おじろよんぱく、何者?

月芝

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569 ブルーとキツネ

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 七宝院グランモールの二階、衣類や宝飾品などの店舗がずらりと軒を連ねる艶やかな商業エリアで起こっていたのは拍手と歓声。
 その中心にいたのはピンポンブルーである。

 ピンポンブルーは風を味方とし、ハングライダーにて街の空を自在に飛ぶ戦士。
 だがイベント会場は七宝院グランモールの建屋内、これではさしものブルーも自慢の翼を広げようがない。
 対してこの階を担当するキツネ娘こと出灰桔梗は可憐な見た目によらず、かつて「禍つ風」の異名にて市内を暴れ回ったほどの猛者。彼女が身につけた狐崑九尾羅刃拳ここんきゅうびらじんけんは、屋内や障害物が多いところほど本領を発揮する武。ゆえに独壇場になるかとおもわれたのだが……。

 キュイーン、キュルキュルキュル。

 低いモーター音と車輪が回転する音を引き連れて、フロア内をシャーッと疾走するのは一台の電動スケートボード。
 どこかで見たような品に乗っているのはピンポンブルー。
 風乗りが得意な彼は、波乗りもイケる口にて、ついでにスノーボードやらスケートボードなどもお手の物であった。
 そこでブルーが屋内用の第二の翼として用意したのが電動スケートボード。
 あのアニメやマンガを見た少年少女たちがみな「あったらいいなぁ」「欲しいなぁ」「乗ってみたいなぁ」と憧れていた夢のアイテム。そいつを自作しての参戦!
 ちなみにイチから制作するのはさすがに大変なので、電動キックスケーターの棒から上を根元でちょん切って、アレコレいじって改造し実現した。

 最高時速五十四キロメートルにて爆走し、耐荷重は八十キログラム、バッテリーはフル充電で三時間少々。
 本体デザインがややずんぐりむっくりにて、ちょいとダサいのが珠に傷だが、性能は申し分なし。

「ズルいぞ、あんなのアリかよ!」

 という抗議の声はさらりと受け流し、あっけにとられている参加者らの合間を縫っては、プッシュ、ブレーキ、ターン、チックタック、エンドオーバー、スピンの基本技からボードを横回転させるショートビット系、ジャンプを駆使するオーリー系などなど。
 華麗なるテクニックを披露しつつ、次々とボタンをピンポンしまくってはポイントを重ねていくピンポンブルー。圧倒的機動力にてフロアを席捲する。

 負けじとポイントを重ね懸命に追いすがる桔梗ではあったが、足下のフットペダルの操作のみにて緩急のみならず急制動が自在なマシンを駆るピンポンブルーに、早くも苦戦を強いられていた。
 ポイントが追いつくよりも、引き離されるペースの方が速い。

「くっ、巧い。マシンの性能だけじゃない。なんというボードさばき。このままだと先行を許し、ボタンを狩り尽くされてしまう。ならばっ」

 意を決した桔梗が手をのばしたのは、最寄りの衣料品店の店先に展示されてあったローラーブレード。
 おしゃれでポップでカジュアルなデザインは店オリジナルの品。日常のファッションシーンのひとつを彩るアイテムとしてご提供。
 そいつを引っ掴むなり、ちゃちゃっと装着する。

  ◇

 騎馬武者が人馬一体となりて戦場を駆けるように、ボードと一心同体と化した青の戦士。他の追随を許さず。
 独走状態となったピンポンブルー。
 しかしふいに背後から迫る気配を感じて、ふり返りギョッ!
 長い黒髪を揺らしながら猛追していたのは、ローラーブレードを履いた可憐な美少女。前かがみとなり身を低くしならが轟っと風切り進む姿は、さながらスピードスケートの選手のような勇ましさ。

「ほう、ローラーにはローラーで対抗するというわけか。なかなか思い切ったことをする。だが、付け焼刃のテクニックでこの私に勝てるかな」

 言うなり直角に曲がったピンポンブルー、廊下から紳士服礼服などを扱う店へと突入する。
 追う桔梗もこれに続く。

 店内は落ちついたシックな内装。ハンガーラックにずらりと並ぶのは手頃な既製品。奥の壁際には高級ブランド品が飾られてライトアップされている。他にもワイシャツやネクタイ、関連する小物類などを展示してある棚や台が整然と配置されている。
 まだ本オープン前ながらも、すでに準備万端といった様子。

 並んで配置されているハンガーラックの列の間を突き進むピンポンブルー。
 上下セットのスーツたち。その足下にボタンを見つけ、通り抜けざまにしゃがんでピンポーンとひと押し。
 けれども近くに飾られてあったマネキンの頭頂部にあったボタンにはタイミングが合わずに、スルーする。
 その時のことであった。
 不意に影が差したもので、見上げたピンポンブルーはクワッと目を見開き「なんだと!」
 視線の先ではローラーブレードを履いた乙女が華麗に宙を舞っていた。
 軽やかな羽のごとき動きにて、自分がとり損ねたマネキンのボタンを押して見せる。

 以降、互いに一歩も譲らず。
 ピンポンブルーと出灰桔梗は右棟をいっきに駆け抜け、中央塔へと到達。
 この時点での成績はピンポンブルーが四十四、出灰桔梗が四十一。


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