おじろよんぱく、何者?

月芝

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319 獣王武闘会 準決勝第一試合 震撃の蒼雷

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 序盤の凄まじい技の応酬から一転して中盤は静かな戦いとなる。
 両者ともにほとんど動きなし。時間ばかりが過ぎてゆくが、これに野次を飛ばすような観客はひとりもいない。
 実際に拳を交えずとも、二人が戦っているのは舞台上に満ちている闘志でわかったから。
 平多紀理と洲本芽衣、殺気、覇気、闘気、己が体内にあるあらゆる気を勢いよく吐き出しては、激しくぶつけ合っている。
 わずかにでも引いたり、押し負けたが最期、いっきに攻め込まれて持っていかれる。
 二人にもそれがわかっているがゆえに、いまや表情を取り繕うこともない。
 お嬢さまタヌキも、ちんくしゃタヌキ娘も、「シャーッ!」と全力で威嚇。

 終盤になっても高まり続ける緊張感。
 いつはじけてもおかしくない。
 もしくはこのまま三十分がすぎて引き分けに終わるのか?
 とおもわれたとき、それは鳴った。

 パァーン!

 膨らませた紙袋を手でパンと割ったときの音。
 何者かの仕業かはわからない。けれども明らかにこの局面を動かすために行われたことと、そこに込められた悪意だけはたしか。

 すかさず音に釣られて反応したのは平多紀理。
 溜め込んでいた気を一挙に解放し放つのは……。

「屋島蓑山流四十八霊、絶技・冥穴」

 地崩しにて地を制し、天崩しにて天を制し、人崩しにて人を制す。
 天地人を制し、ついには天地明察にて自在に反転させるに至る。
 世界の果てに行きついた先、ぽっかり口を開けて待つのは、あらゆるものを呑み込む冥府へと通じる穴。
 平多紀理を中心にして闇が渦を巻く。
 かといって本当に穴が出現したわけではない。己が領域内を完全に掌握し支配したがゆえに起こった現象。空気、気流、気圧どころか光すらもが影響を受け反射され屈折していたのだ。そしてこれほどの現象を引き起こす穴は、さながらブラックホールのごとく周囲のものを轟々と呑み込みはじめた。
 石畳みの一枚が剥がれてふわりと浮いたとおもったら、穴へと吸い込まれる。
 するとたちまち闇にまぎれて粉砕されて塵と化す。
 いったい内部にてどれほどの凄まじいエネルギーが暴れているのか。あんなシロモノに喰われたが最期、生身なんてたちまち挽肉にされてしまうことであろう。

  ◇

 絶技・冥穴を前にして、芽衣は両足をしっかり開いて踏ん張り、腰を深く落とす。
 内なる昂りを鎮め、呼吸を整え、心臓の鼓動と重ねつつ、体内にタヌキの悶々パワーを巡らせながら、静かにつぶやく。

「狸是螺舞流武闘術、終の型、唯我独尊派生・震撃」

 たちまち芽衣のオカッパ頭が逆立ち、全身に蒼光を帯びた。
 一度に体内の全闘気を開放、爆発的なチカラを発揮し限界突破をする技が唯我独尊。しかしこれはバケツをひっくり返したような運用方法にて、どうにも効率が悪い。
 そこでチカラを解放しつつ量を調整し、より賢く使おうというのが派生・震撃。チカラに指向性を持たせ、自在に操ることで、無駄を失くすだけでなく、瞬間最大出力を飛躍的に爆上げすることも可能。

 じょじょに色味を増す蒼さ。強くなる輝き。
 やがて直視できないほどにまで眩くなるも、急にその光がしぼみ出した。
 ではしぼんだ光たちはどこへ?
 答えは芽衣の左腕にあった。肘から先が異様に青白く、眩しいけれども、目が痛くならない。月夜の雪原のようなおだやかな明かり。
 左腕に集約された蒼光が煌々と、煌々と……。

  ◇

 互いに準備が万端整ったところで、どちらからともなく叫ぶ。

「「いざ、尋常に、勝負っ!」」

 舞台中央にて蠢くは黒い半球体の冥穴。
 そこに向かって雷光が疾走する。
 たちまち蒼き閃光が闇に呑み込まれて消える。
 と思った次の瞬間、冥穴の表面に線が走り真っ二つに斬り裂かれる。

「狸是螺舞流武闘術、断の型、まな板透し」

 手刀により一刀両断。切れ味すごく魚のみならず下のまな板ごと斬る。鯛どころかマグロ級でもズバッとね。
 唯我独尊派生・震撃の恩恵により高出力ブレードと化した芽衣の手刀。
 平多紀理の縦カールのひとつごと絶技を、斬っ!
 難攻不落の平多紀理城、ついに陥落す。

 その才気ゆえにほとんど他者からの攻撃を受けたことがなかった天才。
 生まれて初めて体験する衝撃はあまりにも凄まじく、全身を駆け巡るダメージにて薄れゆく意識。「このわたくしが負ける? そんなバカ……な……」
 これにより己の敗北を悟らざるをえなかったタヌキお嬢さま。
 しかし最後にひと意地をみせる。
 もはや勝敗は決したと油断した芽衣。それだけたしかな手ごたえと自信があったのだろうが、残心を怠った小娘の襟首を倒れながらにむんずと掴んだ平多紀理。死なばもろともとばかりに投げを放つ。

「あっ」

 マヌケな声を発したのは芽衣。
 気づけばくるくる宙を舞っていた。
 で、すとんと見事に着地を決めるも、そこは舞台の外であった。

 かくして大将戦は平多紀理がノックアウト、洲本芽衣が場外となり、引き分けとなる。
 獣王武闘会、準決勝第一試合。
 二勝一敗一分けにより、勝者、チーム・尾白探偵事務所。


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