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725 第一の塔
しおりを挟む不自然なまでに開放されっぱなしの塔の入り口。
警備員の姿はなし。けれども防犯カメラはしっかり設置されている。
「フッ、どうやらおれたちがやってきたのは、とっくに向こうには知られているようだな」
いつになくシリアスモードにてみなに注意を促す探偵。
だがしかし直後のことであった。
「いえ、これはダミーですね。ニセモノです」と燐火さん。
探偵の目はごまかせてもデキるクノイチの目はごまかせない。
これに助手のタヌキ娘はプププのプと失笑。
まんまと騙された探偵は赤面にて立つ瀬なし。そして現場には微妙な空気が漂う。周囲から向けられる憐憫の視線。
耐えかねたおれは、それをごまかすかのようにして勇んで塔へと踏み込む。
が、とたんにガクンと急に視界が下がった。
えっ、床がない! なっ、まさか落とし穴っ!
気づいたときには万歳の姿勢にて「あぁあぁぁぁーっ」
ものの見事に落ちていた。
まさかの第一歩目からトラップ発動。
「四伯おじさーん」
「尾白さんっ」
芽衣と燐火さんの呼ぶ声があっという間に遠ざか……らない?
落とし穴の高さはほんの二メートル半ぐらい。ちょっとしたブロック塀の上から飛び降りた程度しかないぞ。
でも、そこで終わりじゃなかった。穴の底が滑り台になっており、つるん。たちまちおれの身は横倒しとなって、シャーッ。勢いよく滑り出す。
滑り台はとぐろを巻いたヘビのような形にて、右回りにぐりんぐりん。ご丁寧にローションみたいなのが撒かれているからぐんぐんよく滑る。加速と遠心力にて胃が寄せられてちょっと気持ち悪い。
で、しばらくぐりんぐりん滑ったあとに、ペッと吐き出された先は砂場だった。
粒の細かい白砂ゆえに落下の衝撃はない。
でもローションと砂まみれのせいで、精神的ダメージが大きい。口の中にまで砂が入りこんで、ペペペペペ。もう、テンションだだ下がり。
◇
「だーっ! いっちょうらのジャケットが台無しだよっ! しょっぱなからなんてことしやがるっ!」
おれはプリプリ怒りながら周囲を確認。
そこは地下室にて一面が砂場。それ以外に何もない。
出入り口はふたつ。いまさっき自分が落ちてきた穴。だが天井近くにて、壁をよじ登ってから、さらにあのぬるぬる斜面を攻略するのは容易ではあるまい。
もうひとつは何の変哲もない階段。
見た限り、ふつうに上へと繋がっているっぽい。
「いったい何がしたかったんだ?」
困惑しつつもおれは階段を選択。
でも三分の二ほどまで進んだところで、ふいに階段が消失した。いや、よりただしくは段差がガコンと失せて、坂が出現したのである。
ひょうしにおれは両腕を投げ出すような格好にて、べちゃりと倒れる。
そしてなかなかの急斜ゆえに成す術なし。またしても「あらぁ」と素っ頓狂な声をあげて転げ落ちることになった。
ずざざざざざぁーっ。
ふたたび砂まみれとなり、探偵ふりだしに戻る。
見上げた先では斜面がゆっくりトランスフォーム。しれっと元通りの階段の姿に。
コントの舞台みたいなからくりに、おれはイラッ。
すぐさま立ち上がるなり「ウガーッ」と階段を猛ダッシュにて踏破。
が、あと数段というところでまたしても階段が坂となり、おれはずざざざざざぁーっ。
フム。どうやらこの階段は一定時間内にクリアしないと、こうなる仕掛けのようだ。
「ふっ、なんてことのない。つまらん子どもダマしだな」
タネさえわかれば攻略なんぞは造作もない。
というわけで意気込んでリトライ!
そして探偵は三たび滑り落ちる。「あらーっ」
仕掛けこそはバカバカしいが、タイム設定が絶妙。どこかでこちらの動きを観察し、ポチっと合わせているのかと疑いたくなるほど。おっさんの息があがり、出足が鈍くなった瞬間にまるではかったかのごとくガコンと段差が消失しやがる。
おかげで気分的にはアリ地獄にはまったアリのよう。
あともう少しでクリアできそうでできないのが超くやしい。ムッキーッ!
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