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51 出世
しおりを挟むピッチャー役の子が、ボーリングの要領にてボールを転がす。
キャッチャー役の子のところに、コロコロと向かうボールを、バッター席の子が蹴っとばす。
ただいま体育の授業中にて、校庭でキックベースに興じている子どもたち。
教え子らに「いっしょにやろう」と誘われて、ピンチヒッターとして参加するヨーコ先生。
打席に立ち、ポヨンと転がってきたボールを、全力で蹴ろうとして足を振り抜く。相手が子どもだからとて、手を抜くような真似はしない。そんなことをしては生徒たちが興冷めしてしまうから。遊びは本気でやるから楽しいのだ! がヨーコ先生の持論である。
が、慣れない動きに三十路手前の下半身がついてこない。
頭の中ではサッカーマンガばりの、華麗なシュートを決める勢いであったのに、足は無情にもボールの脇を抜けて空振り。オーバーヘッドキックっぽい格好にて、盛大に転ぶ女教師。現在、彼氏募集中。
「うぎゃ」
ヒキガエルが潰れたような声を上げるヨーコ先生。
これには生徒たちも、たまらず吹きだして、ドッと笑ってしまう。
「ヨーコ先生、だいじょうぶ?」
イタタと尻もちをついている先生のもとに駆け寄ったのは、ミヨちゃん。
性格の良さが災いして、なにかと級友たちからは雑事を押しつけられ、クラスでもお人好しで通っているけど、心優しい女の子。
ミヨちゃんの隣にて、寄り添うようにしていたのはヒニクちゃん。自他ともに認める無口な性質ながらも、心根が優しいことは知る人ぞ知る。
そんな彼女が黙ったままで、ある方を指さす。
するとそこには教頭先生の姿があった。
足元には割れた花瓶とスニーカーの片側が転がっている。
「げっ」自分のクツした丸出しの足をみて、声を上げるヨーコ先生。
どうやら空振った際に、靴がすっぽ抜けたらしい。そしてたまたま通りがかった上司に、見事命中したと。
ちょいちょいと手招きをする教頭先生。光線の加減にて銀縁眼鏡がギラリと反射。遠目にて表情はわからない。けれども、なんとなくご立腹の様子。
「みんなは、ちょっと自習してて」
片足立ちにて、ひょこひょこと教頭のところに向かうヨーコ先生。その背には一抹のもの悲しさが漂っていた。
これから自分たちの担任が辿る運命を察して、黙って見送る教え子たち。
すると長らく閉じられていたヒニクちゃんの口が、おもむろに開いた。
「出世のコツ。それはほどほど」
出来過ぎてもダメ。出来なさ過ぎてもダメ。
適者生存。環境に適応したモノだけが生き残れる。
それが都会のコンクリートジャングルだと思うの。がんばれ、ヨーコ先生。
……なんぞと、コヒニクミコは考えている。
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