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880 獣王武闘会本戦 一回戦第四試合 中編
しおりを挟む一回戦第四試合は変則戦。
二対二のタッグ戦がふたつに、ラストに大将戦が一対一という流れ。
しかし新生パンドラには数合わせのお飾りであるルクレツィア・ギアハートがいる。
先鋒をアニマルロボ天狼と英円、中堅をオコジョくのいち・かげりと宮本めざし、大将にルクレツィア・ギアハートを置くという布陣。はなから大将戦は捨て、先鋒と中堅戦で試合を決める腹積もり。
対するチームかむかむ。
先鋒をイリエワニの上杉とホオジロザメの浅倉、中堅をブチハイエナの西村とカバの新田、大将にジャガーの柏葉という布陣にて試合に臨む。だが戦う前からすでに大将戦の一勝は決まっているので、先鋒か次鋒のどちらかを制すれば勝ちとなるから、心理的にかなり余裕がある。
なおチーム名かむかむの由来は咬合力。チームメンバー全員が噛むチカラに定評のある動物たち。平仮名表記なのはチームゆうていと同じ理由なのが、ちょっと恥ずかしい。
◇
試合開始。
先鋒戦、「タッグ? 連携? なにそれ?」状態にて、てんでばらばらな新生パンドラ側に対して、かむかむ側は協力して戦いに臨む。絶えず二対一となる形を崩さず、数の優勢を保つ。
アニマルロボ天狼が右手をかざすと、その指先から飛び出したのはバチバチスパーク!
雷電が暴れて襲いかかる。
だがイリエワニの上杉とホオジロザメの浅倉はさっと左右に分かれてこれを回避。ばかりか、攻撃の射線上にわざと英円を重ねていたことにより、新生パンドラの同士討ちを狙う。
たまらないのが英円。いきなり雷がドカンと襲ってきたもので慌てて飛び退り、「何しやがる、このマヌケポンコツ!」と激昂。
すると言われた天狼もカチンときたらしく、攻撃の手を止めるどころかさらなる雷光を見舞ったもので、仲違いはさらにエスカレート。
チームワークもへったくれもない。ゆえにこれは楽勝かとおもいきやさにあらず。
個別の戦闘能力が群を抜いているので、それで強引に失態を補う新生パンドラ側。
◇
なんだかんだで傍目にはいい試合?
しかし舞台袖から観戦している尾白探偵事務所チームの面々は、みないちように首を傾げている。
「変だな」とおれこと尾白四伯。
「変ですね」とタヌキ娘の芽衣。
「らしくない」とトラ猛女の弧斗羅美。
「一進一退の攻防……と言えなくもありませんけど」とアニマルメイドロボの零号。
「チームかむかむの方はあれこれやってるけど、新生パンドラはのらりくらり。まるで試合をわざと引き延ばしているみたいだ」とは金髪リーゼントのヘビ娘である白妙幸ことタエちゃん。
一見するといい感じでぶつかっている両チームの先鋒たち。
客席の盛り上がり具合からしても、それは間違いない。
だがいまだに奥義らしい奥義を披露していない英円、獣人化もなし。天狼にしたって小手先のギミックばかりで大技を出す素振りすら見られない。
まだ初戦ゆえにあえて手の内を隠しているとも考えられるが、にしたって天狼はともかくあの沸点の低い英円が格下相手にちんたら戦っていることが、あまりにも不自然過ぎる。彼女たちのことをよく知るおれたちからすると不気味でしようがない。
「いったい何をたくらんでいやがるんだ」
おれは貧乏ゆすりにて苛立ちながら戦いの行方を注視する。
ついタバコに手をのばすも、それは芽衣に「ダメっ、会場内は全面禁煙」と止められた。
くっ、愛煙家は肩身が狭い。
そうこうしている間にも時間は過ぎていき、三十分ほども経った頃。
適当な盛り上がりの後、そろそろ客たちもダレてきたかも、という絶妙なタイミングで試合を決したのは英円。
「ここだ!」とばかりに、左右から同時に英円へと殺到するイリエワニの上杉とホオジロザメの浅倉。ひと息に銀髪女の首を刈りにいく。
三つの影が重なる刹那、英円が三本傷のある顔を歪ませ笑う。たちまち彼女の肩が盛り上がり両腕が獣人化。
トラに伝わる滅爛虎慄紅武爪術は、実用レベルにて人と獣のハイブリッド、獣人化を体現した唯一の武術。かつては師事し、破門後にはこれを独自に昇華させた音嗚滅爛虎慄紅武爪術を会得した英円。
世にも稀なる銀毛のトラの逞しい腕がのびてむんずと掴んだのは、上杉と浅倉の頭部。めり込む指先にてめきりと軋む。
銀毛の豪腕が高らかに振り上げられた。英円の頭上にてがつんと鈍い衝突音を立てたのは、ぐしゃりとかち合わせた上杉と浅倉たち。だがまだ終わりではなかった。さらにそこから振り下ろされたふたり。そのままチカラまかせに地面へと叩きつけられる。
圧倒的膂力、暴力性による蹂躙にて沈黙するチームかむかむの先鋒ら。
爪の先についた返り血をぺろりと舐め、にちゃりとほくそ笑む英円の姿に会場内はしんと静まり返った。
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