟元が黒縁となっており、足下の裾の部分もまた黒色となっている大胆な構図。
帯は黒で帯紐は金。
羽織りの柄は黒と白の市松模様。
足下はエナメル素材のシンプルな黒い草履にて、紫の鼻緒が愛らしい。
ヘアーアレンジとしては三つ編みをねじり上げることで、うなじの存在感を際立たせ、はんなり度合いを高めてある。
海外のファッションショーとかに登場しそうでいささか奇抜なれども、いまどきの着こなしを大胆に取り入れたコーディネートにて勝負に出たのは、ネコ耳メイド型アニマルロボ零号。
審査員の中には和装に厳しい呉服屋の主人もいる。
はたして吉とでるか凶とでるか。
落ち着いた色味のレッドカラーをしたセミアフタヌーンドレス。
腰回りには同色のリボン。これによりグッとウエストが締まってスタイルアップ。
首元には真珠のネックレス。足下はアイボリー色にてカカトの低いローヒール。
ヘアーアレンジはショートボブ。ひし形シルエットで小顔効果を狙いつつ、なおかつ上品さが漂うように工夫が施されてある。
全体的にはちょっとこじんまりとまとまった感はあるものの、だからこそ万人受けする。
なんだかんだで派手過ぎるのよりも、このぐらいが好みという殿方は存外多い。
そういったポイントを突いてきたのは、百と八のメイドさんで構成された梁山泊からの第二の刺客、お団子頭がトレードマークのリリィ嬢。
◇
宇陀小路瑪瑙、零号、リリィ、三者三様のコーディネート。
客席の反応はどれも上々。
それらも加味しつつ、ただちに審査員の四人が審議に入る。
「技術の点に関しては瑪瑙さんがダントツですね。しかし零号さんの着付けもたいしたもの。うちの店にスカウトしたいぐらいです」とは出灰竜胆。
「パーティーに連れて行くのならば、やっぱり瑪瑙さんのコーディネートかな」とは真田誠一郎。
「零号さんのはカッコいいよね。だらしなく着崩してないこともポイントが高いかと」とは柴田将暉。
「わ、私はリリィさんのもかわいらしくて好きです」とは芝生綾。
額を突き合わせて審査員たちが話し合いを続けているのを尻目に、舞台袖に立つおれに芽衣が「ねえねえ、四伯おじさん」と声をかけてくる。
「あのう、ずっと気になっていたんですけど」
「何がだ」
「この『メイド王決定戦!』ってちょっとおかしくないですか。だってメイドさんなのに王さまって」
「そうか?」
「そうですよ」
「うーん、言われてみればたしかにちょっとおかしかったか。ぶっちゃけあんまり深く考えてなかった。なんていうかその場のノリで『メイド王決定戦! イェーイ』ってな感じでつけただけだし。まあ、細かいことは気にするな。しょせんはお祭りなんだから。それにこれからの時代はジェンダーフリーなんだろう? だったら若いもんが男だの女だのという小さいことに囚われてどうするよ」
「……もっともらしいこと言ってるけど、ぜったいに後づけだ」
探偵と助手がやくたいもない会話をしているうちに、どうやら審査員たちの話もまとまったみたい。いよいよ結果発表となる。
◇
司会者よりマイクを預かるのは審査員長の出灰竜胆。
「髪結い着付け対決の勝者は、宇陀小路瑪瑙さん。技術の面では次点である零号さんもけっして劣ってはおりませんでしたが、瑪瑙さんの場合、完成度の高さに加えて作業中の淀みない動き、一切のソツの無さがお見事でした。なお惜しくも最下位となられたリリィさんですがきらりと光るセンスや細やかな配慮が随所にみられ、今後が楽しみな逸材です。ぜひとも今回の経験を糧としてさらなる飛躍を願うばかりです」
勝者を持ち上げ、敗者をフォローするリップサービス。
かと思いきや、出灰竜胆はしっかりとお団子頭のメイドさんを見つめて語りかけている。つまりこれは真心からの激励。
その証拠にリリィは瞳をうるうるさせながら壇上のキツネ美熟女の言葉に感激していた。リリィはメイド業に励むかたわら、美容師の専門学校に通う苦学生。いずれ近い将来、カリスマ美容師が誕生するかもしれない。
かくして二回戦も終了。
現在の戦績は……。
宇陀小路瑪瑙、一勝一分け。
零号、一敗一分け。
梁山泊、二敗。
「あれ? もう梁山泊ってばどのみち逆転の目がないよね」
などという野暮なことは言うまい。
せっかくのお祭り騒ぎ。
参加することに意義があるのだ。
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