おじろよんぱく、何者?

月芝

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446 拳とハニーレモン

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 いきなり一本釣りをされて、気がついたらおれは浜辺に乱立する竹のうちの一本にしがみついていた。
 地上までの高さは小学校の校庭にある昇り棒程度だが、妙に生々しい高さが逆におっかない。

「いったい何のマネだ、このクソババア! あっ、ウソです。ごめんなさい。だから揺らしちゃイヤっ!」

 暴言を吐いたら繋がったロープを引っ張られて、おれの身が掴まっている青竹ごと前後左右に大きくしなって、ぐいんぐいん。

「なぁに口で説明するよりも実際に見せたほうが手っ取り早いとおもってね。あんたたちもよぉく見ておきな。今回の修行、まずはこの上で戦ってもらう」

 地面ではなくて竹から竹へと跳び移っての「落ちたら負けよ」の変則試合。
 ただしそれだけじゃあおもしろくないので、いくつかのオマケつき。
 オマケその一。
 お互いの身をロープで結んでのデスマッチ。
 オマケその二。
 奥義禁止。復帰したばかりの者もいるので大怪我をしては元も子もないのと、まともにやり合うと周囲への影響が危惧されるので。みだらに環境を破壊するのはダメ絶対!
 オマケその三。
 負けたら罰ゲーム。内容はその都度クジ引き。何が当たるかはお楽しみ。

 すらすら一方的に通達を済ませた葵のバアさん。

「それじゃあ、まずはデモンストレーションの模擬戦といってみようか」

 言うなり漁業用カッパ姿の老婆の身がぴょんと跳ねた。

  ◇

 全身ずぶ濡れとなったおれはその姿ままで最寄りの自動販売機へと向かっていた。
 デモンストレーションの結果?
 ご覧の通りだ。ちなみに罰ゲームは「パシリ」である。
 あっさりやられるとは、なんと不甲斐ない?
 いやいやいや、これでもおれはけっこう健闘した。
 一方的にボコられ、おちょくられるばかりなのも業腹ゆえに、「ならば、変化っ!」
 ドロンと化けたのは大きな糸車。ぎゅるぎゅるロープを巻き取ってから、死なばもろともと砂浜に落っこちてやろうとする。しかしあえなく失敗。逆に独楽のように回されて「あーれー」となって、目をまわしてふらふらになったところをポコンと蹴り飛ばされた。そして二人を結ぶロープはぷつんと切れて、おれだけが海にどぼん。

「ちくしょう。海水浴場の境界線の向こう沖まで蹴飛ばすなんて。怪我をしては元も子もないとかほざいていたくせに。あやうく土左衛門になるところだったじゃねえか」

 ぶつくさ言いながら小銭を投入しては、ペットボトル飲料を次々に購入。

「えー、芽衣が炭酸で、桔梗は紅茶、タエちゃんはミネラルウォーター、トラ美とゴリマッチョはスポーツドリンク、玲花はオレンジジュース、ババアがほうじ茶、キリンの姉ちゃんはカフェオレ系で、あと四国のお嬢さまとあのツッパリツンツン頭は……えーと何だったけか」

 ど忘れしたおれが自動販売機を前に首をひねっていたら、背後から「レモンティーとひやしあめ」との声。
 ホスト役のうちのひとり、芽衣の幼馴染みのタヌキ青年の榎列一樹であった。

「おっ、そうだったそうだった。わざわざきてくれてサンキュウ、一樹」
「ふん、弥生がいけってうるさいから」

 イガグリ頭がむっつり顔にてペットボトルを持つのを手伝ってくれる。
 勘の鋭い方ならばこれでピンとくるかもしれないが、この榎列一樹は幼馴染みの倭文弥生に昔からぞっこん。
 これでもしも芽衣を加えた幼馴染み三人による三角関係が成立すれば、砂糖を吐くかのごとき甘々ハニーレモンな青春白書となるのだが、あいにくとうちのちんくしゃタヌキ娘の主成分は食欲で出来ている。ぶっちゃけとんだお邪魔虫でしかない。
 そんなお邪魔虫が島を出たのだから、少しは進展があったのかとおもいきや……。

「なんだよ一樹、おまえ、まだ弥生に告ってねえのか」

 浜への返り道。いきなり遠慮のない言葉をおれがぶん投げたら、動揺した一樹がペットボトルをいくつかボトボト落とし、あわわわわ。

「いや、何度も告ろうとはしたよ。でもそのたびにはぐらかされるんだから、しようがないだろう」

 落ちたペットボトルを拾いながら、一樹がぼそぼそ。
 おかげさまであいも変わらず、つかず離れずの関係が続いていると。
 なんとももどかしく煮え切らない二人。
 美しく成長している倭文弥生。どうしても耳目を集めるがゆえにちょっかいを出す輩も増えるから、一樹も気が気ではいられないだろう。

 意中の女の態度に煩悶としている島の青年。
 その姿を眺めながら「しっかり青春していやがるなぁ」とおっさんは目を細める。
 うぅ、若さがまぶしいぜ。

  ◇

 青年の悩みに甘酸っぱい気持ちとなり、おれはちょっとウキウキしながら戻るも、浜の景色を見た瞬間にそんなモノはあっさり消し飛んだ。
 地面にめり込んだたくさんの青竹の上にて跳ねては、宙を飛び交い「アチョウ」と戦っている人化した動物たち。
 どいつもこいつも負けず嫌いですぐにムキになるものだから、早くもビーチには殺伐とした雰囲気が漂い始めている。

「うん、少なくとも今回の強化合宿では進展は見込めそうにないな」

 おれのつぶやきに、「そんなもん、はなから期待してねーよ」と一樹もうなづいた。


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