594 / 1,029
594 超古代展
しおりを挟むヒョウ柄の生息地である大坂と、魑魅魍魎が跋扈する千年王都である京都。
その狭間の地にちょこんと存在しているのが、高月という土地。
どちらに向かうのにも便利なので、近年はホームタウンとしてそこそこ栄えているが、あくまでそこそこである。
そんな高月なのだが分不相応な存在がある。
二つのデパート。
街や商圏規模なんぞを考えたら、これはかなりおかしなこと。だが理由は誰も知らない。
そのせいで高月七不思議のひとつに数えられているほど。
ちなみに他の七不思議は、「なぜだか潰れずしぶとく生き残り続けているケーブルテレビの怪」「ケーキショップ幸蔵のパティシエの正体」「鏡の国のマリーさん」などが数えられるが、詳しくはまたべつの機会に……。
いささか話が横道にそれたので元に戻そう。
二つのデパートは駅を挟んで北と南に陣取っては、四六時中、角を突き合わせている。
南にあるのが中高齢層をメインターゲットにしている亀松百貨店。
ターゲット層が小金を貯め込んでいるアダルトなので、華やかさよりも落ちつきを意識した内装。あつかう商品も一時の流行を追うのではなくて、長く愛用されるたしかな品がコンセプト。
定番を追求する渋い経営方針である。ゆえに不況に左右されることは稀だが、どうしても地味さは拭えない。
だがそんな亀松百貨店が、俄然、世間どころか世界中の注目を集めたことがあった。
『世界のハイヒール展』なるイベント。
イベントにあわせて来日したトップモデル・ルクレツィア・ギアハートの人気とも相まって、それはもうすごいバズリよう。地域をあげてのお祭り騒ぎとなったものである。あの日、あの時、あの瞬間、世界はたしかに亀松百貨店を中心にまわっていた。
おかげさまで「はぁ、高月ぃ? どこだ、それ?」状態であったのが、一躍、知名度激アップ!
これに地元の人間たちや市政にかかわる者たちが、いったいどれほどよろこんだことか。
だがしかし、光が強くなればなるほどに落ちる影はより暗く濃くなるのが世の常。
よろこぶ者がいる一方で、「キーッ、くやしい~」と地団駄を踏んでいる者たちがいた。
それが駅の北側にある兎梅デパートの関係者たちである。
兎梅デパートは若者をターゲット層にした経営戦略に特化。流行の発信地を自認しており、つねに華やかなオシャレ街道をひた走ってきた。
それが抹香クサい茶色のライバルにお株を奪われてしまった。
はっきり言って屈辱以外の何ものでもない。
「おのれ亀松百貨店め。この恥辱、無念、けっして晴らさずにおくべきか。いまに見てろよっ!」
と、悔しさのあまりギチギチ歯ぎしりをしすぎたせいで、支配人の歯がボロボロに。入れ歯かインプラント手術かのどちらかで、かなり思い悩んでいるとかいないとか。
なんとしても一矢報いるべし。
デパートの支配人の大号令のもと、連日、会議が開かれては夜遅くまで対抗策を模索する兎梅デパート陣営。
イベントの企画立案にて喧々諤々、紛糾する会議室。
ときにイラ立ちのあまり、怒号どころか手が出る足が出る、灰皿も飛ぶ、机やイスが倒れ転がることも。
そうしてこねくりこねくり、どうにかしてひねりだし、開催へとこぎつけたイベントが……。
◇
兎梅デパートの壁面いっぱいに掲げられた大看板には『超古代展』の文字。
大迫力の恐竜の化石、骨格標本、動くロボット模型、人が入っては操る着ぐるみが会場を練り歩き会場に華を添え、その筋では神と称えらえる専門家が講演会を開いたり、豪華景品が貰えるクイズ大会が催されたりと、イベント盛りだくさん。
だが一番の売りは、なんといっても氷漬けのマンモス。
シベリアの永久凍土から発掘されたというマンモスの母子。
ずっと氷漬けにされていたこともあって、保存状態は極めて良好。ほぼ原型を保っている。
それを間近でじっくり拝めるとあって、古代好きたちは狂喜乱舞。
おかげでイベント初日の開始前から長蛇の列である。
ちなみに入場料は、大人二千円、子ども千円。けれども市内在住者にかぎり、これが半額になるとあって、「せっかくだから」と足を運んでいる高月の住人も多い。
そんな列に男ひとりでまじっているのは、おれこと尾白四伯。
なぜかといえばタダ券を手に入れたからだ。
ドブ掃除を手伝ったら「お駄賃だ」と商店街の会長からもらった。しかしおれは過去にはこだわらない探偵。遥か古代になんぞはなんら思い入れもないので、すぐさま手に入れたチケットを金券ショップに横流ししようとしたのだが、買い取りを拒否された。
金券ショップの店主いわく。
「悪いな尾白さん、会長からのキツイお達しでね。俺もまだ命が惜しい」とのこと。
本職よりも本職っぽいガラの悪い会長。アレに詰め寄られて、凶相にてすごまれてはしようがない。
そこで芽衣に五百円で売りつけようとするも、うちのタヌキ娘はすでにチケットを持っており、逆に八百円で買わされそうになる。
ちっ、兎梅デパートめ、サクラを動員すべくけっこう派手にあちこちにタダ券をばら撒いた模様。
これではとても売りさばけそうにない。
かといってくしゃりと丸めてゴミ箱に放り込むのも気がひける。会場は探偵事務所のある雑居ビルから目と鼻の先。
「しゃーない、話のネタにちょいとのぞいておくかな」
かくしておれは重い腰をあげたという次第である。
「しかし、なんで『超古代展』なんだ? 兎梅デパートらしくないなぁ。まさかとは思うけど、亀松百貨店にお株を奪われた腹いせとかだったら、あまりにもアイタタなんだが……」
悔しさのあまり迷走する兎梅デパート。大丈夫なのかとちょっと心配。
未来に垂れ込める暗雲に、おれは眉間を寄せずにはいられない。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
にゃんとワンダフルDAYS
月芝
児童書・童話
仲のいい友達と遊んだ帰り道。
小学五年生の音苗和香は気になるクラスの男子と急接近したもので、ドキドキ。
頬を赤らめながら家へと向かっていたら、不意に胸が苦しくなって……
ついにはめまいがして、クラクラへたり込んでしまう。
で、気づいたときには、なぜだかネコの姿になっていた!
「にゃんにゃこれーっ!」
パニックを起こす和香、なのに母や祖母は「あらまぁ」「おやおや」
この異常事態を平然と受け入れていた。
ヒロインの身に起きた奇天烈な現象。
明かさられる一族の秘密。
御所さまなる存在。
猫になったり、動物たちと交流したり、妖しいアレに絡まれたり。
ときにはピンチにも見舞われ、あわやな場面も!
でもそんな和香の前に颯爽とあらわれるヒーロー。
白いシェパード――ホワイトナイトさまも登場したりして。
ひょんなことから人とネコ、二つの世界を行ったり来たり。
和香の周囲では様々な騒動が巻き起こる。
メルヘンチックだけれども現実はそう甘くない!?
少女のちょっと不思議な冒険譚、ここに開幕です。
強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは
蔑ろにされましたが実は聖女でした ー できない、やめておけ、あなたには無理という言葉は全て覆させていただきます! ー
みーしゃ
ファンタジー
生まれつきMPが1しかないカテリーナは、義母や義妹たちからイジメられ、ないがしろにされた生活を送っていた。しかし、本をきっかけに女神への信仰と勉強を始め、イケメンで優秀な兄の力も借りて、宮廷大学への入学を目指す。
魔法が使えなくても、何かできる事はあるはず。
人生を変え、自分にできることを探すため、カテリーナの挑戦が始まる。
そして、カテリーナの行動により、周囲の認識は彼女を聖女へと変えていくのだった。
物語は、後期ビザンツ帝国時代に似た、魔物や魔法が存在する異世界です。だんだんと逆ハーレムな展開になっていきます。
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
転生小説家の華麗なる円満離婚計画
鈴木かなえ
ファンタジー
キルステン伯爵家の令嬢として生を受けたクラリッサには、日本人だった前世の記憶がある。
両親と弟には疎まれているクラリッサだが、異母妹マリアンネとその兄エルヴィンと三人で仲良く育ち、前世の記憶を利用して小説家として密かに活躍していた。
ある時、夜会に連れ出されたクラリッサは、弟にハメられて見知らぬ男に襲われそうになる。
その男を返り討ちにして、逃げ出そうとしたところで美貌の貴公子ヘンリックと出会った。
逞しく想像力豊かなクラリッサと、その家族三人の物語です。
消息不明になった姉の財産を管理しろと言われたけど意味がわかりません
紫楼
ファンタジー
母に先立たれ、木造アパートで一人暮らして大学生の俺。
なぁんにも良い事ないなってくらいの地味な暮らしをしている。
さて、大学に向かうかって玄関開けたら、秘書って感じのスーツ姿のお姉さんが立っていた。
そこから俺の不思議な日々が始まる。
姉ちゃん・・・、あんた一体何者なんだ。
なんちゃってファンタジー、現実世界の法や常識は無視しちゃってます。
十年くらい前から頭にあったおバカ設定なので昇華させてください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる