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653 七福神めぐり 的当て
しおりを挟むきれいなお姉さんから声をかけられたものの、おれと芽衣はキョトン。
たしかに見たことがあるような気はするけれども、女性というのは服装やら化粧でがらりと印象が変わるもので、よほど親しい間柄でもなければとたんに見分けがつかなくなるもの。ましてや天女にコスプレしているとあっては、なおのことであろう。
すると当人もそのことに気がついたらしく「あっちゃあ、この格好だとわかんないかぁ。だったら」とやってみせたのが、猟銃をしゃきんと構える仕草。
その仕草がさまになっている。とても素人とは思えない。
それでおれと芽衣もようやくピンときて、遅まきながらも相手の正体に気がついた。
このべっぴんさんの正体は、かつて淡路の地にて人間相手に反旗をひるがえしたイノブタの女王・土鍋牡丹(どなべぼたん)の野望を阻止するのにひと役買った、狩猟ガールの新島八重子(にいじまやえこ)。わずかな寡兵にて岩神神社のある小山に立て篭もり、群がるイノブタどもと死闘を演じた凄腕ハンター。
「そんなキミがどうしてここに?」
「バイトよ、バイト。ほら、この前のときに、ずいぶんと無茶をして方々に迷惑をかけちゃったから、そのお詫びもかねて協力しているの。それにいくら不可抗力とはいえ、血を流し過ぎちゃったから、禊というか追善供養というか……。まぁ、そんな気持ちもちょびっとね。とはいえ、まさかこんなコスプレで客寄せパンダをやらされるとは思わなかったけど」
蝶の羽のようにひらひらしている両袖をみせながら、やや自嘲気味の新島八重子。
そんな彼女におれはたずねた。
「ひょっとしてここでも御朱印を記帳してもらうのに、ミニゲームにチャレンジしなきゃいけなかったり、する?」
答えはイエス。
でもってミニゲームは縁日の屋台でたまにみかける、的当てだった。
◇
まんま射的屋台の構成となっているミニゲーム。
使用するのはオモチャの空気銃、弾はコルク製、これらを使って二メートルほど離れたところから、棚に並んだ将棋の駒を狙い撃つ。
歩が一点、香車が二点といった具合に、全八種類の駒には点数が振り分けられている。もっとも高得点なのは王将の駒。こいつが八点となっている。
五発の弾でこれらを狙っては競い、得点数が多い方が勝ち。
ちなみに対戦相手は指名制にて、指名料はゲーム代込みで二千円ぽっきり!
もちろんゲームに参加せずとも御朱印は書いてもらえる。ただし記帳料に三万円かかるのは八浄寺と同じだけど。
どうやら七福神系列の寺院ら間で、そう取り決めているっぽい。
説明をきいて、おれはぼそり。
「性質の悪いガールズバーかキャバクラみたいだな」と。あと「何げにゲーム代、高くね? 大黒くんのところのナタスローイングはワンプレイ五百円だったのに……」とも。
すると新島八重子は肩をすくめて「だってしょうがないじゃない。うちはご覧の通り、キレイどころを集めている分だけ、衣装代やら人件費がかさんでいるんだもの」
説得力のある言葉に、店を営んでいる者が多い高月中央商店街ご一行は、みないちようにウンウンうなづく。
◇
選べる対戦相手は新島八重子を含めた五人。
射的対決とあってはタヌキ娘の出番なし。おれも銃器類の扱いはさっぱりなので、見学にまわる。
一方で腕まくりなのが「的当てならばまかせておけ。ガキの頃から縁日でならしたもんよ」とジジイ連中。「こちとら年季がちがうぜ」なんぞと得意げに息巻いていたのだが……。
揚々と千円札二枚を係の者に渡す。
射的台から身をめいっぱいに乗りだし、腕をのばし、ぷるぷる震えながら片目にて照準を合わせたところで、引き金にかけた指を「ていっ」とひく。
とたんにポンっ!
軽い音がして飛び出すコルク弾。
しかし真っ直ぐに飛ぶ本物の銃ですらもが、狙った的に当てるのがムズカシイというのに、真っ直ぐに飛ばないコルク弾となれば、なおさらムズカシイのは自明の理。
一発目は狙った金の駒の上を通過。
だがこれで銃のクセや弾の動きは読めた。微調整をかけて次こそはと第二射。
が、当たらない。
今度は左にちょっとそれてしまった。
ならばと第三射と放つも、これもハズレ。
「くっ、このっ、このっ」
ムキになって続けざまに残りを放つも、駒にはかすりもせず。
五発全部を早々に撃ち尽くしゲームオーバーで、がっくし。
そんな不甲斐ない年寄りどもを尻目に、パコン、ポコンと次々に駒へ弾を命中させては得点を重ねていく知禅寺チームの面々。
かわいい顔して、みんなやたらと上手いとおもったら、それもそのはず。
「あっ、ごめんなさい。言い忘れていたけど、この子たち、全員狩猟ガールだから」
新島八重子がウインクしてテヘペロ。
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