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746 中央城
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復活した芽衣。
とはいえ完全にとはいかない。人化けの術こそは維持できているけど、体内の悶々パワーはすかんぴん。いかにタヌキが精力旺盛とはいえすぐには再充填されない。
それすなわち、いちおうは戦えるけれども大技の行使は無理ということ。
九龍城もいよいよ大詰め、残すはここ中央城のみ。
そんな局面で、よもやの大幅な戦力ダウン……。
う~ん、いささか苦しい展開。
冷静に考えれば、いったん引き下がって出直しをはかるべきところ。だが、あいにくと吊り橋は落ちてしまっており退路はない。城を囲むお堀を泳げば脱出できるかもしれないけれども、事前の調査でお堀の水の中には、ナゾの怪しい影が周遊しているのが確認されている。たぶんガブリとくるおっかないヤツだろう。
とはいえだ。
逃げ道にかんしてならば、おれがその気になればどうとでもなる。
いざともなれば舟か橋にでも化ければいいだけのこと。
が、苦労を重ねてせっかくここまできたというのに、相手の面も拝まないうちに尻尾をまいて逃げ帰るのはいささか業腹。今回のおふざけを企画したオコジョくのいち・かげり。彼女にひとこと文句を言ってやらねば、どうにも気がすまぬ。
腹にすえかねていたのは芽衣や燐火さんも同じであったらしく、おれたちは先へと進むことに決めた。
◇
地上六階、地下は不明の中央城。
城内にて天守閣を目指す。
ご丁寧なことに経路の案内パネルが随所に貼られており、迷うことはない。
ただ本物を模したせいか天井がやや低い。妙な圧迫感がある。
薄暗い廊下、両脇には襖がズラリと並ぶ。
歩くたびに足下にて床板がキシキシ鳴るのが、ちょっとやかましい。
「これがウグイス張りってやつですか、四伯おじさん。ずいぶんと凝ってますよね」
「いや、芽衣。このキシキシはただの安普請だろう。その証拠に、ほら」
おれは最寄りの襖に手をかけ、開けようとするも微動だにせず。
フェイク、ハリボテだ。
とどのつまり、ここは見た目こそは立派な日ノ本のお城っぽいけれども、映画のセットのような造りということ。
フム。あらためて思い返してみると、九龍城、先へと進むほどに建物の内装やら仕掛けなどがしょぼくなっていたような……。
建設当初の甘い見積もり。計画が早々に破綻して、ずんずん増える総工費。
しかしそれも無理からぬこと。なにせ九つもの塔をおっ建てているんだもの。
シワ寄せがあとへあとへとずれ込んだが末の結実が、ここ本丸。
「まぁ、よくある話だよな」とおれ。
「ですよねえ。この前のオリンピックもひどかったですし」と芽衣。
「あれはもはや国家ぐるみの詐欺」とは燐火さん。
お金をかけない節約型とのたまいつつ、誘致。
でもいざ蓋をあけてみれば予算が倍々に膨れあがって、過去類をみない規模に。無駄、むだ、ムダが百鬼夜行にて踊り狂う。とんだクレイジー金満運営であることが露呈する。
環境にやさしく配慮との耳ざわりの良い謳い文句。
これまた蓋をあけてみれば、やることなすこと逆どころか斜め上をいく。施設を建造するための土地を確保するのに、わざわざ豊かな森林を破壊し、地面をアスファルトで塗り固める。あげくには施設を木材で建てたから自然派とか、意味不明な理屈がまかり通る。
開催前から問題山積。
開催中にも問題続出。
開催後には巨額の借金と負の遺産てんこもり。
もう「無駄と浪費」をスローガンに掲げちまえよ。
そのほうがいっそ清々しいよね。
というレベル。
えー、こほん。
いささか話が横道にそれた。それそろ本筋に戻ろうか。
城内にはとくにトラップの類もなく、敵影も皆無。
これまでの喧騒がウソのような静けさ。おかげで足下のキシキシ音がやたらと響いて、耳に煩わしい。
◇
ハシゴと見まがうほどの急な階段。
登った先がいよいよ天守閣にて、壁際に居並ぶ甲冑たちがお出迎え。
六文銭の装飾、あれは日ノ本一のつわものといわれた真田幸村のもの。
三日月のは独眼竜・伊達政宗。白毛に鬼の面がついたのは甲斐の虎・武田信玄。妙見信仰を表す日輪と三日月を模したのは越後の龍・上杉謙信。鳥の巣と神の御加護を表す木瓜紋と御簾は第六天魔王・織田信長……。
十体ばかりの甲冑のうち、一体をのぞいてすべてが歴史に名を残す有名武将の愛用の品。
もちろんレプリカなのであろうが、それでもそろうと圧巻にて迫力がある。
なんとも男心をくすぐる展示物。
しかしのんびりと眺めている暇はない。
なぜならこれらの甲冑を従えるかのようにして、上座にてあぐらをかいているクノイチの姿があったからだ。
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