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807 狂信者
しおりを挟むけっして朽ちることなく、衰えることなく、いかなる怪我や病魔をも退け、永遠の時間を生き続ける不老不死……。
古代の錬金術師たちは、これを成すために賢者の石の錬成の研究を続けた。
仙人となるべく世俗を断って、山奥に籠り修行を続ける者もいる。
秦の始皇帝は徐福に命じて、蓬莱山へ生命の霊薬を取りに行かせた。
古事記には常世の国へ、不老不死になれる木の実を取りに行く男の話がある。
かぐや姫は月への去り際に、生命の霊薬を置いていったものの、お爺さんは天皇とが相談をして、日ノ本で一番高い山にて焼いたという。
女神月読が持つという、若返りのできる変若水。
雅楽には、不老不死をテーマにした「採桑老」なる舞があるものの、踊るとヤバいらしい。
人魚の肉を喰らうと長生きできるという伝説は、あまりにも有名であろう。
そして時は流れて現代へと至っても、なおもヒトはそれを追い求めている。
医学は発展し、人体の神秘についての研究は日進月歩。スーパーコンピューターによる高速シュミレートも可能となり、研究はさらに加速するばかり。
とはいえ肉体には限界があるので、ならば意識だけでも別のところに移籍させてはどうかなどという、かつては荒唐無稽なSF小説とされていたことも、にわかに現実味を帯びてきている。
いつの時代も、人々を魅了してやまないのが不老不死という幻想。
「そんなもの、不可能だ。ありえない」と強く否定する一方で「でも、ひょっとしたら」とか「なれるものならば」とも考えてしまう。
そんな矛盾の狭間でポコポコと生まれたのが、迷信の類。
いまでいうところの都市伝説的な何か。
大多数の者らが一笑にふすようなこと。
なのになぜだかそれを強く信じ込む者たちがいる。
これを狂信者という。
『鬼の生き血を啜り新鮮な心臓の肉を喰らえば、強靭な肉体が手に入り、限りなく不老不死に近づける。ただし、ただの鬼ではダメだ。鬼の中でもやんごとなき身分の者でなければ……』
もちろんそんな事実はない。むしろ腹を壊す。とんだ世迷言。
だというのにそんなデマを本気で信じている阿呆な団体がいる。
名を「愛葉会」という。
表向きは健康食品を販売したり、お年寄りが集まれる場を提供したり、サークル活動を支援したり。
でも実体は孤独な老人たちを喰い物にする悪質なカルト教団である。
霊感商法をはじめとして、投資詐欺やら後妻業までしては、お年寄りらから尻の毛までむしりとる。
◇
カラス女によれば、そんな阿呆どもがにわかに活気づいているとのこと。
どうやら伯魅に目をつけたらしい。
だがしかし……。
「でも、愛葉会の連中、どうやって伯魅のことを知ったんだ?」
おれはくわえタバコにて首を傾げる。
なにせ彼女の産みの親は赤鬼を率いる烈女。伯魅はいうなれば鬼姫さま。生後間もないだけでなく、その情報は鬼族にとっても最重要機密に相当しているはず。
全国展開している桜花探偵事務所の社長でもある桜花朱魅は、政財界に太いパイプを持ち、あらゆる情報に精通している。そんな女傑が、うかうか身内の大切な情報を外部に漏らすのを許すわけがない。
「おいおい冗談だろう。まさか、わざと情報を流したのかよ……」
おれの言葉にコクンとうなづいたカラス女が、二本目のタバコに火をつける。
「そのまさかだろうな。どうやらこれを機に、チョロチョロうっとうしいハエどもを炙り出して、まとめて始末する算段のようだ」
「にしたって、ふつう自分の娘を囮に使うか? いったい何を考えていやがるんだ!」
「だからだろう。ふつうじゃねえからな、あの女」
とんでもない鬼母っぷり!
いや、そもそもが鬼だけどさぁ、ものには限度っていうものがあると思うんだけど。
おれは心底呆れ、カラス女は肩をすくめた。
やれやれである。
どうやらおれのパパ活は平穏無事にはほど遠いものになりそうである。
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