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889 獣王武闘会本戦 一回戦第六試合 後編
しおりを挟む皇帝ペンギン。
鳥綱ペンギン目ペンギン科オウサマペンギン属に分類される鳥類。
世界中の海に数多いるペンギン種たち。その中でもっとも大きいのが皇帝ペンギン。
だがカラダが立派だから皇帝なのではない。
彼らをして皇帝と成しえているのは、南極大陸という地球上屈指の過酷な環境下にあって、堂々と生き抜いているからである。
第五大陸、絶海に囲まれ厚い氷に覆われた地。
ときにマイナス八十度にもなる寒極にて、ときに太陽からも見放され、空気は乾燥しがちにて、沿岸部には滑降風なる暴風が吹き荒れ、ときに積雪を巻き上げ地吹雪となる。
そんな場所で生き続けるばかりか、しっかり種を保存してきた。
皇帝ペンギンたちが脆弱であろうはずがない。
必要とあらば五百メートルの深海へと潜り、餌を求め千キロも移動することさえもあるのだ。
西園寺景がイケメンエリート社員みたいな人化を解いて、本来のペンギンの姿となる。
「ゆくぞ。皇帝拳、咎叛!」
すちゃっとうつ伏せに寝転がったペンギン。足のツメが地面にぐっと喰い込んだと思ったら、それを起点としてドンとその身が打ち出された。
トンデモナイ射出速度のロケットスタート!
ペンギンミサイルが砂煙を上げながら地を猛然と疾駆する。
進行方向に敵のみでなく味方がいてもおかまいなし!
みなが慌てて避けるのを横目に、ペンギンミサイルの身が浮かんでテイクオフ。
ペンギン、空を飛ぶ。
◇
人魚族が武具を振り回しては白刃閃く真海流の奥義を放つ。
負けじと海獣ネオの面々も応戦。ダイナミックかつアクロバティックな嘩威勇漢戦闘術技の数々が炸裂する。
そんな中をペンギンがびゅんびゅん、縦横無尽に飛び回っては誰彼かまわず跳ね飛ばそうと暴れる。
混沌にして狂喜乱舞の様相を呈する第六試合。
さなかに決まったのは、オットセイの甲賀信とジュゴンの将護院ジョリーのタッグによるサンドイッチ式延髄蹴り。前後から挟まれ同時にキックを喰らったのは矛を持つ人魚族の男。「ぐはっ」とうめいてたまらず膝をつく。
意識朦朧にてふらふら、そこに突っ込んできたのがペンギンミサイル。尖ったクチバシがぴたりと合わせられてロックオン!
ドンッ。
撥ねられたその身が大きく宙を舞い、くるくるきりもみしながら離れたところにぐしゃりと落ちた。
深海の逆襲チーム、ひとり脱落。
けれどもそれを横目に人魚族の美女ふたりから滅多斬りにされたのは、セイウチの伊勢道隆。不覚にもあらわとなった太腿につい目を奪われ、そこに挟撃を喰らう。
彼女たちの得物は剣と鱗の集合体の鞭。
「真海流風波剣式、紅尾!」
「真海流鱗式、鱗群渦!」
剣の竜巻と鱗の渦により血風が吹き荒れ、巨漢がズタボロにされる「ぎゃっ」
白目を剥いて己が血だまりに沈んだセイウチの伊勢道隆。
海獣ネオチーム、ひとり脱落。
これで四対四。勝敗の天秤がどちらかに傾きかけたとおもったら、すぐに引き戻される。互いに一歩も引かず。試合は一進一退で推移していく。
拮抗を破ったのは海獣ネオ。ひとり脱落したのを逆手にとって、タッグをトリオに切り替える。
ジュゴンの将護院ジョリーが超低空フライング・クロスチョップにて、足下を刈りにきたもので、慌てて跳んで避けたのは盾を持つ人魚族の男。だがその腰が背後からがっちり抱きすくめられ、ぎちりぎちりと締めあげられる。トドの伊賀泰三によるベアハッグ。けれどもそれで終わりではなかった。
存分に締めあげ相手がぐったりしたところで、宙へと向けて高らかにぶん投げた。
これを容赦なく撃墜したのが西園寺景のペンギンミサイル。
ミサイルの接近を察した相手がとっさに盾にて防ごうとするも、踏ん張りの利かない空中ではいかんともしがたく。盾にて直撃こそは避けたものの、衝突の勢いにて闘技場の端の壁まで吹き飛ばされてしまう。背中からもろにぶつかり「がはっ」
深海の逆襲チーム、ふたり目が脱落。
これにより勢いに乗る海獣ネオ側。
けれどもその流れを早々にぶった切ったのは、戦斧を手にした人魚族の男。いや、より正しくは粉砕したか。
「真海流淵斧式、砕波!」
掛け声とともに戦斧が向けられたのは足下。
爆砕された地面が大きく抉れてクレーター状となり、そこにあった大量の土砂をいっきに周囲へと散乱する。
これにより海獣ネオの面々が分断されたばかりか、視界を塞がれた西園寺景が気づいたときにはすぐ眼前に闘技場の壁が迫っていた。このままでは自爆してしまうので、慌てて右に急旋回をし回避行動を取るも、そこに運悪くいたのがトドの伊賀泰三。
ペンギンミサイルによる同士討ち。撥ねられた伊賀泰三は「ぐぬぬ、無念」とダウン。
かくして三対三のイーブンとなっての仕切り直しとなった。
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