おじろよんぱく、何者?

月芝

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975 援軍続々

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 タンッ!

 固い床を踏みしめたカカトが小気味よい音を立てた。
 自信満々に胸をそらし、斜め四十五度の上空に顔を向けては、お馴染みのポーズでの高笑い。
 三大化けタヌキの一雄、屋島太三郎狸の直系、金髪縦ロールの豪奢な美少女のタヌキお嬢さま、平多紀理がチームメイトらを引き連れて推参する。

「オーッホッホッホッ、楽しそうだこと。わたくしもお祭にまぜて下さいな」

 言うなりアニマルロボ甲軍団へと向かっていく。
 当然ながら平多紀理へと襲いかかる敵勢、だが近づいた端からその姿がブレて消えた。
 かとおもえば、床に叩きつけられたり、反対側に投げ飛ばされたり、コンテナの側面にめり込んだり、宙を舞っては同士討ちとなる。
 彼女が遣う屋島蓑山流四十八霊やしまみのやまりゅうしじゅうはちれいは、四国のタヌキたちに伝承されてきた合気道に似た武術である。四十八の基本の型を組み合わせることによって、ありとあらゆる攻撃に対処し、これを受け流し、ときに倍加にして跳ね返す。専守防衛を信条とする。
 打撃よりも投げに特化しているがゆえに、一対多数の乱戦には不向きにおもわれたが、さにあらず。
 むしろその逆であった。
 平多紀理を中心にして形成されるのは、固い防御を誇る絶対領域。
 瞬時に状況を把握し、近づく者を自動で迎撃し、間合いに入ればたちまちぶん投げられるのだ。

「お嬢にばかりいいカッコはさせられんきに!」

 続いて敵勢へと突進し、平多紀理に並び立ち、オラオラと武を振るうのはカリアゲつんつん頭のタヌキヤンキー娘の安房野弁天であった。

「ちょ、ちょっと待ってってば~」

 戸佐森弓弦もこれに続く。実力はあるのに、ちょっとシャイなところがあるタヌキ青年は、あいもかわらず幼馴染みのふたりに振り回されているようだ。

「いや~ん、青春だわ。若いって、いいわねえ」
「やれやれ、若い人たちのお守りはたいへんです。そろそろ誰か、変わって欲しいのですけど」

 オネエタヌキの絵島郁恵、引率役であるおっさんタヌキの香川重盛ら大人組も合流し、チーム四国連合が勢ぞろいしたところで、たちまち敵勢の一角が崩れはじめた。

 地崩しにて地を制し、天崩しにて天を制し、人崩しにて人を制す。
 天地人を制し、ついには天地明察にて自在に反転させるに至る。
 かくして場を完全な制御下に置くことこそが、屋島蓑山流四十八霊の極意。
 平多紀理は産まれながらに「重心を見抜く目」と「絶対重心」の恩恵を得ている。

 重心を見抜く目とは、ありとあらゆる物の重心の位置を即座に把握する目のこと。
 絶対重心とは、いついかなるときにも己の中にある重心を的確に捉えて見失わないこと。

 拳には拳の中心があり、重心となる位置がある。
 蹴りには蹴りの中心があり、重心となる位置がある。
 森羅万象、ありとあらゆるモノにそれは存在し、行動するたびに発生する。
 これをちょいと小突いてやれば、たちまちバランスを崩してしまう。
 それをたやすく見極められるのが平多紀理の天稟であり、実際に可能とするのが屋島蓑山流四十八霊の武である。

 平多紀理を中心にして、四人が陣を構築し、横に繋がり連携することで、天稟の恩恵が仲間たちにもおよび、五人がひとつの大きな獣となって暴れては敵陣を浸蝕していく。
 彼女彼らの故郷である四国といえば、日ノ本屈指のタヌキのメッカのような場所。
 じつはそれゆえに、かつては群雄割拠の様相を呈して、血で血を争う抗争が絶えなかった土地でもある。
 そんな土地を制し、連綿と受け継がれてきた武は、乱戦混戦でこそ華開く。

 頼もしい援軍はそれだけではなかった。
 獅子王・千石京志郎が率いるチーム獣空手のメンバーたちが、チームワールドベアーズからはパンダの張林と北極クマの緒太守兜来が、チーム益荒男からは佐々木アルフォートが、続々と参戦しては、敵勢を押し返していく。
 心強い味方を得たおれたちも息を吹き返し、ふたたび前へと。


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