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18 釣り

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 土手の斜面に座っている二人の小さな女の子。
 真っ赤なランドセルを脇に置いて、懸命にタテ笛を吹いているのがミヨちゃん。
 練習に熱が入るあまり、キャラメル色のくせっ毛な頭がピコピコ揺れている。
 性格の良さが災いして、なにかと級友たちからは雑事を押しつけられ、クラスでもお人好しで通っている彼女。音楽の成績はそこそこ。ただしリコーダーはちょっと苦手。なぜなら手が小さくて、指で穴をキチンと抑えるのがたいへんだから。
 いい感じで吹けていたのに、ちょっと気を抜くと「ぷぴー」と調子外れのマヌケな音が響く。
 隣にて、本格的な構えにて、軽快にハーモニカを鳴らしていたのはヒニクちゃん。
 クラスでも無口無愛想で通っているが、当人はいたって真面目な女の子。幼い頃にみた西部劇の影響にて、やたらと熱心に練習をしたせいか、彼女のハーモニカの腕前は、いまではちょっとしたもの。
 小学二年生という歳相応の音を奏でるミヨちゃん。
 見た目からは想像もできないほどの、パワフルな演奏をするヒニクちゃん。
 異色のコラボが堤防に木霊し、夕方前の気だるさと相まって、なんともいえないアンニュイな雰囲気を醸し出す。

 ひとしきり練習したところで彼女たちが休憩をしていると、背後を女子高生の二人連れが通り過ぎて行った。
 その際に会話の一部がもれ聞こえてくる。

「アンタってば、いっつも同じようなヤツを好きになるよね」
「えー、そんなことないと思うけど」
「そうだって。元カレと今カレなんて、そっくりじゃん」
「うーん。そうなのかなぁ」

 異性の好みのタイプがどうたらという内容の話。
 女子高生らが完全に通り過ぎてから、ミヨちゃんは言った。

「どうして似たような人ばかりとつき合うんだろう?」

 ミヨちゃんの自室にある少女マンガのコレクションに登場するヒロインたちは、みんな一途。
 あまり過激な内容の作品は検閲にて、二人の兄たちの手によりハネられていることを末妹は知らない。シスコン気味な兄たちは、人知れず妹を世間の毒牙から守ろうと健気な努力を重ねているのだ。
 さて、そんなこととは露知らず。
 こと恋愛に関しては、ちょっぴり少女マンガ脳なミヨちゃん。
 好みのタイプに惚れるのはわかるのだが、似たような相手を渡り歩く心理がよくわからない。それなら別れる必要ないよね? と考え「うーん」と悩んでしまった。
 すると長らく閉じていたヒニクちゃんの口が、おもむろに開かれる。

「同じ仕掛け、同じエサ、だから釣れるのも同じ」

 男と女は合わせ鏡。
 付き合う相手が同じようなタイプばかり。
 それは自分がまるで成長していないことを意味していると思うの。
 ……なんぞと、コヒニクミコは考えている。


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