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001 双子天剣
しおりを挟む夢を見ていた。
ポポの里にある実家近くの森。
朝もやの中、小径をひとり歩いていると、奥から誰かが呼ぶ声がする。
『お願い。北へきて、剣の母チヨコ。ユンコイ山脈を越え、荒野を抜け、世界を分かつ壁のその先に……。急いで、もうあまり時間が……』
せっぱつまった感じの少女の声。
しかし正体は霧に隠れてわからない。
「どういうことなの?」
もやの向こうにいるであろう相手にたずねるも返事はなし。
ただ「北へ」「急いで」「きて」をくり返すばかりであった。
◇
商連合オーメイから神聖ユモ国へと帰国するために海路を進む途上。
船の甲板の隅、日陰に設置されてある休憩用の長椅子にて優雅に昼寝をしていたわたしは、パチクリと目を覚ます。
勢いよく上半身を起こしたとたん、目隠しがわりに顔へかぶせていた麦わら帽子がずり落ち………………ない。
いや、たしかに身から離れて落ちたのだけれども、ひとりでにひらりと舞い戻り、わたしの頭の上にちょこんとのった。
鮮やかな紅。指二本ほどしかない狭い幅の長織物。これが飾りとして帯のように結ばれてある麦わら帽子。
もったいぶるのもアレなので早々にぶっちゃけると、じつはこの帽子と紅紐は天剣(アマノツルギ)なのである。
いやぁ、おどろいたよ。
あれは帰国の船旅が始まった直後のこと。
「あいかわらず海の太陽はギンギラしているねえ。波もキラッキラで、アツアツだねえ」
なんぞとほざきつつ船の舳先にて仁王立ち。わたしが正面から潮風を受け大海原に想いを馳せていたら、急に陽射しがかげった。
見れば頭の上にはかわいらしい麦わら帽子の姿。
てっきり気の利く女官さんが用意してくれたのかと思いきや、さにあらず。
じつは顕現した天剣だったというわけさ。
いやはや、たしかに南海での争乱のおりから、「あー、海の太陽ってば森育ちにはちょっとキツイかも」とかずっとおもっていたけれども。
よもやの脈絡のない登場に、わたしはもう笑うしかない。あっはっはっ。
でもって麦わら帽子が第四の天剣・太陽のつるぎ、これに付随している赤い飾り紐が第五の天剣・月のつるぎにて、双子だというからさらにびっくり! ちなみに性別はどちらも女の子。
彼女たちも姉たち同様に名前を欲しがったので、わたしは太陽のつるぎにムギ、月のつるぎにベニオと名付ける。
世に邪悪がはびこるとき、神さまが地上につかわすという天剣。
それを創成する剣の母なる役目をおおせつかったのが、わたしことチヨコ、辺境育ちの小娘。もうじき十二歳。
わたしの心やら精神やら肉体やら魂やら成長成分やら、いろんなものを糧として創成される天剣たち。自我を持ち、様々な超常のチカラを有する。
あと天剣と呼ばれてはいるけれども、必ずしも剣の形はしていない。かつて地上に姿をみせたという連中も、槍だったり弓だったり盾だったりと千差万別だったんだとか。
でもって、なぜだかわたしが創成すると園芸用品を基本とした形状となる。
これはわたしが農家の娘で、土イジリを好み、園芸を趣味にしているせいかとおもわれる。
が、ここにきてその法則がついに崩れたみたい。
えっ、べつに崩れていないですって?
「是。野良仕事に日射病対策は必須」とはムギの言葉。
「可。紐には無限の可能性あり」とはベニオの言葉。
台詞の頭に必ず「是と非」をつけるムギ。「可と不可」をつけるベニオ。
長女ミヤビは「ですわ」口調のお嬢さま言葉。
次女アンは「……」ともったいぶった沈黙のあとに、ムダに意味深な言い回しがちょいちょい付随する。
三女ツツミは「ござる」とか「にんにん」とかヘンテコな言葉を使っている。
だからいまさら奇妙なしゃべり方の娘が増えたとて、剣の母は動じない。
コホン、話を戻す。
フム。ムギの言い分はうなづけるが、ベニオの主張はいささか無理があるような……。
わたしが「うーん」と首をひねっていると、紅紐が音もなくスルリと麦わら帽子からはずれた。かとおもったら、わたしの首元へと移動し、そのまましゅるしゅる幾重にもからまりだした。
えっ! もしかして怒ったの? このまま首をキューっと絞められちゃう?
内心ビクビクしていたら、ここで事態は思わぬ方向へと転がる。
わたしの首を中心にして赤い光の帯が幾筋も発生。たちまち首から下、胴体、手足までもがぐるぐる巻きにされちゃった。
そして全身が赤に包まれた次の瞬間、ピカッとして、わたしは変身。
上下がつながった真っ赤な作業着姿にっ!
ダボっとした大きさにて、厚手の生地ゆえに重そうだが、とても軽い。まるで羽のようだ。肌触りも素晴らしく、ちっともゴワゴワしていない。
両肘や膝など穴があきやすい箇所はバッチリ補強されているし、伸縮性のある素材らしく、しゃがんだり立ち上がったりするのも楽で、とても動きやすい。
きめの細かい光沢を持つ表面は撥水加工になっているらしく、ドロ汚れもへっちゃら。
通気性と保温性にも優れており夏涼しく冬暖かい。従来の作業着のように股下が蒸れることもなく、そればかりか消臭効果まで。あげくに大はちょっと厳しいけど、小ぐらいならばこっそり処理できるオムツ機能まで備えているだと……。
しかもしかも、その辺の盾や鎧なんぞとは比べものにならない、防御力までをも兼ね備えている。
完璧だった。
ここまで圧倒的な性能を示されては認めざるをえない。
ちょっと悪目立ちする派手な外見なんて些末なこと。
わたしは最強の作業着を手に入れてしまった。
うんうん。ベニオもまた立派な園芸用品だよ。
かくして天剣三姉妹は五姉妹となった。
あぁ、わたしの周辺がますますかしましいことになってゆく。
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