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225 ガチャ三発目
しおりを挟む大会もいよいよ最終戦となる。
現在二連敗中にもかかわらずやたらと堂々とステージに立った千祭那津。ポニーテールを右へ左へひょこひょこ揺らしつつ、「えいや」と気合いを込めてガチャを回す。
ガコンと転がり出たカプセルの色は金。
いかに大当たりを予感させる色ではあるが、『メイド王決定戦!』なるふざけたイベントでの一事となれば、ただの当たりで済むはずもなく……。
「おおーっとこれはーっ! ラストに相応しい競技の登場です。最終戦は『メイド徒競走』だーっ!」
カプセルに入っていた紙片の内容を確認した司会者のオバちゃんが今日一の声を張りあげる。
またぞろ珍妙な競技名の登場。
観客らは一斉に首を傾げることになった。
メイド徒競走。
ようはメイドさんによる駆けっこ。ただしその手に持つは銀のトレイにて、上には湯気を立てる紅茶が入ったティーカップとソーサー(受け皿)一式を載せて。
メイド足るもの、零さず、冷まさず、速やかにお茶を運ぶべし。
たとえいかなる試練が待ち受ける悪路であろうとも!
ちなみに競技に使用される茶器は、高月城北商店街内にあるオシャレ小物雑貨店「アレキサンドライト」の提供。緑の蔓と白い花柄がキレイなスコットランド製にてお値段そこそこ。破損したら買い取りになるのでくれぐれもご注意を。
◇
コースのセッティングに少々時間がかかるので、しばしの休憩となる。
その間に観客たちはトイレを済ませ、演者たちは奥に引っ込みホッとひと息。
一方で千祭那津率いるメイド軍団は舞台袖にて円陣を組んでヒソヒソ。
すぐそばにいるおれと芽衣には目もくれやしないから、おかげで聞きたくもない裏話が駄々洩れである。
「くっ、残念ながらクイズ番組みたいに一発大逆転とかの救済措置はないらしい。盛り上がりにかけるシケた大会だ。ところでバーバラ、そっちはどんな調子なの?」
千祭那津から声をかけられたのは、ブルンとした胸元が圧倒的なカーリーヘアーのメイドさん。もじゃ頭具合がなんかエロい。
彼女こそが梁山泊きっての指名率を誇る超売れっ子の稼ぎ頭。技能系はさっぱりだがその色香で男どもをたぶらかす術にかけては右に出る者なし。
人呼んでジョロウグモのバーバラ(源氏名・本名は秘密)。
「はい、那津さま。予定されていた分のチラシと名刺配りはすでに完了しております。両商店街オーナーたちの連絡先も多数取得済み。他にもこれはと思われる有力人物たちとも接触をはかり好感触を得ています」
イベントのどさくさ紛れにちゃっかり営業をかけ、梁山泊としての広報活動では一定の成果は得た。
現状は試合に負けて勝負に勝っているようなもの。
百と八のメイドで構成された商業団体としては上々の成果ともいえよう。
だがしかし……。
「よもやこんな辺境にあれほどの猛者たちが潜んでいようとはね。とはいえこのままストレート負けはあまりにも情けなさすぎる。そこで体力勝負となるであろう最終戦は貴女に任せるわ、頼んだわよティナ」
千祭那津から指名を受けて無言でうなづいてみせたのは、ミディアムヘアーにて毛束をこさえており、ぱっと見サムライを彷彿とさせるたたずまいのメイド。
二の腕がたくましい。ガタイもいい彼女の名前はティナ(源氏名・本名は秘密)。メイド業のかたわらにて黒いジャガーの面をかぶりリングに立つ現役の女子覆面プロレスラー。得意技はリバース・フランケンシュタイナー。
◇
メイド徒競走の特設コースは高月駅北口のバスロータリーにあるステージを出発し、一直線に北を目指す。
道路を抜け、斜面を上り、小高い丘の上に建つ天神さんの拝殿前が目指すべき場所。そこに設置されたテーブルにお茶を置き、神社の鈴をガランゴロンと鳴らせばゴールとなる。
途中いくつかのトラップが走者たちを待ち受け、手にしたティーカップから中身を零させようと牙をむく。
なお本レースの模様は地元テレビ局の協力により、実況中継されてステージ上に設置された巨大スクリーンに映し出される手筈になっている。
ややこしい機械類は専門家のスタッフたちがセッティング。
それをチョコバナナをかじりながらぼんやり眺めている探偵と助手。
「よくもまぁ、テレビ局がこんな適当イベントに手を貸してくれましたね四伯おじさん、もぐもぐ」
「テレビ局とはいってもケーブルテレビだがな。連中も生き残りに必死なんだよ。喰らいつけるネタがあれば迷うことなく見境なしにガブリだ。もぐもぐ」
かつて規制緩和の波に後押しされて、あちらこちらでケーブルテレビ局が意気揚々と息吹きをあげた熱い時代があった。
しかし乱立したのはいいものの現実は厳しい。
民放は圧倒的にて国営も予算が潤沢。内容や意気込み以前に資本力が月と河原の小石ほどもの差がある。企画力やらアイデアに情熱だけではいかんともしがたく。他にも不幸な諸事情が次から次へと降りかかり、あっという間に廃れることに。
なのにしぶとく生き残り続ける高月のケーブルテレビ。
どうやって収益を立てているのかは市民の誰も知らない。
高月七不思議のひとつである。
「ところで四伯おじさんは誰に賭けたんですか? 一点限定だから悩んだ末にわたしは零号さんにしたんですけど」
「おれか? おれは大本命の瑪瑙さんだな。あのロングスカートの中に、いったいどれほどの実力を隠しているのやら。とはいえさすがに衆人環視でそれが晒すとは思えない。彼女のチカラはあくまで紗月お嬢さんのためだけにふるわれるみたいだし」
「そうなんですよねえ。わたしもそこは悩みました」
「大穴狙いでティナちゃんでもおもしろそうだったんだが」
「あー、あの方ですか。たしかに柔剛併せ持ついい筋肉をしています。とはいえ手にトレイを持った状態で走るとなるとちょっと……」
うちのタヌキ娘が褒めるぐらいだから、そこそこやれるのだろう。
しかしメイド徒競走では速さやチカラよりも安定したバランス感覚が必要とされる。
はたしてティナ嬢の実力やいかに?
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