おじろよんぱく、何者?

月芝

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839 関守

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 体中に張り巡らされた血管や神経のように、地面の下にもまた大小さまざまなエネルギーの流れが存在する。水脈やマグマなどの目に見えるものから、現代の科学ではわからない魔訶不可思議なナゾパワーなどなど。それは大気や海の中にもあって、相互に作用しながら様々な現象としてあらわれている。

 ガイア理論というのがある。
 地球をひとつの巨大な生命体として見なす説のこと。
 この星に生きとし生ける者みな兄弟、人間も動物も植物も環境も、空も海も大地も、みんながみんなを助け合いながら生きてる。

「ボクたちはひとりじゃない! ひとりはみんなのために! みんなはひとりのために! みんなみんな生きているんだ、友だちなんだ!」

 みたいなロマンチックな説、もしくは哲学に近しいか。
 いかにも厨二心をくすぐられるこの考え。
 だがしかーし、地球は一個の生命体であるといった主張は科学的な検証を欠いており、しょせんは概念に過ぎず、「なんかそれっぽいよね?」という程度にて、その独創性や大きな視点に考え方こそは評価されているものの、多くの科学者たちからは距離を置かれているのが実情。

 もっともここ日ノ本では、太陽や雨、雲、海、山、川、動植物など、すべてのものには神が宿っており、すべてが等しく尊く愛おしい。感謝の念を抱く対象であると考える自然信仰が古くから根付いており、「なにをいまさらご大層なことをのたまっているのやら」といった反応。

 以上のようなことをつらつら述べてから武内宿禰が言った。

「星が生命体というのはよくわからん。だが、目には見えぬ大きなチカラのうねりが存在しているのはたしかだ。そしてその一部が噴出したり、影響が及んでいるところがあるのもまた事実。細かい理屈までは知らん。どうしてそんなシロモノが存在しているのかもわからん。
 しかし大古よりヒトも獣らや草木たちも、それを無意識のうちに肌で感じて、あるときはこれを取り込み利用しようとし、あるときはこれを遠ざけ蓋をした」

 千年王都と呼ばれる京の都を筆頭に、江戸から東京へと名を変えていまなお栄えている場所、緑濃く生命力に溢れ植生が旺盛な森、作物がぽこぽこよく育つ土地、ヒトや物や金がやたらと集まる処……。
 これらは総じていい影響を受けており、ナゾパワーの恩恵をうまく使っているといっていいだろう。いまでいうところ縁起のいいパワースポットみたいなもの。
 けれどもいいことばかりじゃない。
 光があれば闇が産まれるもの。
 年がら年中、武器を手に取ってはいがみ合い、殺し合いの紛争ばかりをしている地域。耕せども耕せども実りがない土地、じりじり砂漠化が進行している所、これでもかというぐらいに自然災害に見舞われる場所、やたらと不幸が続く家や、せっかく平和になってもすぐに乱が起こる落ちつきのない国とか……。

 もちろん、すべてがすべてナゾパワーの恩恵の有無が原因というわけじゃない。
 だが人心が乱れやすく、資源が枯渇し、利己的な考えが蔓延り、奪え寄越せと互いに傷つけ合うようになる。そこから先は悪循環のドロ沼。なのにやめられない止まらない。
 まるで呪われたかのような場所の大半が、悪い影響を受けてのこと。

「えー、こほん。いささか前置きが長くなったな。で、肝心の高月という土地なのだが、ここをひとことで言いあらわせば『変』に尽きるのよ」
「へ、変なのですか、武内さま」
「えー、なんかヤダ」

 武内宿禰の言葉におれは困惑し、芽衣は唇を尖らせる。
 だが「その証拠に妙ちきりんな奴ばかりが、集まる傾向があるだろう?」と言われたら「あぁ」と納得するしかない。
 なにせ変態どもの一大産地だもの。
 それなりに栄えているところをみれば、それはナゾパワーのいい影響を受けているらしい。でもそれと同時に変な怪電波でも垂れ流されているのか、思考が常人の斜め上を突き抜けている阿呆がスクスク育ちやすく、それをあっさり受け入れちゃう土地柄にもなっている。

 勘がよく賢い連中は「むむむ、ここってば何やら不思議なエナジーを感じるかも」と反応したがゆえに、やたらと増えたのが古墳やら寺社仏閣たち。
 そして「なんだか居心地がいいよね」とふらふら集まったのが、現在の住人たちであると。
 でもって武内宿禰は「自分はこの地の関守のようなもの」と最後に付け加える。
 関守とは関所を守る役人のこと。
 己という高位の存在が栓の役割りを果たすことで、噴出するナゾパワーを調整しては、ほどよくまろやかにしている。
 とどのつまり、武内宿禰は高月の平穏を見守ってくれている守護神みたいなものっ!

 そんな守護神さまが急に真顔となり「じつはその方らに頼みたいことがある」と言い出したから、さぁ、たいへん!
 いったいどんな無理難題を吹っかけられることやら。
 おれと芽衣は緊張のあまり冷や汗たらりにて、ごくりと喉を鳴らした。


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