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594 超古代展
しおりを挟むヒョウ柄の生息地である大坂と、魑魅魍魎が跋扈する千年王都である京都。
その狭間の地にちょこんと存在しているのが、高月という土地。
どちらに向かうのにも便利なので、近年はホームタウンとしてそこそこ栄えているが、あくまでそこそこである。
そんな高月なのだが分不相応な存在がある。
二つのデパート。
街や商圏規模なんぞを考えたら、これはかなりおかしなこと。だが理由は誰も知らない。
そのせいで高月七不思議のひとつに数えられているほど。
ちなみに他の七不思議は、「なぜだか潰れずしぶとく生き残り続けているケーブルテレビの怪」「ケーキショップ幸蔵のパティシエの正体」「鏡の国のマリーさん」などが数えられるが、詳しくはまたべつの機会に……。
いささか話が横道にそれたので元に戻そう。
二つのデパートは駅を挟んで北と南に陣取っては、四六時中、角を突き合わせている。
南にあるのが中高齢層をメインターゲットにしている亀松百貨店。
ターゲット層が小金を貯め込んでいるアダルトなので、華やかさよりも落ちつきを意識した内装。あつかう商品も一時の流行を追うのではなくて、長く愛用されるたしかな品がコンセプト。
定番を追求する渋い経営方針である。ゆえに不況に左右されることは稀だが、どうしても地味さは拭えない。
だがそんな亀松百貨店が、俄然、世間どころか世界中の注目を集めたことがあった。
『世界のハイヒール展』なるイベント。
イベントにあわせて来日したトップモデル・ルクレツィア・ギアハートの人気とも相まって、それはもうすごいバズリよう。地域をあげてのお祭り騒ぎとなったものである。あの日、あの時、あの瞬間、世界はたしかに亀松百貨店を中心にまわっていた。
おかげさまで「はぁ、高月ぃ? どこだ、それ?」状態であったのが、一躍、知名度激アップ!
これに地元の人間たちや市政にかかわる者たちが、いったいどれほどよろこんだことか。
だがしかし、光が強くなればなるほどに落ちる影はより暗く濃くなるのが世の常。
よろこぶ者がいる一方で、「キーッ、くやしい~」と地団駄を踏んでいる者たちがいた。
それが駅の北側にある兎梅デパートの関係者たちである。
兎梅デパートは若者をターゲット層にした経営戦略に特化。流行の発信地を自認しており、つねに華やかなオシャレ街道をひた走ってきた。
それが抹香クサい茶色のライバルにお株を奪われてしまった。
はっきり言って屈辱以外の何ものでもない。
「おのれ亀松百貨店め。この恥辱、無念、けっして晴らさずにおくべきか。いまに見てろよっ!」
と、悔しさのあまりギチギチ歯ぎしりをしすぎたせいで、支配人の歯がボロボロに。入れ歯かインプラント手術かのどちらかで、かなり思い悩んでいるとかいないとか。
なんとしても一矢報いるべし。
デパートの支配人の大号令のもと、連日、会議が開かれては夜遅くまで対抗策を模索する兎梅デパート陣営。
イベントの企画立案にて喧々諤々、紛糾する会議室。
ときにイラ立ちのあまり、怒号どころか手が出る足が出る、灰皿も飛ぶ、机やイスが倒れ転がることも。
そうしてこねくりこねくり、どうにかしてひねりだし、開催へとこぎつけたイベントが……。
◇
兎梅デパートの壁面いっぱいに掲げられた大看板には『超古代展』の文字。
大迫力の恐竜の化石、骨格標本、動くロボット模型、人が入っては操る着ぐるみが会場を練り歩き会場に華を添え、その筋では神と称えらえる専門家が講演会を開いたり、豪華景品が貰えるクイズ大会が催されたりと、イベント盛りだくさん。
だが一番の売りは、なんといっても氷漬けのマンモス。
シベリアの永久凍土から発掘されたというマンモスの母子。
ずっと氷漬けにされていたこともあって、保存状態は極めて良好。ほぼ原型を保っている。
それを間近でじっくり拝めるとあって、古代好きたちは狂喜乱舞。
おかげでイベント初日の開始前から長蛇の列である。
ちなみに入場料は、大人二千円、子ども千円。けれども市内在住者にかぎり、これが半額になるとあって、「せっかくだから」と足を運んでいる高月の住人も多い。
そんな列に男ひとりでまじっているのは、おれこと尾白四伯。
なぜかといえばタダ券を手に入れたからだ。
ドブ掃除を手伝ったら「お駄賃だ」と商店街の会長からもらった。しかしおれは過去にはこだわらない探偵。遥か古代になんぞはなんら思い入れもないので、すぐさま手に入れたチケットを金券ショップに横流ししようとしたのだが、買い取りを拒否された。
金券ショップの店主いわく。
「悪いな尾白さん、会長からのキツイお達しでね。俺もまだ命が惜しい」とのこと。
本職よりも本職っぽいガラの悪い会長。アレに詰め寄られて、凶相にてすごまれてはしようがない。
そこで芽衣に五百円で売りつけようとするも、うちのタヌキ娘はすでにチケットを持っており、逆に八百円で買わされそうになる。
ちっ、兎梅デパートめ、サクラを動員すべくけっこう派手にあちこちにタダ券をばら撒いた模様。
これではとても売りさばけそうにない。
かといってくしゃりと丸めてゴミ箱に放り込むのも気がひける。会場は探偵事務所のある雑居ビルから目と鼻の先。
「しゃーない、話のネタにちょいとのぞいておくかな」
かくしておれは重い腰をあげたという次第である。
「しかし、なんで『超古代展』なんだ? 兎梅デパートらしくないなぁ。まさかとは思うけど、亀松百貨店にお株を奪われた腹いせとかだったら、あまりにもアイタタなんだが……」
悔しさのあまり迷走する兎梅デパート。大丈夫なのかとちょっと心配。
未来に垂れ込める暗雲に、おれは眉間を寄せずにはいられない。
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