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236 ベストセラー
しおりを挟む月一恒例の飼育小屋の大掃除の日。
前回にて、すっかり楽をする味をしめた飼育係のチエミちゃん。
ミヨちゃんとヒニクちゃんに助っ人を頼んだ。
助っ人といったところで、魚群に異様に好かれる体質のミヨちゃんは、小池のほとりでぼーっと立って、飼育係たちが底をさらっている間、池のコイらを一か所に集めるだけのお仕事。
モフモフ系から異様に好かれるヒニクちゃんは、飼育小屋に君臨するオスのヤギの帝王パッソをかまうだけ。
だけどそのおかげで掃除はおおいにはかどる。とくにパッソの機嫌を気にせずに、帝王の頭突きにおびえることなく、従事できることはすばらしい。
放課後にとくに用事もなかった二人は友人の頼みを快く引き受ける。
小池のほとりにて、殺到したコイたちがびちびちとミヨちゃんを歓迎しているのを尻目に、ヒニクちゃんは帝王の背に乗って、散歩に出かけた。
校舎周りをカッポカッポと優雅に歩くパッソ。
飼育小屋がある中庭から校庭へと出たところで、たわむれに駆けさせてみると案外速くて軽快。
ヒニクちゃんはちょっと楽しくなってきたのか、上品な女の子座りを止めて、競馬のジョッキーのようにまたがり、ハイヨー。
姫のご命令ならばと、猛然と走り出したパッソ。
ものスゴイ勢いにて土煙をあげてヤギが疾走する。
流れる風を受けて、騎乗するヒニクちゃんの黒髪がサラサラゆれた。
すると背後から「こらー!」と追いかけてくる者の姿が。
担任のヨーコ先生である。パカラパカラとヤギにのって駆ける教え子の姿を見かけて、あわてて追いかけてきたみたい。
逃げるヤギを追いかける赤いジャージ姿。
三十路手前の女教師とは思えぬほどの健脚ぶりにて、十五分ほどの追いかけっこを制したのはヨーコ先生。
捕まったあとは、しこたま怒られたヒニクちゃん。危ないからパッソでの暴走行為は禁じられてしまった。
そんな出来事があった帰り道。
いつものように仲良く下校していたミヨちゃんとヒニクちゃん。
異教の祭りで本気をだす日本好きな外国人の神父が暮らしている、住宅兼教会の前を通りかかる。
門扉の側にある掲示板には、神父の筆による習作が貼られており、半紙にはにじんだ文字にて『セールスおことわり』とデンと大きく書かれてあった。あとわきの方に小さな文字にて『聖書プレゼント』とも。
これを見たミヨちゃん。「あいかわらずナゾだよね」
本来ならば、ありがたくてタメになるような言葉を書いて張り出すモノなのだが、ここの教会のコレは、とんちんかんな内容が多い。それが下手くそな習字で書かれてあるものだから、おかしくってしょうがない。
なんともクセなるとかで、一部にコアなファンがついているとかいないとか。
陽気な神父さんは布教活動そっちのけで、毎日をエンジョイしている。
信仰に関しては、来る者拒まず、去る者追わず。押しつけるのではなくて、自然と浸透するのが望ましいという考え。
でも、そんな人だからこそ周囲と余計なトラブルを起こすこともなく、仲良くやっていけているよう。
「そういえば聖書って世界でいちばん売れている本なんだって。すごいよね。大ベストセラーだよ。誰が書いたのかしらないけれど超売れっ子作家だよ。夢のウハウハ印税生活だよ」
半紙にプレゼントの文字をみつけたミヨちゃん。そんなことを言い出した。
するとおもむろにヒニクちゃんが口を開く。
「ベストセラーは産まれるのではない。造られるもの」
じゃんじゃん刷って、じゃんじゃんばら撒く。
ジャングルの奥地でも、紛争地帯でも、未開の地でも、なんのその。
ベストセラーというよりも、ベストセールスマンだと思うの。
……なんぞと、コヒニクミコは考えている。
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