おじろよんぱく、何者?

月芝

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304 獣王武闘会 第二試合 スラッガー

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 執拗におれをつけ狙うペンギンミサイル。
 勢いがちっとも衰えない。それどころかどういう理屈かわからないが、飛べば飛ぶほどに加速していやがる。
 しかも敵味方おかまいなし。進路上にいるものはみな危険に晒されることに。
 さらには現在の石舞台の状況が西園寺景の味方をする。
 零号が派手にばらまいたクギが多数突き刺さって、ところどころが針山みたいになっている足下。

「あっ!」

 声をあげたのはオットセイ男の甲賀信也。
 迫りくるペンギンミサイルから逃れようとして、彼はうっかりクギの頭を踏んでしまった。靴を履いているから直で刺さりこそはしないものの、足をとられて大きくバランスを崩す。

 ドンっと鈍い衝突音。
 逃げ遅れたところをペンギンミサイルによって容赦なく轢かれた。
 くるくる宙を舞うオットセイ男のカラダ。
 やがてぐしゃりと顔面から落ち、床には血だまりが……。

 ショッキングな事故の場面に客席からは悲鳴があがる。
 おれも真っ青。
 なぜなら次は我が身にて、とても他人事ではないからである。

「きさまっ」
「おのれよくも」

 この所業にいきり立つのはチームメイトである海獣の面々。
 しかし当の西園寺景はどこ吹く風にて、「バトルロイヤルなのだから、誰を倒したところで何も問題はなかろう」と言い放つ。
 当初の予定では邪魔な相手チームをつぶしてから、自分たちの間で存分に白黒つけようという段取りだったはずなのに、早々に目論みが狂う。
 これにより舞台上はより混沌を極めることになった。

  ◇

 目の前の相手と戦いつつ、飛び回るペンギンミサイルにも注意をし、なおかつ足下のクギにも気をつける。
 難易度が爆あがり。
 状況を憂いてまず動いたのは零号である。
 対戦相手のオットセイ男が倒れたのでフリーとなった彼女。クギマシンガンの照準をぶんぶん暴走しているペンギンミサイルへと向けた。撃ち落とすつもりだ。
 狙われていることをいち早く察した西園寺景、おれから零号へと即座に攻撃対象を変更。先にやっかいなネコ耳メイドを片付けようとする。

 正面から猛然と突っ込んでくるペンギンミサイル。
 零号が左腕を突き出し迎え撃つ。

 タタタタタタタタタタッ。

 軽快な音にて次々と指先から圧縮された空気にて射出されるクギたち。
 当たれば石畳にブスブス突き立つほどの威力。
 差し向いにて直撃を受ければ、さしもの猛威を奮うペンギンミサイルとてただではすむまい。
 零号の狙いは正確無比にして、タイミングもドンピシャ。
 これはかわせない、当たる!
 戦いを見ていた誰もが撃墜されるペンギンミサイルの姿をとっさに想像したはず。
 けれどもそうはならない。
 唐突にペンギンミサイルが回転をはじめる。

「皇帝拳、咎叛極とがほんきわみ

 カッと目を見開いた西園寺景。広げていた両翼を閉じ、それこそひとつの砲弾のような形状となったかとおもったら、激しくまわりはじめた。
 ペンギンミサイルがペンギンドリルとなる。
 突進力に回転が加わったことで生じる気流が膜となり、クギマシンガンの掃射を弾き返すのみならず、さらに加速。
 すべてのチカラが上乗せされ、皇帝ペンギンのクチバシに想像を絶する貫通力が宿る。
 直撃すればいかに超科学の子である零号とて危うい。
 零号はすぐさま脚部に備わるホバーリング機構を起動。回避行動を取る。
 間一髪、クチバシでの串刺しを逃れることには成功する零号。しかし本当に危うかった。その証拠にメイド服の腹のあたりをザックリ斬り裂かれてしまっていた。

 スーパーコンピューターを搭載し、軌道予測が可能な零号ですらもが、かわすのにギリギリ。
 西園寺景の「皇帝拳、咎叛極」はそれほどの脅威。
 こんな傍若無人なシロモノが暴れ回る舞台上では、のんびり戦い続けることなんて不可能。
 そこで両チームの面々は一時休戦。まずはせっかくの勝負に水を差す無粋な輩を排除することに決めた。
 一番手強いであろう者からつぶす。
 これもまたバトルロイヤルならではの展開であろう。

「共闘はけっこうだが、あんな飛ぶ凶器を止める手立てなんてあるのか?」

 おれの素朴な疑問に芽衣が挙手。

「わたしにいい考えがある。まかしておいて」

 なにやら自信たっぷりに言い切るタヌキ娘。
 しかしなぜだろう。おれはものすごくイヤな予感がしてしようがないんだが。

  ◇

 飛んでくるペンギンミサイルを迎え撃つ零号。
 向けられたクギマシンガンを己が身をドリルとすることで無効化する西園寺景。
 ここまでは先をなぞるような展開。
 だが、零号がサッと身をかわした直後がちとちがう。
 うしろにて控えていたのはバットを手にしたタヌキ娘。

「おらっ!」

 気合い一閃。
 ブゥンとメタリックボディのバットが唸る。
 ややカチあげ気味のスイングはゴルフのドライバーショットに似ている。
 かつてバッティングはボールを上から叩きつけるようにして打つのが正しいとされてきたが、近頃の研究ではすくいあげるようにしてバットを振るほうが飛距離が出るとわかって、このスイングを取り入れる選手も増えているんだとか。

 洲本芽衣は非公式ながらもかつて現役のメジャーリーガーの投手にして、最速百七十キロを誇る最強右腕ボビー・チュッパチャップマンを打ち獲っている。
 そんなタヌキ娘が手にしているのはおれが化けているチタン合金の特製バット。

 空飛ぶペンギンドリルを猛打者タヌキ娘のバットが捉えたっ!


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