おじろよんぱく、何者？

976 敵陣突破

　
　ガチャン、ガチャン、ガチャン……。
　メカボディの各パーツを打ち鳴らし、押し寄せる銀の波濤。
　恐れを知らぬアニマルロボ甲軍団、圧倒的物量にて攻め立てる。

　平多紀理が率いる四国連合チームがこれを正面から受け止めたばかりか、ズズイと押し返す。
　ふたつの流れがぶつかり、せめぎ合い、拮抗……。
　戦場に停滞が生じた。
　だがこれをすかさずぶち破ったのが、獅子王の咆哮と拳である。
　千石京志郎を先頭にして、土佐犬の武田克頼、イノシシの高山宗治、黒毛牛の佐渡豪、リビアヤマネコの春海凪ら、チーム獣空手が一丸となって突撃を敢行する。
　轟っと拳が唸り、メキャリと肘がめりこみ、ガンッと蹴りが炸裂しては、次々と打ち負かされては叩き伏せられていくシルバーのメタリックボディたち。

　獣空手という武術は、人間に化けている動物用にと開発された空手であり、その流派は多岐に渡り、動物界でもっとも広く普及している。
　来るもの拒まず去る者追わず。種族を問わず誰にでも門を開いており、各地に道場があるので、その気になればいつでも学べる。それこそ気軽なエクササイズ目的から、より本格的な格闘技の習得を目指すことまで。
　実力もさることながら、その裾野の広さ、門人数の多さ、資金力、組織力を背景に、動物界では一大派閥を形成している。
　そんな獣空手の鍛錬の中には激しいのもあって、群を抜いているのが「合戦組み手」なるものである。これに比べれば連続で多数を相手にする百人組み手なんぞは序の口。
　なにせ「合戦組み手」は、野山や石河原などの屋外を駆け回り、一対多数で行われる実戦形式の荒っぽい修行なのだから。
　そして獣王武闘会本戦に出場したこのチームのメンバーたちは、みなそんな「合戦組み手」を経験してきた猛者揃いであった。

　幾重にも渡って布かれた敵陣が、獣空手チームによって次々に突破されていく。
　凄まじい突進力にて止まらない、止められない。
　ならばと、この勢いを利用して、内部深くに取り込み包囲殲滅しようと目論むアニマルロボ甲軍団であったが、そうはさせじと巨漢が暴れる。
　北極クマの緒太守兜来とパンダの張林のクマコンビである。
　人化けの術を解き、本来の獣形態となっては仁王立ち、たくましい両腕をぶんぶん振り回しては、包囲を狭めようと近づいてくる相手を片っ端に張り倒していく。

　地上最大級の肉食動物である北極クマ、五百キロ近くある巨体、そんな体を支え一日で七十キロメートルもの距離を走破する強靭な四肢を持ち、丈夫な毛皮にぶ厚い皮下脂肪にて、流氷漂う極寒の海を五十キロメートル以上も泳ぐことが可能なスタミナを持つ。
　愛らしい見た目で草食系のパンダ、動物園のアイドルに留まらず、動物界のアイドルといっても過言ではない。大きさも北極クマと比べたら、ずいぶんと小柄にみえる。実際体重は百キロほどだし、立ち上がってもせいぜい百七十センチメートルぐらいしかない。
　だがしかし、丈夫でしなやかな青竹や笹をバキバキたやすく割っては、むしゃこら喰べていることからもわかるように、その気になったらけっこう強い。あとふだんはのんべんだらりと過ごしている分だけ、しっかりチカラを蓄えているので、いざという時の爆発力は相当なものとなる。

　かくして敵陣に開いた穴を、さらに広げようと動くのは長刀を手にした佐々木アルフォートであった。
　閃く銀閃、抜けば玉散る氷の刃、長刀をひっさげた美犬剣士が縦横無尽に暴れては斬撃をふるう。

「我が剣、その技の冴えをとくとみよ！」

　突きを主体とした長剣術により、刀身がしなる。目にも止まらぬ速さにて疾駆する切っ先、宙に描き出すのは、咲き誇る藤棚のような軌跡。炸裂するのは「久万句弓一刀流、藤簾ふじすだれ」なる奥義だ。
　降り注ぐ刃、刃、刃……の斬雨、それは紫の花の房が垂れさがる幻想的な藤棚のよう。美しい光景により、たちまち多勢がまとめて切り刻まれた。

　負けてはいられないと尾白探偵事務所チームも加わり、一気呵成に攻め立てる。
　そのかいあって、ついに道が開かれたところで。

「ここはまかせて、とっととお行きなさい」
「いずれまた、お手合わせを」

　平多紀理と千石京志郎がそろって先へ行けと言ってくれた。
　お言葉に甘えて、おれたちは敵陣を駆け抜ける。