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652 七福神めぐり 第二柱
しおりを挟むいきなり波乱含みの展開で幕を開けた七福神めぐり。
空はとっても青いのに心がモヤモヤする。なにやら前途多難なニオイがぷんぷん。
あれ、おかしいな? 今回は依頼抜きにて、商店街の慰安旅行に来ているだけのはずなのに……。
八浄寺を出立し第二の霊場へと向かっている観光バスの車中、探偵と助手は額を近づけてはヒソヒソヒソ。
「檀家の数が減って、墓じまいとかも増えているから、寺の経営がたいへんとは聞いていたが、よもやこれほど追い詰められていようとは……」
「そういえば洲本家がお世話になっているところも、先代の住職さんがぽっくり逝ってからは、後継者がなかなか決まらないってんで、他所のお坊さんの掛け持ちなんだって」
「あー、あのやたらと時間を気にする尼さんな」
法事などのときに原付のスーパーカブでブゥーンと駆けつけては、ポクポクちーん、ナムナムお経を唱えてくれる尼僧。
そんな彼女、いつも左手首にまいているのは、ゴツイ男物のダイバーズウォッチ。こいつをお経を唱えるときに、やたらとちらりちらり。で、日によってはけっこうな短縮モードにて読経を省略、早々に切りあげたりもする。
だらだら退屈な経文を聞かずにすむので、足がしびれることもないから、おれや芽衣なんぞの若い層からはわりと好評なのだが、わざわざ自前の経文を用意しては、いっしょに唱えるのを愉しみにしている年寄り連中からはめちゃくちゃ不評。
出された茶菓子から、弁当までの一切合切をあますことなく必ず持って帰ることから、おれと芽衣は彼女のことをひそかに「ねこそぎさん」と呼んでいる。
尼さんの正式の法名? うーん、ちょっとわからないかな。
まぁ、とどのつまり、次世代と現職の関係性がその程度だということ。
これすなわち現在の檀家と寺の関係をあらわしている。
かつてのような地域密着型、蜜月の関係は失われてひさしいのだ。
あとお寺の継承って、宗派によっていろいろあるらしくて、希望者がいたからとて「ハイ、どうぞ」とはいかないそうな。他にも寺の看板を悪用しようと近づく輩とかもいるから油断ならない。
でもって、どうせ継ぐのならば片田舎の経営が厳しいところよりも、立地に恵まれて観光客もたくさんきてウハウハな所の方が、誰だっていいわけで……。
「そういえばジジイの法要って、次いつだ?」
「一成じいちゃんのは、えーと……いつだっけ。先代のとか先々代のとか、近所のやら親戚のとかがごちゃごちゃあって、ややこしいんだよね」
初七日やら四十九日、初盆・新盆に百箇日の追善供養にはじまり、年季法要が一周忌、三回忌、七回忌、十三回忌、十七回忌、二十三回忌、二十七回忌、三十三回忌、三十七回忌ときて、トドメは五十回忌の遠忌っ!
さすがにそこまで完走する家は稀だが、立派な家系図なんぞを残している旧家だとけっこう意地になってがんばったりもする。
でもって長く続ければ続けるほどに、ぽくぽく縁者が逝くもので、自然と渋滞が発生するから残された子孫たちは、とってもたいへん!
子孫が先祖の築いた財を食いつぶすという話は多いが、その逆もまたしかり。
ちなみに一成とは先代の第二十八代目芝右衛門のこと。いちおう、おれの化け術の師でもある。
読者諸兄はお忘れかもしれないが、これでも芽衣の実家の洲本家はタヌキでは超名門の家柄。
佐渡の団三郎、香川屋島の太三郎らと並び、三大化けタヌキと称される一門の直系のお嬢さまなのである。
もっとも立派なのは血筋とご先祖さまの勇名だけで、現在の洲本家はごくふつうのタマネギの兼業農家であるが……。
◇
先代の法要について話をしているうちに、はや次の目的地へと到着。
七福神めぐり、第二の霊場は知禅寺。弁財天を祀っており、弁財天は音楽の神さまにて、芸事なんぞにご利益があるとされている。
門前に立ち、これを見上げて芽衣がぐぅと腹を鳴らす。
「なんだかこれを見ていると、無性に釜めしが食べたくなります」
角に丸みがある真っ白な竈門(かまど)に、ちょこんと瓦屋根の建屋をのせた、釜めしを焚いている姿を彷彿とさせる形の山門。
鐘楼門と呼ばれる造りだが、上階の板戸は閉じられており、実際に内部に鐘が吊るされてあるのかはわからない。
そんな鐘楼門の向こうからは、先ほどから軽快な音楽が聞こえてきている。
境内で演奏会でもしているらしい。どうやらここは音楽の神さまであることを全面に押し出し、イベントごとにて寺を盛り上げているようだ。
ぞろぞろと境内に足を踏み入れる高月中央商店街ご一行。
これを「いらっしゃいませ」と甘い声で出迎えたのは、ちょっと胸元をセクシーに着崩しては、両肩を出している天女風和服姿のコスプレ集団。
ゆるキャラ系の着ぐるみではなくて、リアル系姉ちゃんのお出迎え。
これには商店街の野郎どもの鼻の下がたちまちのびる。
そんなだらしのない男どもの態度に、ご婦人方がさぞや機嫌を損ねるかとおもいきや、こちらはこちらでニコニコ笑顔。なぜならコスプレ集団には男装の麗人も複数まじっていたから。
宝塚ばりのイケてる麗人たちに、「ようこそ」と手をとられて、女性陣もメロメロ。
なんという深謀遠慮か。おそるべし、知禅寺に死角なし!
なんぞとおれがおののいていると、「あれ? やっぱり尾白さんじゃない。芽衣ちゃんもひさしぶり~」と声をかけてくる天女がひとり。
よもやの人物との再会に探偵と助手はそろってギョッ!
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