209 / 1,003
209 論
しおりを挟む運転をしていて車で事故を起こしたら、自己責任。
キノコ狩りにて山に入って道に迷って遭難したら、自己責任。
渡航先で災禍に巻き込まれたら、自己責任。
国は国民を守る義務があるという論に付随して、必ずといっていいほど、噴出するのが自己責任論。気持ちはわからなくもない。さりとて何でもかんでも、ごちゃ混ぜでまとめて考えるのは、ちょっと違う気がする。
だというのに……
「このごろ、多くない?」
やたらと叫ばれ、独り歩きしている、自己責任という言葉。
テレビのコメンテーターとかが、ことあるごとに使い出した。それも頻繁に。
何か意見を求められたら、「自己責任ですね」の一言で片づける。
なんとなく物事の責任を、誰か一人に押しつけるかのような、ちょっと突き放したかのような物言い。そんな風潮がまかり通りつつある、今日この頃。
これに小首をかしげたのは、性格の良さが災いして、なにかと級友たちからは雑事を押しつけられ、クラスでもお人好しで通っているミヨちゃん。
悪いことをしたら、自分に跳ね返ってくる。これはわかる。
無茶をしたら、そのツケは自分で払う。これもわかる。
てめぇのケツは、てめぇでぬぐう。それがカッコイイ大人だと思う。
だけど世の中には、どうしようもないことが、時として起こる。
例えば山での天気の急変。
もちろん山に登るのにヒールで普段着とかは論外だが、どれだけ入念に事前準備を整えていたとしても、遭難するときには一流登山家であろうとも遭難する。
金融詐欺とかに騙された老人がいる。
可愛そうだけど、欲をかいた自分にも責任があるよね? それは確かにそうなんだけど、本当に悪いのって、騙した人のハズ。
なのに騙されるのがマヌケと言われ、飛び出す自己責任論。
わかるけど、わからない。
そんな気はするけど、それだけじゃない気もする。
どうにもモヤモヤしたモノがあって、スッキリしない。
「なんだかムズかしいよね」とミヨちゃん。
わりとテレビっ子な幼女は、言葉の流行に敏感。だけど通常は自然発生的なモノ。ぷくりと沸いては、パチンと弾けて消える泡のよう。
なのにこの自己責任という言葉の使われ方には、なにやら違和感を覚えたみたい。
自己責任……、その言葉自体は昔からある。
だが顕著に使われ出したのは、海外での、とある訴訟騒ぎから。
世界的なファーストフードチェーン店に、連日通い続けた男。
当然のごとく、不摂生につき、ブクブク太る。
するとこう言った。「俺がこんな体になったのは、あの店のせいだ!」
裁判に関しては、けっこうな騒ぎになるも、結局は男の難癖は認められず敗訴。
何を食べるのかは個人の自由。すべては自分の裁量内にて、どうぞご自由に。
ただし自己責任にて。
ほんの一時期だが、同じように企業に難癖をつけては、あわよくば巨額の賠償金をせしめようとする動きが、活発になった時代があった。
この頃からだ。この言葉を広く使われ始めたのは……。
これらの情報を、悩める友人のために珍しくヒニクちゃんが語って聞かせる。
企業が自己防衛のために、掲げたお題目と知り、「へぇー」とミヨちゃん納得。
その横顔を眺めつつ、ヒニクちゃんがぽつり。
「自己責任と書いて、責任転嫁と読む」
自分自身の非を悟り、おおいに反省し、成長へと繋がるのが本当の自己責任。
考えることすらも放棄して、相手に丸投げする際に、使う言葉じゃないと思うの。
昨今の不自然な世相のありよう。物の考え方。誰かの意図でもあるのかしら
……なんぞと、コヒニクミコは陰謀説を考えている。
※それっぽく書いてますが、根拠はありません。
創作話につき、くれぐれも鵜呑みにしないように。
0
あなたにおすすめの小説
乙女フラッグ!
月芝
キャラ文芸
いにしえから妖らに伝わる調停の儀・旗合戦。
それがじつに三百年ぶりに開催されることになった。
ご先祖さまのやらかしのせいで、これに参加させられるハメになる女子高生のヒロイン。
拒否権はなく、わけがわからないうちに渦中へと放り込まれる。
しかしこの旗合戦の内容というのが、とにかく奇天烈で超過激だった!
日常が裏返り、常識は霧散し、わりと平穏だった高校生活が一変する。
凍りつく刻、消える生徒たち、襲い来る化生の者ども、立ちはだかるライバル、ナゾの青年の介入……
敵味方が入り乱れては火花を散らし、水面下でも様々な思惑が交差する。
そのうちにヒロインの身にも変化が起こったりして、さぁ大変!
現代版・お伽活劇、ここに開幕です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
狐侍こんこんちき
月芝
歴史・時代
母は出戻り幽霊。居候はしゃべる猫。
父は何の因果か輪廻の輪からはずされて、地獄の官吏についている。
そんな九坂家は由緒正しいおんぼろ道場を営んでいるが、
門弟なんぞはひとりもいやしない。
寄りつくのはもっぱら妙ちきりんな連中ばかり。
かような家を継いでしまった藤士郎は、狐面にていつも背を丸めている青瓢箪。
のんびりした性格にて、覇気に乏しく、およそ武士らしくない。
おかげでせっかくの剣の腕も宝の持ち腐れ。
もっぱら魚をさばいたり、薪を割るのに役立っているが、そんな暮らしも案外悪くない。
けれどもある日のこと。
自宅兼道場の前にて倒れている子どもを拾ったことから、奇妙な縁が動きだす。
脇差しの付喪神を助けたことから、世にも奇妙な仇討ち騒動に関わることになった藤士郎。
こんこんちきちき、こんちきちん。
家内安全、無病息災、心願成就にて妖縁奇縁が来来。
巻き起こる騒動の数々。
これを解決するために奔走する狐侍の奇々怪々なお江戸物語。
四尾がつむぐえにし、そこかしこ
月芝
児童書・童話
その日、小学校に激震が走った。
憧れのキラキラ王子さまが転校する。
女子たちの嘆きはひとしお。
彼に淡い想いを抱いていたユイもまた動揺を隠せない。
だからとてどうこうする勇気もない。
うつむき複雑な気持ちを抱えたままの帰り道。
家の近所に見覚えのない小路を見つけたユイは、少し寄り道してみることにする。
まさかそんな小さな冒険が、あんなに大ごとになるなんて……。
ひょんなことから石の祠に祀られた三尾の稲荷にコンコン見込まれて、
三つのお仕事を手伝うことになったユイ。
達成すれば、なんと一つだけ何でも願い事を叶えてくれるという。
もしかしたら、もしかしちゃうかも?
そこかしこにて泡沫のごとくあらわれては消えてゆく、えにしたち。
結んで、切って、ほどいて、繋いで、笑って、泣いて。
いろんな不思議を知り、数多のえにしを目にし、触れた先にて、
はたしてユイは何を求め願うのか。
少女のちょっと不思議な冒険譚。
ここに開幕。
柳鼓の塩小町 江戸深川のしょうけら退治
月芝
歴史・時代
花のお江戸は本所深川、その隅っこにある柳鼓長屋。
なんでも奥にある柳を蹴飛ばせばポンっと鳴くらしい。
そんな長屋の差配の孫娘お七。
なんの因果か、お七は産まれながらに怪異の類にめっぽう強かった。
徳を積んだお坊さまや、修験者らが加持祈祷をして追い払うようなモノどもを相手にし、
「えいや」と塩を投げるだけで悪霊退散。
ゆえについたあだ名が柳鼓の塩小町。
ひと癖もふた癖もある長屋の住人たちと塩小町が織りなす、ちょっと不思議で愉快なお江戸奇譚。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
冒険野郎ども。
月芝
ファンタジー
女神さまからの祝福も、生まれ持った才能もありゃしない。
あるのは鍛え上げた肉体と、こつこつ積んだ経験、叩き上げた技術のみ。
でもそれが当たり前。そもそも冒険者の大半はそういうモノ。
世界には凡人が溢れかえっており、社会はそいつらで回っている。
これはそんな世界で足掻き続ける、おっさんたちの物語。
諸事情によって所属していたパーティーが解散。
路頭に迷うことになった三人のおっさんが、最後にひと花咲かせようぜと手を組んだ。
ずっと中堅どころで燻ぶっていた男たちの逆襲が、いま始まる!
※本作についての注意事項。
かわいいヒロイン?
いません。いてもおっさんには縁がありません。
かわいいマスコット?
いません。冒険に忙しいのでペットは飼えません。
じゃあいったい何があるのさ?
飛び散る男汁、漂う漢臭とか。あとは冒険、トラブル、熱き血潮と友情、ときおり女難。
そんなわけで、ここから先は男だらけの世界につき、
ハーレムだのチートだのと、夢見るボウヤは回れ右して、とっとと帰んな。
ただし、覚悟があるのならば一歩を踏み出せ。
さぁ、冒険の時間だ。
裏切りの代償
中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。
尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。
取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。
自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる