おじろよんぱく、何者?

月芝

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654 七福神めぐり 第三柱

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 えせ天女どもより、ひとり平均一万円近くもぼられたというのに、爺婆どもはホクホク顔。その理由は「若い子とキャッキャうふふと的遊びに興じて、お茶と菓子つきで、コレは安い」とのこと。
 なお被害額がこのへんでかんべんしてもらえたのは、おれと芽衣が一行に混じっていたから。
 新島八重子に頼んで便宜をはかってもらった。「もう、しょうがないわねえ」とお友達価格で許してもらえた。
 かくして口紅印入りのセクシーな御朱印を記帳してもらったところで、第二の霊場である知禅寺をあとにした一行。
 本日中にあと二か所もめぐることになっているが、おれはすでにげんなり。しかし年寄り連中はまだまだ元気。移動中のバスの車内でもはしゃいでいる。

「おいおい、興奮するのもけっこうだが、頼むからぽっくり大往生とかかんべんしてくれよ」

 おれはジト目にて皮肉まじりにそう言ってやったのだが、返ってきた答えがこれだ。

「血圧の薬は処方されてるから、ちょっとぐらいハメをはずしてもへっちゃら」
「こちとら年数をかけて丁寧にドーピングされて、身体強化されまくってるからな」
「伊達に社会保障制度を食いつぶしちゃいないぜ」
「こうなりゃあ、逝けるところまで逝ってやるんだから」
「っていうか、市販薬が高すぎるんだよ。病院行って、薬を処方してもらった方が断然お得なんだから、誰だってそっちに行くってもんだ。とくに花粉症の薬、てめえはダメだ。店頭価格とネットに差がありすぎる。三倍強とか、いくらなんでもひどすぎる」

 そこからはじまった病気自慢話合戦。
 おおいに盛り上がっているうちに、次の第三の霊場へと到着。

  ◇

 境内に足を踏み入れ本堂を見上げれば屋根の袖の隅部からジロリ、こちらをにらんでいるのは鬼瓦。
 ここは長林寺、その歴史はとても古く、じつに千三百年以上にもおよぶ。七福神の福禄寿さまを祀っている。龍神伝説でも有名にて、御本尊は十一面観音菩薩像、秘仏は不動明王。

 えっ、福禄寿さまって誰?

 あれだよ、あれ。頭が上にうにょ~んと長くて、あごヒゲもだらり、やたらと長い老神。杖と巻物を持っていて、子孫繁栄の福、財産の禄、健康長寿の寿にて、福禄寿さま。
 いわゆる三徳に特筆しており、けっこうご利益満点っぽいわりには、あまりメジャーじゃないのは、やっぱり容姿のせいか。ぱっと見、担当がわかりづらい。
 頭の形状のインパクトのわりには、存在感が薄くて雰囲気が地味なんだよねえ。

 そんなお姿をかたどった像が境内に飾られているのだが、この像は淡路島の特産であるいぶし瓦で出来ている特注品。
 いぶし瓦は淡路瓦とも呼ばれており、炭素の被膜を表面に付着させる手法で発色させており独特の光沢を持つのが特徴。古くより日ノ本の家屋を守ってきた安心安全の実績を誇る。

 ぺちぺちぺち。
 いぶし瓦製の福禄寿像のおでこを叩く芽衣。
 あのやたらとひろいおでこをみたら、やりたくなるのが人情。
 だがしかし……。

「気持ちはわかるけど、仮にも相手は神さまなんだからやめなさい」

 いちおう保護者らしくおれはタヌキ娘をたしなめつつ、目で探していたのは喫煙所。
 観光バスの車中は禁煙にて、今日び、行く先々、どこもかしこも禁煙の二文字が踊り、愛煙家には肩身がせまくてしようがない。そろそろヤニが恋しくなってきたところ。
 だが、無情にも寺院内全面禁煙のパネルを発見してしまい、「やはりここもか」とがっくし。

 しょうがないのでおれはひとり寺の門を抜けて、外へ。
 向かった先にて遭遇したのは、裏の壁にもたれて一服している重たい頭部を脱いだ、半着ぐるみ状態のおっさん。
 長林寺のマスコットキャラクターの三徳くん、の中の人。

「どうもどうも」と仲良く煙をくゆらせつつ、「なんでゆるキャラの名前が三徳くんなの?」とたずねたら中の人が「あー、それは、福禄寿って微妙に語呂がぱっとしないせいですよ」と教えてくれた。

「福くんだとアレですし、禄くんや寿くんってのは、『ろくでなし』とか『寿が呪』に通じて縁起が悪いって檀家のうるさ方がねえ。で、無難なところに落ち着いた次第です」

 そんな長林寺なのだが、御朱印を適正価格にて書いてもらうためにチャレンジするミニゲームは瓦割り。
 しかも頭突きで十枚っ!

「いくら立派なおでこがトレードマークとはいえ、さすがにそれは……」

 おれは呆れる。
 参拝客の多くはお年寄り。衝撃により頭蓋骨の裏で血管がぷちっと。下手をした死人がでかねん。
 すると「大丈夫ですよ。さすがに救済処置はちゃんと用意してありますから」と中の人。休憩を切り上げ、もぞもぞ頭部をかぶりながら言った。

「ワンプレイ千円ですが、もう千円払えば追加オプションとして、この巻物ハンマーがついてきますから」

 長い柄の先についた頭のところが巻物を模した形になっているハンマー。
 両端が戦槌のように尖った凶悪仕様にて、これを使えば瓦の十枚や二十枚、楽々破砕できるとのことであった。


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