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787 四階の怪
しおりを挟む三階の怪は、売れ残りどもの反乱?
とはいえ内容は可愛らしいもの。
朝までちゃんかちゃんか踊って騒いで、存分に日頃の憂さを晴らし、あとは各々が希望の売り場にちょこんと居座るだけ。
それがいつのまにやら商品が勝手に移動していたナゾの正体。
なにげに売れ残りどもの数が多い。
これをチカラづくで抑えつければ、暴発しかねない。
そこでおれたちは三階の問題はいったんスルーすることにする。
おれは資料の片隅に解決案を書きかき。
「えーと……、大幅プライスダウン、もしくは在庫一掃のためのワゴンセールでも開催して、すみやかに数を減らすべし。ぐずぐずしていると同調する不良在庫が増えて、じきに手がつけられなくなる可能性大」
その書きつけを横からのぞき込んだ芽衣がひと言。
「在庫処分はけっこうですけど、売れた先でこの連中がおとなしくしているでしょうか? 夜ごと動き出したら、すぐに返品されちゃいそうですけど」
これに対しておれは「そんなもん、チラシの隅っこにでも小さく『返品不可』って書いとけばいいだけだ。あとは知らぬ存ぜぬで通す」とのたまう。
◇
エレベーターで四階へ。
チーンと扉が開いたとたんに、なにやら騒がしい。
位置的にも、いよいよ桜花探偵事務所チームとかち合ったかとおもったが、それは早とちり。
「なんだ、ありゃあ?」
「オモチャの戦争?」
このフロアは子ども向けの商品を中心に、ペット用品とあと紳士物が少々という構成。
そのうちの玩具どもが大暴れ。
クマと恐竜のヌイグルミ同士が殴り合い、からのプロレス技の応酬。
オモチャの兵隊たちがラジコン戦車とともに進軍。これを迎え撃つのは、合体ロボで構成された煌びやかな一団。
あちらこちらの棚の高いところでは、「ははははは」と笑い声。やたらと高笑いをしているヒーローの稼働フィギュアたちがビシっとポーズを決めている。
かとおもえば、別のところではサッカーに興じている集団もあった。ちょこまか動く小さな影は、カチャカチャ手元のレバーを操作して遊ぶサッカーゲームの人形たち。
その向こうでは野球盤から飛び出した面々が、銀玉を投げて打っては「きゃあきゃあ」追いかけてのナイターゲームの真っ最中。
着せ替え人形たちが優雅に舞踏会をしているところもあれば、なぜだか拳で語り合う武闘会をしているところもある。
敵味方の区別なし。めったやたらとぶっ放されているのはスポンジの弾丸。オモチャのガトリングガンが火を噴く。
空中にはブーンと小型のドローンが飛んでいる。それに掴まっては「ひゃっはー」しているのはブロックの人形。
風に煽られ舞うは色とりどりのお札たち。人生の成り上がりのボードゲームに使用されるアレだ。
三階よりもさらにひどい惨状に、おれと芽衣はポカン。
「なぁ、芽衣。おれ、この前、テレビでこんな感じの映画を見たんだけど」
「あー、アレですね、四伯おじさん。おっと、くれぐれもタイトルは口にしないでくださいよ。あそこの会社に睨まれたが最後、ぷちっと抹殺されますから」
「わかってるって。おれもまだ死にたくない。……にしても、おかしいな」
「そりゃあ、この状況はどこからどう見てもおかしいでしょう」
「ちがう、芽衣。そうじゃない」
「?」
「おれがヘンと言ったのは、駄犬のことだよ」
「千祭さんがどうかしましたか」
「ここはもう四階だ。そしておれたちはいま亀松百貨店の支配人と副支配人の代理戦争の真っ最中。にもかかわらずだ。どうして連中はいっこうに姿を見せない? これだけの騒ぎだ。すぐに気がつきそうなものなのに」
「……一発目の怪異、屋上で手間取っている、とか。どうにも上に行くほど、発生する怪異がややこしくなっているみたいですし」
「かもしれない。でもアイツは仕事だけは出来るカマだ。悔しいが経営者としては優秀なんだよ。駄目だと判断したらさっさと見切りをつける。それが降りてこないとなると……」
「はっ! ひょっとして、上で何かが起きている?」
芽衣の言葉におれはコクリとうなづく。
おれたちは騒ぐオモチャどもから回れ右。
エレベーターに乗り込むと、すぐさま五階のボタンを押した。
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