おじろよんぱく、何者?

月芝

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317 獣王武闘会 準決勝第一試合 屋島と淡路

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 祗園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり。
 娑羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらはす。
 おごれる人も久しからず、ただ春の夜の夢のごとし。
 たけき者もついにはほろびぬ、ひとえに風の前の塵に同じ。

 で、お馴染みの平家一門が清盛入道の嫡男とも縁があり、平家が滅亡後には屋島寺の住職と仲良くなって、あれやこれやと世話を焼き地域におおいに貢献する。
 するといつの間にやら守護神みたいに祀られるようになっていた。
 変化の妙技もさることながら、面倒見の良さとあふれる漢気にて、ついには眷属三百を従える大将となったのは、四国は香川県高松の屋島辺りを根城とする屋島太三郎狸。

 高僧鑑真や弘法大師に感銘を受けて、四国八十八箇所の霊場巡りをしている者が道に迷っていたら助けたとか。
 仏法にのめり込むあまり「みんなで徳々積もうぜ!」と教育の場を設けては、子タヌキたちを集めてせっせと信心深く洗脳したとか。
 阿波の金長狸と津田の六右衛門狸が合戦をしているところに殴り込んで「おまえらずるいぞ。わしも混ぜろ」と乱入したりとか。いや、ちょっと待て……あれは仲裁だったか。
 数多のとんでも伝説にはこと欠かぬくせして、猟師に撃たれてぽっくりおっ死んだとおもえば、今度は幽霊になってうらめしや。人に憑いてはイタズラ三昧。
 他にも日清・日露戦争にも首を突っ込んだとかいう話もあるが、さすがにこれはウソであろう。

 かくも偉大な狸大将。
 その直系である平多紀理。
 今日も今日とて縦ロールがくるくる絶好調の金髪お嬢さまタヌキ。
 歩くたびにびよんびよん、縦ロールがバネのように優雅に揺れ跳ねる。

「オーッホッホッホッホッ」

 自信満々に胸をそらしつつ、斜め四十五度上空に顔を向けての高笑い。
 二勝一敗という微妙な局面での登場ながらも、なんら気負いなし。圧倒的な天稟を有する彼女。己が勝利を微塵も疑ってはいないのだろう。

  ◇

 月夜になれば淡路は洲本の三熊山から、楽しげな腹鼓の音がポンポコポン。
 陽気なお調子者にて、大の芝居狂いであったのが淡路の芝右衛門狸。
 浪速の中座で人気の芝居が始まると耳にすれば、必ず海を渡っていそいそ出かけ、初日から千秋楽まで小屋に通いどおし。ついでとばかりにあちらこちらにて葉っぱをドロンと小判に変えては派手に遊びまくる。
 結局は芝居好きが高じるあまり、愛妻を失い、自分も身を滅ぼすことになるのだが……。
 まぁ、紆余曲折を経て、いつのまにやら芝居の神さま柴右衛門大明神なんぞと祀られて、芸の道を志す大勢の役者たちから厚く信仰されるようになったのだから本望であろう。

 そんな芝右衛門が三大化けタヌキに数えらえているのは、やはりその化け術の妙技ゆえに。
 彼は大がかりな変化を得意としており、なかでも有名なのが大名行列。
 十万石の大名で百五十人ほどの規模となる大名行列なのだが、これが百万石のご大身ともなれば規模や桁がちがってくる。
 前田利家を藩祖に持つ加賀藩。最盛期には四千人にもおよぶ長蛇の列であったというが、なんと! 淡路の芝右衛門はこいつをそっくりそのまま再現してしまったというから驚きだ。
 しかもただの一人も顔や容姿にかぶりがないときている。
 四千もの人間に同時に化けて、それらを操り、自在に動かしては「した~に~、した~に~」と練り歩く。
 それはまさにひとつの壮大な夢芝居。

 愉快痛快、ちゃらんぽらんな伝説をいくつも残した淡路の芝右衛門。
 よもや己が子孫が華やかな舞台とは対局に位置する、血風渦巻く武の世界を拳ひとつで駆けあがろうとしているとは、思いもよらぬことであろうよ。

 かくも偉大な遊び人。
 その直系である洲本芽衣。
 中学卒業と同時に「ステキなシティガールになるの!」と実家を飛び出すあたり、阿呆の血は着実に受け継がれている。
 オカッパ頭のちんまいタヌキ娘がテクテクと舞台へとあがろうとするが、その前に腰に巻いた小さなウエストポーチの中身をチェック。中にはチョコバーやらアメ玉やら、手軽にハイカロリーを摂取できる食品類が詰め込まれてある。
 肉体を激しく行使する武術はとにかく腹が減ってしようがない。
 芽衣にとって標準装備されている空腹爆弾こそが、地味にやっかいな問題であった。その悩みを光瀬女医に相談したところ、与えられた解決策がこれであった。

  ◇

 舞台中央にて対峙する平多紀理と洲本芽衣。
 にらみ合う両者。

「ようやく、ようやくですわ。ようやくあなたを叩きのめすことができます」

 金髪縦ロールのタヌキお嬢さまは、いきなり舌戦を仕掛ける。
 対するちんまいタヌキ娘。相手を上から下までジロジロ、舐めまわすように品定めしつつ「なんかちょっとクドい」とぼそり。
 赤いバラが似合いそうなゴージャスな容姿を誇る平多紀理。ゆえに万事が派手になりがちなのだが、これを酷評されてこめかみのあたりに青筋がびきり。

 たちまち険悪になる二人の空気。
 そのタイミングで審判が試合の開始を告げた。


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