おじろよんぱく、何者?

月芝

文字の大きさ
343 / 1,029

343 第三次大遠征計画

しおりを挟む
 
 ここのところ高月市内の雰囲気がおかしい。
 特に東西を横断している国道周辺の空気が妙にピリついていやがる。
 訝しむおれのもとに駆け込んできたのは、情報屋をしているアナグマのショーン。

「やべえぞ、尾白のだんな。ケヤキ自由連合がついに動くらしい」

 自由と平等と怠惰を標榜するケヤキ自由連合にとって、何よりも打倒したい相手がシティ・サバイバーに圧政を強いるハイゼルコバ帝国。
 過去に二度大遠征を仕掛けるも、どちらも勇将と優れたダンボール戦士を多数有する帝国軍に撃退されてきた。
 三度目の正直とばかりに着々と準備を整えていたのはおれも知っていた。
 というか、動物界隈では知らぬ者を探す方がムズカシイぐらいに有名な話。
 両陣営は水と油の関係。いずれ起こる戦いは避けようがない。
 しかしどうして今なんだ?
 いったい水面下で何があったというのか?

 そのタイミングで尾白探偵事務所にも依頼が舞い込む。
 依頼人は花伝オーナー。

「おい四伯。あんた、ちょいと河川敷にまで様子を見に行ってきておくれ」

 帝国と自由連合が戦争をするのはかまわない。
 けど無闇に巻き込まれるのは困る。
 そこで連中の準備がどんな塩梅なのかと、出来れば開戦日時、あとついでにどうして急に遠征を思い立ったのかなどなど。
 いろいろ聞いて来いとおっしゃる花伝オーナー。

「えっ、殺気立ってるエテ公の群れに突っ込めとか、そんなご無体な」

 戦前の血祭りじゃあーっ!
 戦勝祈願の生贄じゃあーっ!
 とかされてはたまらない。
 だからおれは丁重にお断りしようとするもダメだった。

  ◇

 いちおう用意した塩大福の菓子折りを手に陣中見舞いを装って、おれと芽衣は河川敷にてたむろしているケヤキ自由連合のところへと向かう。
 どうにも気乗りがしない。重い足取りのなか不機嫌そうにおれがタバコをくわえていると、隣を歩く芽衣がこちらを見上げてくる。

「ねえ、四伯おじさん。過去に起こったというダンボール戦役ってそんなにすごかったんですか?」
「らしいな。おれもまた聞きの上、関連本で知っているだけだが……」
「あー、事務所の棚の肥やしになっている自費出版のアレですね。わたしも適当に目を通したんですけど、あれって本当なんですかねえ」
「さあな。まぁ、しょせんはエテ公の、というか毛むくじゃらが語る歴史なんざ適当まじりの嘘八百と相場が決まっている。おまえの淡路の実家にも先祖が書いたとかいう郷土史の本があるが、あれもたいがいひどかったぞ」

 仏教を日ノ本に伝来したのはタヌキだったとか、源氏物語の主人公・光源氏のモデルはタヌキだったとか、平家を率いた清盛入道の髪を剃ったのはタヌキだったとか、元寇のおりに神風を吹かせたのはタヌキだったとか、徳川家康はタヌキだったとか、ライト兄弟よりも先にタヌキは玉袋を広げて大空を自在に飛んでいたとか、恐怖の大王は予告通りにちゃんと降ってきたのにペシンと叩いて追い返したのがタヌキだったとか……。
 歴史的偉業はすべてタヌキが成したという、大言壮語もここに極まれり。あきれてヘソで茶が沸きそうな内容。
 はじめのうちは腹を抱えて笑って読んでいたが、じきに著者が本気っぽいと気づいてからはなんだか読み進めるのが怖くなったことを、おれはいまでもよく覚えている。
 狂タヌキの狂気に触れていると、自分まで浸食されて頭がおかしくなりそうな錯覚に襲われるのだ。

「だから毛玉の書いた本なんぞは読まないことだ。あれならネットの都市伝説サイトの方がよっぽどタメになるぞ」

 そんな酷評でもって話を強引にまとめたところで、おれたちは河川敷に到着。

  ◇

 物々しい雰囲気の中、ダンボールで武装した衛士に用件を伝えると、迎え入れてくれたのは第三次大遠征軍を率いる大将軍・結城現代ゆうきげんだいであった。
 よりにもよって一番えらい人みずから。すっかり恐縮しているおれと芽衣に、大将軍がガハガハ豪快に笑う。

「なあに、花伝さんの名代とあらばワシがお相手をせねば失礼というもの。して、何か訊ねたいことがあるとか」

 相手が上機嫌なうちに、おれは聞くべきことを聞く。
 だが、ことが急に遠征を思い立った理由へとさしかかったところで、芽衣ともども顔面蒼白となる。
 だって大将軍はよりにもよってこう言ったのだから。

「帝国の者ども。我らを下着ドロボウ呼ばわりしよってな。さすがにこれは腹に据えかねたというわけだ」

 少し前に高月中央商店街周辺にて続発していた下着ドロボウ。
 事件の裏にはいろいろ事情があったのだが、これを解決したのは誰あろう我が尾白探偵事務所である。

「四伯おじさん、四伯おじさん、これってもしかしてアレが原因なんじゃあ」

 心当たりがありまくり。
 動揺する芽衣をおれは「しっ」と黙らせる。
 あの一件、犯人はどこぞのスケベ猿の仕業ということにしてお茶を濁したのだが、よもやそれが巡りめぐって第三次大遠征の引き金となろうとは。
 いったい誰が予想しえたであろうか。
 やっべー、どうしよう……。


しおりを挟む
感想 610

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

にゃんとワンダフルDAYS

月芝
児童書・童話
仲のいい友達と遊んだ帰り道。 小学五年生の音苗和香は気になるクラスの男子と急接近したもので、ドキドキ。 頬を赤らめながら家へと向かっていたら、不意に胸が苦しくなって…… ついにはめまいがして、クラクラへたり込んでしまう。 で、気づいたときには、なぜだかネコの姿になっていた! 「にゃんにゃこれーっ!」 パニックを起こす和香、なのに母や祖母は「あらまぁ」「おやおや」 この異常事態を平然と受け入れていた。 ヒロインの身に起きた奇天烈な現象。 明かさられる一族の秘密。 御所さまなる存在。 猫になったり、動物たちと交流したり、妖しいアレに絡まれたり。 ときにはピンチにも見舞われ、あわやな場面も! でもそんな和香の前に颯爽とあらわれるヒーロー。 白いシェパード――ホワイトナイトさまも登場したりして。 ひょんなことから人とネコ、二つの世界を行ったり来たり。 和香の周囲では様々な騒動が巻き起こる。 メルヘンチックだけれども現実はそう甘くない!? 少女のちょっと不思議な冒険譚、ここに開幕です。

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

蔑ろにされましたが実は聖女でした ー できない、やめておけ、あなたには無理という言葉は全て覆させていただきます! ー

みーしゃ
ファンタジー
生まれつきMPが1しかないカテリーナは、義母や義妹たちからイジメられ、ないがしろにされた生活を送っていた。しかし、本をきっかけに女神への信仰と勉強を始め、イケメンで優秀な兄の力も借りて、宮廷大学への入学を目指す。 魔法が使えなくても、何かできる事はあるはず。 人生を変え、自分にできることを探すため、カテリーナの挑戦が始まる。 そして、カテリーナの行動により、周囲の認識は彼女を聖女へと変えていくのだった。 物語は、後期ビザンツ帝国時代に似た、魔物や魔法が存在する異世界です。だんだんと逆ハーレムな展開になっていきます。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

転生小説家の華麗なる円満離婚計画

鈴木かなえ
ファンタジー
キルステン伯爵家の令嬢として生を受けたクラリッサには、日本人だった前世の記憶がある。 両親と弟には疎まれているクラリッサだが、異母妹マリアンネとその兄エルヴィンと三人で仲良く育ち、前世の記憶を利用して小説家として密かに活躍していた。 ある時、夜会に連れ出されたクラリッサは、弟にハメられて見知らぬ男に襲われそうになる。 その男を返り討ちにして、逃げ出そうとしたところで美貌の貴公子ヘンリックと出会った。 逞しく想像力豊かなクラリッサと、その家族三人の物語です。

消息不明になった姉の財産を管理しろと言われたけど意味がわかりません

紫楼
ファンタジー
 母に先立たれ、木造アパートで一人暮らして大学生の俺。  なぁんにも良い事ないなってくらいの地味な暮らしをしている。  さて、大学に向かうかって玄関開けたら、秘書って感じのスーツ姿のお姉さんが立っていた。  そこから俺の不思議な日々が始まる。  姉ちゃん・・・、あんた一体何者なんだ。    なんちゃってファンタジー、現実世界の法や常識は無視しちゃってます。  十年くらい前から頭にあったおバカ設定なので昇華させてください。

処理中です...