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447 竹修行
しおりを挟むにょきにょき地面よりのびている竹の上での試合。
変則的なフィールドに苦戦しているのは佐藤晋太郎。ゴリラ拳闘士は大柄な体躯が仇となり、どうしても動きが制約を受ける。拳主体の戦闘スタイルも踏ん張りがきかないので、ここではせいぜい三割ほどしかチカラをふるえない。
一方で対戦中の弧斗羅美は同じ大柄タイプながらも、竹の上でも動きがけっこう軽快。
トラと竹林の相性がいいのは有名。ネコ科の身軽さと相まって上手に竹のしなりを利用している。
結果として跳びかかってくるトラ美をゴリラ男が迎え討つ場面が多くなる。
かといってあまり一か所に長くとどまっていると体重にて青竹が折れるなり、倒れるなりしてしまうから、じっと守りには徹していられないゴリラ男。
この流れのままに勝負が決まりそうではあるが、それをさせないのが互いの腕と腕に結ばれたロープ。
引いたり緩めたり絡めたり。
使い方次第で形勢を逆転させるアイテムとなるからやっかいだ。
事実、ゴリラ男はこれを波打たせ、ムチのように扱ってはトラ美の攻撃を阻害している。環境をいかに味方とし、攻撃手段にとり込むか。知恵比べなる駆け引きも加わり、静かだが次第に激しくなってゆく攻防。
◇
状況を的確に把握しつつ、より戦いを有利に進めようとしている連中がいる一方で、あえてそれらをフル無視して戦っている組もあった。
金髪リーゼントのヘビ娘・白妙幸とツンツン頭のタヌキ娘・安房野弁天のところ。
この二人、示し合わせたかのように互いにロープを手繰り寄せ、ついには一本の竹に相乗りとなり、零距離でのド突き合いに突入する。
手足の長いヘビ娘、こいつを最大限に活かしての拳打と膝蹴りのラッシュ。
「この、この、この、とっとと落ちてくたばりやがれ!」
リーチに劣るタヌキ娘、攻撃を巧みに受け流しつつ隙を見つけてしっかり殴り返す。
「やかましいき、おんしゃあこそ、はやくたばれ!」
双方、自慢の髪型が乱れるのもおかまいなし。
激しくゴン、ガン、ドン!
それでも互いに必死に竹にしがみついての意地の張り合いが続く。
◇
この変則マッチで異彩を放っていたのがキツネ娘の出灰桔梗。かつて「禍つ風」の異名にて高月の地で辻斬りをしていた才媛。優れた身体能力と体幹の持ち主にして、戦いのフィールドが平面ではなくなったことで本来の持ち味が存分に活かされることになり、重力の枷から解放されたかのように縦横無尽に竹の上を舞い踊る。
リベンジマッチを申し込まれ、堂々と受けてたったタヌキお嬢の平多紀理は、奥義が使用不可ということもあり、苦戦をしいられる。
それでもタヌキお嬢とて稀代の天才の名を欲しいままにしてきただけあって、まるでサルか忍者のごとき華麗さで竹の間を縫うように動く。
ただキツネ娘の宙での身のこなしがその上をいっていた。
黒い風となって竹林を自在に駆け抜ける出灰桔梗。
ロープをリードがわりにしてどうにか相手の動きを封じ、組み合いに持ち込みたい平多紀理であったが、するりとすり抜けられては通りすがりに鋭い一撃を見舞われる。からくも決定打にならぬように処理するが、のばした手は虚しく空を掴むばかり……。
「今回は勝たせてもらいます」
「なんの、そうたやすくはいきませんわよ」
◇
ちんくしゃオカッパ頭のタヌキ娘の芽衣と対峙していたのは、モデル体型のキリン女・鈴木夏帆。
序盤、一方的に押していたのはキリン女。
ロープをぐいとチカラまかせに引く。小柄な芽衣は軽々と宙を舞っては引き寄せられる。
だからそれを利用して跳び蹴りを喰らわせようとするタヌキ娘。
これを迎え撃つのはキリン女の蹴り。
両者の足の長さの優劣は一目瞭然にて、槍とドスを正面から突き合わせるようなもの。
「ぐえっ」
腹に突き刺さるキリン女のつま先に、タヌキ娘がうめき声をあげる。
引き寄せられては蹴飛ばされるを繰り返すこと三度。
もともと足技を得意としているキリン女の蹴りは強烈にて、ついにはぐったりとなった芽衣。その姿に、はじめからずっとこの戦いを見守っていた倭文弥生と弧斗玲花がそろって「「あぁっ!」」と悲痛な声をもらした。
そして早くも勝機到来とばかりにキリン女が四度目の攻撃。カカト落としにて地面に叩き落とそうとする。
だがいささか勝負を急ぎすぎた。
とってもタフなタヌキ娘はやられたフリをしながら、ずっと機会を伺っていたのだ。対戦相手が油断して大振りとなる瞬間を。
迫るカカト落としを脱力状態にてひらりとかわし、会心の一撃。
とはいえ奥義を封じられているので必殺とまではいかない。
それでも横っ腹をズドンとやられたキリン女はたまらず悶絶。あやうく竹を掴んでいる手を放しそうになって、あわててしがみついた。
これよりタヌキ娘とキリン女の戦いは一進一退となってゆく。
◇
これらのひと筋縄ではいかない戦いを見守りながら大声でわめき散らすのは鬼教官ならぬ鬼ババアの洲本葵。
「おらおら、ちんたらやってんじゃないよ! どんな状況下でもそれなりに動けるようにならなきゃ、いざってときにあっさり殺られちまうぞ。いつでもどこでも誰とでも。常在戦場の心得なんざぁ、持ってて当たり前なんだから」
コレこそが今回の修行の意図であったよう。
うーん、とんだ修羅の道!
武才がないからと早々に破門されておいて正解だったと、おれこと尾白四伯はしみじみ思わずにはいられない。
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