おじろよんぱく、何者?

月芝

文字の大きさ
787 / 1,029

787 四階の怪

しおりを挟む
 
 三階の怪は、売れ残りどもの反乱?
 とはいえ内容は可愛らしいもの。
 朝までちゃんかちゃんか踊って騒いで、存分に日頃の憂さを晴らし、あとは各々が希望の売り場にちょこんと居座るだけ。
 それがいつのまにやら商品が勝手に移動していたナゾの正体。

 なにげに売れ残りどもの数が多い。
 これをチカラづくで抑えつければ、暴発しかねない。
 そこでおれたちは三階の問題はいったんスルーすることにする。
 おれは資料の片隅に解決案を書きかき。

「えーと……、大幅プライスダウン、もしくは在庫一掃のためのワゴンセールでも開催して、すみやかに数を減らすべし。ぐずぐずしていると同調する不良在庫が増えて、じきに手がつけられなくなる可能性大」

 その書きつけを横からのぞき込んだ芽衣がひと言。

「在庫処分はけっこうですけど、売れた先でこの連中がおとなしくしているでしょうか? 夜ごと動き出したら、すぐに返品されちゃいそうですけど」

 これに対しておれは「そんなもん、チラシの隅っこにでも小さく『返品不可』って書いとけばいいだけだ。あとは知らぬ存ぜぬで通す」とのたまう。

  ◇

 エレベーターで四階へ。
 チーンと扉が開いたとたんに、なにやら騒がしい。
 位置的にも、いよいよ桜花探偵事務所チームとかち合ったかとおもったが、それは早とちり。

「なんだ、ありゃあ?」
「オモチャの戦争?」

 このフロアは子ども向けの商品を中心に、ペット用品とあと紳士物が少々という構成。
 そのうちの玩具どもが大暴れ。
 クマと恐竜のヌイグルミ同士が殴り合い、からのプロレス技の応酬。
 オモチャの兵隊たちがラジコン戦車とともに進軍。これを迎え撃つのは、合体ロボで構成された煌びやかな一団。
 あちらこちらの棚の高いところでは、「ははははは」と笑い声。やたらと高笑いをしているヒーローの稼働フィギュアたちがビシっとポーズを決めている。
 かとおもえば、別のところではサッカーに興じている集団もあった。ちょこまか動く小さな影は、カチャカチャ手元のレバーを操作して遊ぶサッカーゲームの人形たち。
 その向こうでは野球盤から飛び出した面々が、銀玉を投げて打っては「きゃあきゃあ」追いかけてのナイターゲームの真っ最中。
 着せ替え人形たちが優雅に舞踏会をしているところもあれば、なぜだか拳で語り合う武闘会をしているところもある。
 敵味方の区別なし。めったやたらとぶっ放されているのはスポンジの弾丸。オモチャのガトリングガンが火を噴く。
 空中にはブーンと小型のドローンが飛んでいる。それに掴まっては「ひゃっはー」しているのはブロックの人形。
 風に煽られ舞うは色とりどりのお札たち。人生の成り上がりのボードゲームに使用されるアレだ。

 三階よりもさらにひどい惨状に、おれと芽衣はポカン。

「なぁ、芽衣。おれ、この前、テレビでこんな感じの映画を見たんだけど」
「あー、アレですね、四伯おじさん。おっと、くれぐれもタイトルは口にしないでくださいよ。あそこの会社に睨まれたが最後、ぷちっと抹殺されますから」
「わかってるって。おれもまだ死にたくない。……にしても、おかしいな」
「そりゃあ、この状況はどこからどう見てもおかしいでしょう」
「ちがう、芽衣。そうじゃない」
「?」
「おれがヘンと言ったのは、駄犬のことだよ」
「千祭さんがどうかしましたか」
「ここはもう四階だ。そしておれたちはいま亀松百貨店の支配人と副支配人の代理戦争の真っ最中。にもかかわらずだ。どうして連中はいっこうに姿を見せない? これだけの騒ぎだ。すぐに気がつきそうなものなのに」
「……一発目の怪異、屋上で手間取っている、とか。どうにも上に行くほど、発生する怪異がややこしくなっているみたいですし」
「かもしれない。でもアイツは仕事だけは出来るカマだ。悔しいが経営者としては優秀なんだよ。駄目だと判断したらさっさと見切りをつける。それが降りてこないとなると……」
「はっ! ひょっとして、上で何かが起きている?」

 芽衣の言葉におれはコクリとうなづく。
 おれたちは騒ぐオモチャどもから回れ右。
 エレベーターに乗り込むと、すぐさま五階のボタンを押した。


しおりを挟む
感想 610

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

にゃんとワンダフルDAYS

月芝
児童書・童話
仲のいい友達と遊んだ帰り道。 小学五年生の音苗和香は気になるクラスの男子と急接近したもので、ドキドキ。 頬を赤らめながら家へと向かっていたら、不意に胸が苦しくなって…… ついにはめまいがして、クラクラへたり込んでしまう。 で、気づいたときには、なぜだかネコの姿になっていた! 「にゃんにゃこれーっ!」 パニックを起こす和香、なのに母や祖母は「あらまぁ」「おやおや」 この異常事態を平然と受け入れていた。 ヒロインの身に起きた奇天烈な現象。 明かさられる一族の秘密。 御所さまなる存在。 猫になったり、動物たちと交流したり、妖しいアレに絡まれたり。 ときにはピンチにも見舞われ、あわやな場面も! でもそんな和香の前に颯爽とあらわれるヒーロー。 白いシェパード――ホワイトナイトさまも登場したりして。 ひょんなことから人とネコ、二つの世界を行ったり来たり。 和香の周囲では様々な騒動が巻き起こる。 メルヘンチックだけれども現実はそう甘くない!? 少女のちょっと不思議な冒険譚、ここに開幕です。

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

蔑ろにされましたが実は聖女でした ー できない、やめておけ、あなたには無理という言葉は全て覆させていただきます! ー

みーしゃ
ファンタジー
生まれつきMPが1しかないカテリーナは、義母や義妹たちからイジメられ、ないがしろにされた生活を送っていた。しかし、本をきっかけに女神への信仰と勉強を始め、イケメンで優秀な兄の力も借りて、宮廷大学への入学を目指す。 魔法が使えなくても、何かできる事はあるはず。 人生を変え、自分にできることを探すため、カテリーナの挑戦が始まる。 そして、カテリーナの行動により、周囲の認識は彼女を聖女へと変えていくのだった。 物語は、後期ビザンツ帝国時代に似た、魔物や魔法が存在する異世界です。だんだんと逆ハーレムな展開になっていきます。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

転生小説家の華麗なる円満離婚計画

鈴木かなえ
ファンタジー
キルステン伯爵家の令嬢として生を受けたクラリッサには、日本人だった前世の記憶がある。 両親と弟には疎まれているクラリッサだが、異母妹マリアンネとその兄エルヴィンと三人で仲良く育ち、前世の記憶を利用して小説家として密かに活躍していた。 ある時、夜会に連れ出されたクラリッサは、弟にハメられて見知らぬ男に襲われそうになる。 その男を返り討ちにして、逃げ出そうとしたところで美貌の貴公子ヘンリックと出会った。 逞しく想像力豊かなクラリッサと、その家族三人の物語です。

消息不明になった姉の財産を管理しろと言われたけど意味がわかりません

紫楼
ファンタジー
 母に先立たれ、木造アパートで一人暮らして大学生の俺。  なぁんにも良い事ないなってくらいの地味な暮らしをしている。  さて、大学に向かうかって玄関開けたら、秘書って感じのスーツ姿のお姉さんが立っていた。  そこから俺の不思議な日々が始まる。  姉ちゃん・・・、あんた一体何者なんだ。    なんちゃってファンタジー、現実世界の法や常識は無視しちゃってます。  十年くらい前から頭にあったおバカ設定なので昇華させてください。

処理中です...