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237 あるある

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 教室内では、たまに、ヘンなものが一時的に流行することがある。
 探偵がいろんな街のトラブルを解決していく子ども向けアニメにて、ずいしょに主人公の前に現れるなぞなぞ。
 
「さぁ、テレビの前のみんなもいっしょに考えてみよう」との主人公の決めセリフ。

 これに子どもたちの目が釘付けとなる。
 アニメの人気にともなって起きたのが、第一次なぞなぞブーム。
 おかげで図書室にあった、なぞなぞ関連本が、連日の貸し出しにて、しばらく根こそぎ姿を消したほど。
 しかし、なぞなぞというモノはクイズと同じで解答を知れば、それでおしまい。
 そして小さな子どもたちは、夢中になるとやたらと記憶力がよくなる。
 手近にあるネタが尽きるまでに、さほどの時間はかからなかった。
 読み込まれて飽きられ、賞味期限の切れたなぞなぞ本たちが、続々と図書室に帰還してきて、ブームもついに終息するかに思われた。
 だが、終わらなかった。
 なんと! 子どもたちは、与えられるだけの環境に甘んじるを良しとせずに、自らなぞなぞを考えては、周囲に発表するようになったのだ。
 おもわず回答者をうならせるような素晴らしいなぞなぞを産み出した者は、みんなから称賛される。これがたいそう気持ちよくって、鼻高々。
 なぞを解くだけじゃない。なぞを造り出す快感に目覚めた子どもたち。
 まさかの第二次なぞなぞブームの到来である。
 流行の嵐はミヨちゃんやヒニクちゃんがいる教室にも吹き荒れていた。

「口を開いては怒られ、口を閉じていても怒られる。これ、なーんだ?」

 クラスメイトのとある女の子が出題したなぞなぞ。
 これを前にして、みなが小首をかしげている。

「開けっ放しでダメで、閉めっ放しでもダメなんだろう? おっ! トイレのドアじゃないのか」

 たまに弟がトイレの後、扉をちゃんと閉めていなかったり、朝の忙しいときにかぎって父親が長いこと入っていて困ると口にしたのはリョウコちゃん。
 みんな似たような経験があるのか、多数の女子が「あるある」とうなづいていたが、正解ではなかった。

「口の開け閉めがポイントなのよね……。だったらケチャップのフタかしら。あれってちゃんと閉めてないと、すぐカピカピに乾いちゃうし。あと適当にしているとフタ周りに、もれたのがこびりついちゃうの。気づかず触ると手が汚れるし、パカッと開けたひょうしに、うっかりハネたら服に染みができて、後がたいへん」

 そう言って顔をしかめたのはクラスのオシャレ番長のアイちゃん。
 ケチャップやカレーうどんの汁がハネる問題は、ファッション大好きの彼女にとっては長年、頭を悩ましていること。お気に入りのシャツに染みでもつこうものならば、発狂しかねないほど。
 これまた女子らから、多数の「あるある」を頂戴するも、残念ながら正解ではなかった。

「開け閉め……、答えはベンザかしら」とつぶやいたのはチエミちゃん。男と女。生き物としての構造が違うことにより生じる問題。これをきっかけにモメる夫婦も多いらしい。とくに奥さんが身重のときとか。
 平均女子の代表の幼女チエミちゃん。思考がトイレから離れられない。
 どうやらリョウコちゃんの発言に引きずられている様子。
 なお、これも不正解である。
 ミヨちゃんもみんなといっしょになって考えているが、なかなかムズかしい。
 するとそれまですぐ側でダンマリを決め込んでいた、ヒニクちゃんが解答をぼそり。

「政治家」

 口を開けば言葉尻をとらえられて、つるし上げを喰らう。
 黙っていれば説明責任を果たせと責められる。
 たまに良い事を言ったら、大衆に媚びるなと怒られる。
 ……なんぞと、コヒニクミコは考えている。

 ちなみに、なぞなぞの正解は「ウチのお父さん」でした。
 なんとも切ない答えを聞いて、女子の多数が「あるある」とうなづく。


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