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903 獣王武闘会本戦 準々決勝第一試合 先鋒戦
しおりを挟む獣王武闘会本戦、大会二日目はあいにくの雨模様。
けれどもここ「せのうみドーム」のSFチックな外観は伊達じゃない。全面特殊ガラス張りにて、天候に左右されることはない。
闘技場およびパブリックビューイング会場は朝一番から熱気に包まれている。それもそのはず。本日一発目、Aブロック準々決勝第一試合は姫路アニマルキングダム選抜VS天狗道という組み合わせなのだから。
動物界を代表する西の雄と生ける伝説との対戦に、俄然盛り上がる観客たち。
じつは天狗と動物はけっこう因縁深い。
かつては同じ深山に暮らしていたこともあって、まぁ、いろいろあった。
近年では先代の蒼雷である葵がやらかした、京の都は嵐山の渡月橋事件がとみに有名。桜舞い散る月下にて群がるカラス天狗どもを相手に大立ち回り。ばったばったと薙ぎ倒し、桂川をむしったカラスどもの羽で黒く染めた。
でもって、近々では二代目の蒼雷である芽衣がやらかした、保津峡七番勝負。
捲土重来を掲げ、リベンジに燃えるカラス天狗ども。その精鋭を相手にし孤軍奮闘、立ち塞がる相手をタイマンで次々と撃破し、渓谷にカラス天狗たちの慟哭が木霊する。
祖母と孫娘、師弟そろってのやらかし。
あとは殺生石騒動のおりに、聚楽第の手の者らがちょっかいを出した魔王杉事件。
魔王杉とは、京都と滋賀の県境の深山にある巨大な杉の大木のこと。この地の空を渡る天狗どもが、翼を休めるの使う休憩所として古くから知られていたのだが、ここに何か悪戯をしたらしい。すぐに一帯が封鎖されたので詳細は不明だが、これに天狗たちはたいそうご立腹とのこと。
他にも細々としたことが多々。
いかにカラス天狗どもが下っ端とはいえ、このまま舐められたのでは天狗の沽券にかかわる。
「毛玉風情が調子に乗りおってからに。じつにけしからん! あと人間ども、不法投棄と盛り土をやめろ! 山が荒れるではないか!」
ならば大天狗みずからが出張ってガツンとお灸を据えるのかというと、それはちょっと……。
なにせ天狗はえらい。そんなえらい天狗の中でも大天狗はもっとえらい。とってもえらいからして軽々と下々の前に姿をあらわすのは、なんかちがう気がする。
そこで今大会に送り込まれたのが、天狗道のメンバーたち。
各々が仕えている主人の苗字を名乗ることを許されるほどの実力者揃い。その圧倒的なチカラにて一回戦では五人抜きの快挙を達成しての勝ち上がり。
ただの五人抜きではない。本戦に出場することを認められた猛者を相手にしてのこと。その意味を正しく理解できる者ほど戦慄を禁じ得ない。
対する姫路アニマルキングダム選抜だが、じつはこちらも「すごい」とのウワサばかりが先行している感がややある。
というのも西日本最大級のサファリパークが誇る近衛師団は、二十一名の強者により構成されており、主な任務は園の治安維持。メンバーが外部に出ることはほとんどないがゆえに、顔や実力が判明していない者も多いのだ。
いや、より正しくはある程度であれば把握できないこともない。
園公式のトレーディングカードを購入すれば、激レアカードとして近衛師団らのキラキラカードが手に入るので、そこに記載された画像と情報からちょびっとならば知ることができる。
しかし人気のあるキャラのカードは裏で高額取引されており、めったに流出することがないので入手は非常に困難を極める。
ちなみに入手難易度がだんとつに高いのは、位階二十一にて通称ロストナンバーと呼ばれているキャラカード。
位階こそ最下位だが、この位階の者の任務は影働き。裏の実力者にて戦闘能力だけならば上位陣に匹敵するとも。なおウワサでは姫路アニマルキングダムの査問会を執り仕切っているメンバーのうちのひとり、補佐官であるサイの草加道子がロストナンバーなのではと囁かれているが真偽は不明。
なおだんとつで高額取引されているのは、位階三のマウンテンゴリラの佐藤晋太郎のカードである。精悍かつ端整な顔立ちに美しすぎる肉体美が圧倒的支持を受けてのこと。
準々決勝第一試合の試合形式は星取り戦となった。
先鋒戦、姫路アニマルキングダム選抜からは、ナキハクチョウの細川巴。天狗道からは、鞍馬山三千代。
細川巴は黒い刃が印象的な薙刀を手にたたずむ黒衣の美女。全身黒づくめにて肌の白さが際立つ。目元を前髪で隠しうつむき加減の女はずっとぶつぶつ、「私なんてどうせ」「私は不幸を運ぶ女」なんぞと独り言を続けている。
ただそこにいるだけで周囲に闇がにじんで広がりそうな陰気な女性。山吹倶利伽羅流の遣い手にして近衛師団の階位は十一。
邪魔な天狗の面を外し、ついでに翼までとって? 闘技場にあらわれた鞍馬山三千代は、やさしい面差しの和風美女。けれども手には日本刀を持っており、たたずまいからだけでも相当の遣い手だとわかるほど。
くしくも女性対決となった先鋒戦。だがその内容は序盤から激しい立ち合いとなった。
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