273 / 1,003
273 仇討ち
しおりを挟むきっかけはささいなこと。
お昼休みに、鉄棒の付近でおしゃべりをしていた低学年の女の子たちを、上級生の男の子たちが「ここは今からオレたちが使うんだ。じゃまだからどっか行け」と追い払ったこと。
口で言うだけでも業腹なのに、なんと女の子のひとりを小突いて、尻もちをつかせたからいけない。
六年生と二年生では体格も力もぜんぜんちがう。ましてや相手の男の子は、みんなよりも頭一つ背がたかく、どっちりとしたガキ大将。
本人はちょっと軽く押しただけのつもりでも、華奢な女の子はそれだけでパタン。
大きな男の子からそんなマネをされて、すっかり怯えた女の子。
もう怖いやら、くやしいやら、腹が立つやら、お気に入りのスカートがドロだらけになって悲しいやら。いろんな感情が渦巻いて、ついに自分の中で処理しきれずに、ヒックと泣きだしてしまう。
これには女の子たちも「かわいそう」「ひどい」とブーイング。
上級性の男の子たちも、「さすがにこれは」と申し訳なさそうな表情を見せるも、自分たちの大将が怖いのか、何も言えません。
そしてことを起こした当人も、フンと鼻をならして、知らん顔。
だがレディに手をあげるとは何事かと、憤った乙女がひとり。
クラスのオシャレ番長のアイちゃんが、キーキーと猛抗議。
これに勇気をもらった女の子たちも「あやまれ」と声をあげるも、「うっさい」とガキ大将はアイちゃんをもドスンと突き飛ばした。それもさっきとは違って両手にてかなりの力をこめて。
「きゃあ」と吹き飛ばされたアイちゃん。これを危ういところで受けとめたのはリョウコちゃん。グラウンドの方でクラスの男子らにまじってサッカーをしていたのだが、騒ぎを聞きつけてちょうど駆けつけてきたところ。
無体を働く六年生たちをキッとにらみつけ、「さすがにコレはひどいんじゃないのか」
まったくもってその通りなのですが、すでに引きどきを見失っているガキ大将。「うっさい、うっさい。女のくせに生意気だぞ」と、ますます手がつけられないように。
こうなってはしかたがないと、リョウコちゃんが拳をにぎろうとしたところで、あわてて止めにはいったのはミヨちゃん。
「ダメだよ。リョウコちゃんは来週、試合があるんだから」
スポーツマンにとって暴力事件はご法度。個人の問題だけでなく最悪だとチームにも累が及ぶ。一時の感情に身を任せて、みんなにも迷惑をかけるわけにはいかない。くやしそうに拳をといたリョウコちゃん。
そんな彼女の姿を見てニヤリと笑ったガキ大将。
「根性なしの、口ばっかりの男おんなはひっこんでろ。それからお前もじゃまだ」
乱暴者はよりにもよってキャラメル色のくせっ毛に手をかけると、これを引っ張るという暴挙にでる。
あまりの痛さに「きゃっ」と悲鳴をあげたミヨちゃん。
これを見たアイちゃん。よりにもよって女の命に手をあげるとは何ごとか! とぶち切れ。キシャーと毛を逆立てた猫のように襲いかかろうとした。
だがこの場にはもう一人、心の底から激しく怒る者がいた。
それはミヨちゃんの大の仲良しのヒニクちゃん。
サラサラの黒いおさげの幼女の手刀が、ガキ大将の手首を直撃。
骨に響く場所に攻撃を喰らい、おもわず手をはなすも、ぶちぶちと髪の毛がはずみで抜ける。
その数六本。
瞬時にこれを把握したヒニクちゃん。
すかさずガキ大将の正面に立つ。
とたんに股間をおさえてうずくまった男の子。六年生の巨体が、くの字に折れ曲がる。
ねじり込むようにして放たれた幼女の鋭い右のショートアッパーが、大事な部分に叩き込まれたからである。
ちょうどいい高さに落ちてきた相手の頭。両耳を掴んだヒニクちゃん。リズムよくヒザをくりだし三連打。足のチカラは腕よりもずっと強い。幼女の足とて使いようによっては必殺の威力を放つ。
両耳をおさえられた状態にて、逃げられないところに、ガンガンガンとやられたガキ大将。たまらず鼻血をふいてあお向けに倒れ込む。
そこに馬乗りになったヒニクちゃん。トドメとばかりにふりかぶった右の平手にて、ばっちーんと盛大なビンタをかました。
かつてないほどの痛みと屈辱を味わったガキ大将。ピーピー泣き出して、これで勝負あり。
二年生の小さな幼女が、六年生の大きな男の子を叩きのめす。
女の子たちは、この快挙におおいに喝采をおくりましたが、いかなる理由があろうとも暴力を許容するわけにはいかないのが、学校というところ。
何かとトラブルを起こす悪ガキがやられたとて、それは同じ。しかも昼休みの校庭にて、かなり派手にやらかしてしまったので、あっという間に先生たちにも知られて、ヨーコ先生の手によって職員室に連行されていくことになるヒニクちゃん。
まるで母ネコに捕まった子ネコみたいに、ぷらぷらと運ばれる幼女がぼそり。
「仇はとった」
手刀、ショートアッパー、ヒザの三発、ビンタ、これにて六発。
抜けたミヨちゃんの髪の毛と同じ。もっともアレとミヨちゃんとでは、
その価値はまるで釣り合わないと思うの。
……なんぞと、コヒニクミコは考えている。
0
あなたにおすすめの小説
乙女フラッグ!
月芝
キャラ文芸
いにしえから妖らに伝わる調停の儀・旗合戦。
それがじつに三百年ぶりに開催されることになった。
ご先祖さまのやらかしのせいで、これに参加させられるハメになる女子高生のヒロイン。
拒否権はなく、わけがわからないうちに渦中へと放り込まれる。
しかしこの旗合戦の内容というのが、とにかく奇天烈で超過激だった!
日常が裏返り、常識は霧散し、わりと平穏だった高校生活が一変する。
凍りつく刻、消える生徒たち、襲い来る化生の者ども、立ちはだかるライバル、ナゾの青年の介入……
敵味方が入り乱れては火花を散らし、水面下でも様々な思惑が交差する。
そのうちにヒロインの身にも変化が起こったりして、さぁ大変!
現代版・お伽活劇、ここに開幕です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
狐侍こんこんちき
月芝
歴史・時代
母は出戻り幽霊。居候はしゃべる猫。
父は何の因果か輪廻の輪からはずされて、地獄の官吏についている。
そんな九坂家は由緒正しいおんぼろ道場を営んでいるが、
門弟なんぞはひとりもいやしない。
寄りつくのはもっぱら妙ちきりんな連中ばかり。
かような家を継いでしまった藤士郎は、狐面にていつも背を丸めている青瓢箪。
のんびりした性格にて、覇気に乏しく、およそ武士らしくない。
おかげでせっかくの剣の腕も宝の持ち腐れ。
もっぱら魚をさばいたり、薪を割るのに役立っているが、そんな暮らしも案外悪くない。
けれどもある日のこと。
自宅兼道場の前にて倒れている子どもを拾ったことから、奇妙な縁が動きだす。
脇差しの付喪神を助けたことから、世にも奇妙な仇討ち騒動に関わることになった藤士郎。
こんこんちきちき、こんちきちん。
家内安全、無病息災、心願成就にて妖縁奇縁が来来。
巻き起こる騒動の数々。
これを解決するために奔走する狐侍の奇々怪々なお江戸物語。
四尾がつむぐえにし、そこかしこ
月芝
児童書・童話
その日、小学校に激震が走った。
憧れのキラキラ王子さまが転校する。
女子たちの嘆きはひとしお。
彼に淡い想いを抱いていたユイもまた動揺を隠せない。
だからとてどうこうする勇気もない。
うつむき複雑な気持ちを抱えたままの帰り道。
家の近所に見覚えのない小路を見つけたユイは、少し寄り道してみることにする。
まさかそんな小さな冒険が、あんなに大ごとになるなんて……。
ひょんなことから石の祠に祀られた三尾の稲荷にコンコン見込まれて、
三つのお仕事を手伝うことになったユイ。
達成すれば、なんと一つだけ何でも願い事を叶えてくれるという。
もしかしたら、もしかしちゃうかも?
そこかしこにて泡沫のごとくあらわれては消えてゆく、えにしたち。
結んで、切って、ほどいて、繋いで、笑って、泣いて。
いろんな不思議を知り、数多のえにしを目にし、触れた先にて、
はたしてユイは何を求め願うのか。
少女のちょっと不思議な冒険譚。
ここに開幕。
柳鼓の塩小町 江戸深川のしょうけら退治
月芝
歴史・時代
花のお江戸は本所深川、その隅っこにある柳鼓長屋。
なんでも奥にある柳を蹴飛ばせばポンっと鳴くらしい。
そんな長屋の差配の孫娘お七。
なんの因果か、お七は産まれながらに怪異の類にめっぽう強かった。
徳を積んだお坊さまや、修験者らが加持祈祷をして追い払うようなモノどもを相手にし、
「えいや」と塩を投げるだけで悪霊退散。
ゆえについたあだ名が柳鼓の塩小町。
ひと癖もふた癖もある長屋の住人たちと塩小町が織りなす、ちょっと不思議で愉快なお江戸奇譚。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
冒険野郎ども。
月芝
ファンタジー
女神さまからの祝福も、生まれ持った才能もありゃしない。
あるのは鍛え上げた肉体と、こつこつ積んだ経験、叩き上げた技術のみ。
でもそれが当たり前。そもそも冒険者の大半はそういうモノ。
世界には凡人が溢れかえっており、社会はそいつらで回っている。
これはそんな世界で足掻き続ける、おっさんたちの物語。
諸事情によって所属していたパーティーが解散。
路頭に迷うことになった三人のおっさんが、最後にひと花咲かせようぜと手を組んだ。
ずっと中堅どころで燻ぶっていた男たちの逆襲が、いま始まる!
※本作についての注意事項。
かわいいヒロイン?
いません。いてもおっさんには縁がありません。
かわいいマスコット?
いません。冒険に忙しいのでペットは飼えません。
じゃあいったい何があるのさ?
飛び散る男汁、漂う漢臭とか。あとは冒険、トラブル、熱き血潮と友情、ときおり女難。
そんなわけで、ここから先は男だらけの世界につき、
ハーレムだのチートだのと、夢見るボウヤは回れ右して、とっとと帰んな。
ただし、覚悟があるのならば一歩を踏み出せ。
さぁ、冒険の時間だ。
裏切りの代償
中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。
尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。
取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。
自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる