おじろよんぱく、何者？

752 天守閣の決闘！ 蒼星

　
　なけなしの悶々パワーを使って「狸是螺舞流武闘術、終の型、唯我独尊」を発動させる芽衣。
　だがいつもよりも生じる蒼光がずっと弱々しい。出力があがらない。やはり悶々パワーが足りないのだ。

「っう、だったら！」

　ぎちりと奥歯を噛みしめる芽衣。こめかみに青筋が浮きあがる。目が血走り、充血しまっ赤に。りきむあまり口の端が切れた。
　すると全身をおおっていた蒼光がゆらめき、じょじょに右の拳へと集まっていくではないか！
　奥義により解放されたチカラに指向性を持たせる「唯我独尊派生・震撃」の応用。
　土壇場で芽衣は脅威の集中力を発揮、緻密な制御を行い残りのパワーをすべてかき集める。
　これにより右の拳が強い蒼光に包まれた。
　だが芽衣はさらにその先を目指す。
　なぜなら相手は宮本めざし。獣外領域へと足を踏み入れし者。生半可なことでは通用しない。そして次はない。この一手にすべてを賭けるしかない。

　芽衣の想いに応えるかのようにして蒼光が動く。
　固く握った拳、中指の付け根へと集束されていく。
　やがて生まれたのは、眩いばかりの蒼い光点。
　それはとても小さい星のまたたきにも似た光。
　だけど、とてもチカラ強い輝きを宿していた。

　　◇

　おれが化けた大風呂敷、宮本めざしの炎龍の剣へとまとわりつき、その視界をも邪魔している。
　最後にしてとっておきの一撃。放つ準備を整えた芽衣は風呂敷の陰から飛び出し狙おうとするが、それだときっとヤツに気取られる。だからおれは叫んだ。

「かまわねえから、おれごとぶちかませっ！」

　うなづく芽衣。拳が唸る。大風呂敷へと突き刺さり、布越しに宮本めざしへと肉迫。
　危険を察知してとっさに後退しつつ、剣を十字に重ねてこれを防ごうとする宮本めざし。
　だがその身がいきなり大きく吹き飛ばされた。拳がまだ触れていないのにもかかわらずである。
　成したのは芽衣の拳。
　そのときおれはたしかに感じた！　芽衣の拳から放たれた蒼い光点が、光の矢となり大風呂敷を突き抜けるのを。そしてたしかに目撃する！　向こう側にいた宮本めざしの身を光の矢が貫くところを。
　とてつもない破壊力を秘めた、衝撃波とはちがうべつの何か。
　不思議なのは直撃を喰らったはずのおれになんらダメージがないこと。
　ひょっとして完全にチカラが制御されていたがゆえに、そのように作用したのか？　なんてことだ……。もしもチカラのベクトルを支配下におき、これを自在に操れるとしたら、これまでの武の概念が根底から覆されるぞ。

　一方で吹き飛ばされた宮本めざし、わけもわからないままに背中から柱へと激突するも、なおも止まらず。へし折れた柱ごとむき出しとなっている天守閣から外へと転げ落ちていく。
　けれども芽衣もここでついに限界を迎えてチカラ尽きた。
　ポンっと人化が解けて、本来の豆タヌキの姿となってぐったりへにょり。「キュウ」と目をまわす。
　おれは大風呂敷からヒトの姿に戻る。のびている豆タヌキに「ごくろうさん」と声をかけるが、すぐに「うぐっ」と苦悶にて前かがみ。
　腹部に激烈な痛み。みれば肌が真っ赤になっており、一部肉が焼けただれて奥が露呈していた。アバラも何本か折れてるっぽい。炎龍の剣を封じた代償による、名誉の負傷。
　フム。じんじんヒリヒリ、めっちゃイタイ。またぞろ菜穂のところに駆け込むことになりそうだ。

　　◇

　まるで焼きゴテを当てられたかのよう。
　胸に深々と刻まれた十字傷。
　痛みをこらえながら天守閣へ、ようよう這いあがってきたのは宮本めざし。

「不覚、不覚、不覚、不覚っ」

　怒りの矛先は自分を吹き飛ばした芽衣ではなくて、驕りからいらぬ怪我をまねいた己自身へと。
　鬼気迫るその姿を前にして、おれは心底「こわい男だ」とおもった。
　こいつは負けを他人のせいにしない。すべてを受け止め呑み込む度量がある。
　だから今回の敗北を糧にきっとまた強くなる。
　結果として敵に塩を送ったようなもの。ちっとも勝った気がしやしない。

　そんな宮本めざしだが、すでに二刀ともに鞘へと納めていた。
　どうやら本日はこのへんでかんべんしてくれるみたいだとわかり、おれはホッ。
　かくしてこちらはとりあえずの決着とあいなった。
　あとはかげりと燐火さんの方なのだけれども……。