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648 けっきょくおかか
しおりを挟む「有馬の温泉街は超楽しいんだよ! 風情満点なんだよ! 湯けむり旅情なんだよ!」
有馬派が声高にそう主張すれば、すかさず白浜派が「白浜にはパンダがいるんだよ! 遊園地に、梅林だってあるんだよ!」と反撃。
互いに一歩も引かず。次々とカードを切っての激しい応酬。
だらだら長引く商店街の会合。
「今夜はこのくらいでお開きにして、また後日」
といきたいところだが、慰安旅行は団体行動につき、おもいついたら即旅行とはいかない。
ちゃんと代理店に頼んで宿や足を手配しては、だんどりをつけてもらう必要がある。
その期限がじつは明日の午前中とあっては、今夜中に是が非でも行先を決めねばならない。
有馬か白浜か、これは難問である。
だというのに……。
「もう、いっそのことじゃんけんで決めたら」「ここは無難に多数決はどうだろうか」「でたよ、多数決という名の数の暴力」「衆愚政治のさいたるですな」「なっ!」「だったここは男らしく腕相撲で!」「あほかっ、骨が逝ったら困るだろうが」「ちったぁ、自分の歳を考えやがれ」「ううぅ」「じゃあ、ビンゴ大会でもやるか」「やだよ、アレってちっとも当たらないんだもの」「だったらクジはどう?」「クジならこの前の祭りの小道具がまだ倉庫に残ってたはず」「とりにいくのがめんどうくさい」「だったら、ちゃちゃっと、あみだクジでも作るか」「賛成」「でも、あみだクジって不思議だよね」「なにが?」「だって、適当に作っても、結果がかぶらないじゃない」「ぜんぶがストンと落ち着くところに落ち着く」「……言われてみればたしかに」「存在そのものがナゾだな」「うー、気になる」「おい、だれか、ちょっとスマホでちょちょいと知べてくれよ」「えーと、ここをこうして、あっ、うっかり緊急通報ボタンを押しちゃった」「それって大事なのはわかるけど、けっこう邪魔だよなぁ」「でも法律で決まってるらしいよ。ちゃんと表示しておくようにって」「アプリで表示を消せるらしいよ」「アプリ? あんな得体の知れんもん、わしゃ好かん」「あー、はいはい、じゃあ、私が」「えーと、ちょっと待ってよ、たしかここをこうして、アレをポチっとして」「あっれぇ、いつのまにスマホ、新しくしたの?」「あぁ、うん、あの初心者向けのやつ、始めは使いやすくていいかなぁと思ったんだけど、慣れてくるとぜんぜん物足りなくなって」「だよなぁ、ボタンをけっこうしっかり押さないとダメだし」「そうそう。誤操作はしないけど、あれはあれで地味に疲れるんだよ」「手首痛い。スマホネックになった」「へー、あみだクジが重複しない理由って、数学の集合論とかで証明できるみたいよ」
「「「「「なにそれ?」」」」」
本筋をはずれて横道脇道へとそれまくる年寄りどもの会話。
まるで迷宮にでも足を踏み入れてしまったかのごとし。
いっこうにゴールが見えない。
迷走を続ける会合。
時刻はすでに午後九時をまわっている。
スタートしたのが三時ぐらいだったから、はや六時間。
残り少ない人生の時間を贅沢に浪費する老人たちに、おれは大あくび。今日中に終わるのか、これ?
◇
誰かが気を利かせて届けさせた夕飯ののり弁当にぱくつきながら、ことの成り行きを見守る探偵と助手。
「のり弁のおかかって、なんでこんなに美味しいんだろう。でも湿気たのりがねちゃっとしてくしゃっとなる」
割りばしでのりをブスブス突き刺し、悪戦苦闘中の芽衣。
「まぁ、かつお節をかけて、醤油を垂らせば、たいていのものはうまくなるからな。あと刺し箸はやめなさい。それはマナー違反だぞ」
いちおう保護者という立場なので、たまにはそれっぽい注意をしながら、おれは縦割りにカットされたチクワの磯辺揚げをもぐもぐ。
「そうそう。おにぎりとかもそうだが、ツナマヨや明太子に高菜とかを渡り歩いたあげくに、けっきょくはおかかに行き着くんだよなぁ」
つけあわせのきんぴらごぼうを摘まみつつ、商会長。本職ばりにごつい見た目のわりに箸使いは巧みにて、所作はとてもしゅっとしている。
探偵と助手と商会長。
なぜにこの並びで弁当を食べているのかというと、さきほどタバコが切れたのをさいわいにおれは逃亡を目論むも、これを商会長に阻止されたせいである。
「甘い。逃がさねえよ、尾白」
むんずと襟首を商会長に掴まれて引き戻されて以降、彼の隣に据え置かれているという次第。
「このままだとマジで日をまたぐんじゃあなかろうか。いっそのこと強権を発動してはいかが?」
参加者の誰かからくすねたタバコをくわえつつ、おれが提案してみるも商会長は「うーん」とあまり気乗りがしなさそう。
じつはずっと昔にも似たようなことがあって、その時には強引に幕引きをはかったという。けれどもその結果は散々だったとか。
旅行の間中どころか、帰ってからも延々とねちねち文句を言われ続けて、ずいぶんと辟易させられた。それが軽くトラウマになっているとのこと。
「あの頃は俺もまだまだ若かった」
商会長は苦い思い出をふり返り、ちょっとしんみり。
するとかたわらにて自身のスマートフォンをいじっていた芽衣がぼそり
「有馬だ、白浜だってモメるぐらいなら、いっそのこと間をとって淡路島にでも行けばいいじゃない。あそこなら高速道路を使えば、高月から片道二時間程度だし、温泉もあるし、海もあるし、鯛とタコとたまねぎが美味しいし、いちおう遊園地っぽいのもあるにはある。さすがにパンダはいないけど、コアラならいるよ。生きてるのか死んでるのかわからないぐらい、ぴくりとも動かないけど。あと意外に知られてないけど、寺社仏閣、めちゃくちゃあるよ」
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