おじろよんぱく、何者?

月芝

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724 九龍城

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 海のない県の山間部。
 サルどもも寄りつかないような険しい山々に囲まれた涸れた渓谷。これを越えた先にそれはあった。
 曇天の下。
 森の木々に半ば埋もれつつ、円を描くように等間隔にてそびえ立つは九棟の五重の塔たち。
 その中心には天守閣をかかげる本丸の威容がある。
 ひゅるりと冷たい山風が吹くたびに、建物同士をつなぐ吊り橋が揺れてぎしりぎしりと軋む。

「これが九龍城……。てっきり廃ホテルの類でも利用しているのかとおもっていたのに」

 名前からしていかにもごちゃごちゃしたややこしい造りの建物を、勝手に想像していたおれは実物を前にして、あまりの立派さ、その本気度に感心するやら呆れるやら。
 こんな不便な僻地に人知れず建てるとか、聚楽第の財力、半端ねえ!
 あとやっぱり連中、ヒマ人どもの集まりだろう!

「なんだかゲームの舞台っぽいですね」とは芽衣。

 タヌキ娘はちょっとワクワクしている。
 まぁ、いざ足を踏み入れたとたんに、敵がわらわら出てくるのはほぼ確定しているから、芽衣の言い分もあながち的外れとはいえないところがじつに嘆かわしい。

 探偵と助手が無駄に壮麗な九龍城を前にして「ほへー」とマヌケ面をさらしていると、そこにシュタっと姿をみせたのはクノイチの燐火さん。
 堕落し黒羽となった忍びどもをとっちめる役割りを担っている白羽一派を率いている彼女。忍者の監察官みたいなお立場。
 目的が合致していることもあり、協力を申し出てくれたもので、おれはありがたく差しのべられた手を握り返す。
 それに比べて、あの連中ときたらとぶつくさ。

 あの連中とは、今回の依頼を寄越した天狗、鬼、キツネ、国税局八番課の賀茂勇魚らのこと。
 殺生石に端を発した一連の怪事件。
 画策したのは聚楽第にて、率先して動いているのはオコジョクノイチ・かげりとムササビ忍軍の羽茶組であり、目的は離間工作と考えられるが詳細は現時点では不明である。
 との中間報告をしたら「わかった。では引き続きよろしくたのむ。あと領収書はきちんととっておくように。えっ、増援? そんなものは認められない。だが応援はしてやろう。『がんばれ、尾白探偵。きみならできる』では検討を祈る」ときたもんだ。ちょっとひどくね?

「しかしこんな大がかりなモノをおっ建てて、よくもまぁ、発見されなかったもんだ。いまどき衛星画像とかで一発だとおもうのだが」

 おれが首をひねっていると、燐火さんが「それについてはこれを」と懐から折りたたまれた紙を取り出す。
 この地を写した衛星写真が印刷されたもの。
 けれどもそこに九龍城の姿はない。あるのは鬱蒼とした森ばかり。

「カモフラージュ……。まぁ、ハイスペックな自律可動型アニマルロボを量産するような連中だし、これぐらいの小細工はお手の物か」

 これまでずっと隠していたものを開示する。
 その意図はなんだ?
 かげりは、聚楽第はいったい何をたくらんでいる。

  ◇

 燐火さんに遅れることわずか。次々と合流してきたのは白羽の忍びたち。
 彼らはこの地に到着するなり、散開して周囲の様子を探っていたのだ。

「周辺に敵影なし」
「伏兵や罠の類は見当たりません」
「外からでは塔の内部は不明」
「塔の窓にはすべて頑強な格子が設置されており、潜入は厳しいかと」
「城は水の張った堀に囲まれています。水中にて蠢く不穏な影あり。うかつに立ち入るのは危険かと」
「中央の城へと向かうには、塔を経由して吊り橋を渡るしかないようです」
「開いている入り口は、最寄りの塔のみ。他は扉が閉ざされております」

 寄せられた報告からわかるのは「あいにくと出迎えはなしにつき、ご勝手にどうぞ」という家主の意向。でもってふつうに考えたら、主人は中央のお城で待っているはず。
 招いておいてのこの仕打ち。
 いいだろう。そっちがその気ならば、乗り込んでやろうじゃないか。
 というわけで、おれたちは九龍城の攻略にGO!


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