ミヨちゃんとヒニクちゃんの、手持ち無沙汰。

月芝

文字の大きさ
274 / 1,003

274 保護者会

しおりを挟む
 
 昼下がりの校庭、その片隅の鉄棒の一角でおきた、上級生と下級生らのいさかい。
 発端は上級生の男の子が無体を働いたから。だが結果として当人はボコボコにされて、プライドも鼻っ柱もベキベキにへし折られ、ピーピー泣いた。
 しょせんは子ども同士のケンカじゃないか。
 と、その場でおさまればよかったのだけれども、しょうしょうややこしい相関図のせいで、場外乱闘にもつれこむことになる。

 三人もの小学二年生の女子に手をあげた加害者でもあり、ヒニクちゃんにやられた被害者でもある六年生の男子。けっこうボロボロ。
 この六年生の男子に最初に突き飛ばされて転んだ女の子。服がドロドロでスカートにほつれ、玉の肌にすり傷も。
 この六年生の男子に二番目に突き飛ばされたけれども、リョウコちゃんが受けとめてくれたおかげで無事ですんだアイちゃん。怒り心頭でぷんぷん。
 ケンカを止めに入ったところを、この六年生の男の子に髪の毛をつかまれて、ひっぱられたミヨちゃん。ちょっと髪が抜けて痛くて涙目に。
 そんな六年生の男の子をぶちのめしたヒニクちゃん。ニーキックをかましたさいに、ちょっとヒザをすりむいて、ほんのかすり傷。

 主要関係者はこの五名、だけどその場には居合わせた六年生の男子たちと二年生の女子たち関係者が合計で十名を超え、しかもかなり派手にやらかしたので校庭中から野次馬が殺到。
 けっこうな目撃者数となって、あっという間に校内にもウワサが広がる。
 話を聞いた生徒たちの感想は以下の通り。

「二年生に負けるとかありえねぇ」「ダサッ」「下級生にちょっかいだすってダメだよね」「女の子に手をあげるとかヒドくない」「自業自得じゃん」「よくやった」「さすがは獣の女王」「男の風上にもおけねえ」「いっつも偉そうにしてたから罰があたったんだ」などなど……。

 このように幼女たちに同情こそすれ、批難の声はまるであがらない。
 だがこれはこれで教師ら大人からすると困ってしまう。
 いかなる理由があろうとも暴力を正当化することはできない。個人的な思想信条感想はともかくとして、建前上はこれを貫く必要があるのが学校という場所。
 で、明確なる被害をこうむった子たちがいる以上は、親御さんたちにも連絡を入れる必要があり、その結果として関係者らの父兄がそろって、放課後に保護者会が開かれることになってしまった。

 ドラマとか漫画でよくあるパターンだと、一番の問題児の六年生の男の子の母親がPTAの会長とか、父親が地元の有力者だとかで、我が子のやったことを棚に上げて、責任を学校や教師、他の子らなんぞになすりつけるところ。
 しかし幸か不幸か、六年生の主犯格の子の親御さんは、そのような人物ではなかった。
 もっとも問題がさっぱりなかったのかというと、そんなことは決してなかったのだけれども。

 放課後、小学校の校舎一階にある会議室。
 このムズカシイ局面をとりしきるのは、頼りになる教頭のシフジアカネ女史。校長はなんのかんのといい訳をして逃げたらしい。
 教頭は大人だけの話し合いでは良しとはせずに、その場に居合わせた生徒たち本人らも全員参加させることにする。この手の問題で、当事者らを排除して大人だけで裏でこそこそやると、たいていシコリが残って、のちのちに色々と問題が噴出することを経験上から知っているからこその英断。
 彼女は「子どもだから」とか「女だから」とか、そういう区別が大っきらい。悪ガキだろうがいい子だろうが、大人だろうが子どもだろうが、すべて等しく一人の人間として扱う。それがシフジアカネ女史の教育者としてのポリシー。

 連絡を受けてどの親御さんよりも早く駆けつけたのは、六年生の男の子の母親。
 水泳選手のように肩幅が広く、厳格そうな雰囲気のするスーツ姿の女性。それが教頭先生にキチンとあいさつをしてから、ツカツカと我が子の方へと向かったかと思うと、いきなりバチンと張り倒したもんだから、みんなびっくり!

「女の子に手をあげたって? このバカタレがっ!」

 なんでもこのお母さま、シフジアカネ女史の教え子だったそうです。昔お世話になった恩師に迷惑をかけただけでなく、小さな女の子たちに暴力をふるったと知って大激怒。
 我が子ともども被害者および関係者一同に、何度も頭を深々と下げ、ひたすら謝罪に徹する。
 これには子どもたちだけでなく、あとから続々と集まってきた親御さんたちも、理解を示して、どうにか一件落着かと思われたのだが、ちょっとだけある問題が……。
 六年生のお母さんがヒニクちゃんをひと目見て、こんなことを言い出した。

「こんな小さな子がウチのバカを……。性別や体格差をモノともしない。しかも友のために矢面に立つ胆力と勇気。なんと素晴らしい。どうだろう、うちの道場に来ないかい? そしてゆくゆくは私の後継者に」

 やたらと武士武士している女性だなぁ、と思っていたらけっこう大きな一門を抱える武道家だったようです。経営者として、また師匠として、道場と門下生らの世話が忙しくて、つい我が子から目を離したがゆえに起きた不祥事。満たされない少年の心がついつい彼にあんな行動をとらせたのかと思うと、なんだかみんなの視線がちょっと生温かくなりました。
 それはともかくとして、いきなりスカウトされたヒニクちゃん。
 おもわず口を開いてこう言った。

「イヤ」

 不意うち、だましうち、凶器、めつぶし、金的、地獄突き、耳や髪の毛つかみ。
 急所攻撃上等のケンカならばともかく、正々堂々と馬鹿正直に正面から、
 向かい合っての、はっきょいのこったは、さすがにムリだと思うの。
 ……なんぞと、コヒニクミコは考えている。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

乙女フラッグ!

月芝
キャラ文芸
いにしえから妖らに伝わる調停の儀・旗合戦。 それがじつに三百年ぶりに開催されることになった。 ご先祖さまのやらかしのせいで、これに参加させられるハメになる女子高生のヒロイン。 拒否権はなく、わけがわからないうちに渦中へと放り込まれる。 しかしこの旗合戦の内容というのが、とにかく奇天烈で超過激だった! 日常が裏返り、常識は霧散し、わりと平穏だった高校生活が一変する。 凍りつく刻、消える生徒たち、襲い来る化生の者ども、立ちはだかるライバル、ナゾの青年の介入…… 敵味方が入り乱れては火花を散らし、水面下でも様々な思惑が交差する。 そのうちにヒロインの身にも変化が起こったりして、さぁ大変! 現代版・お伽活劇、ここに開幕です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

狐侍こんこんちき

月芝
歴史・時代
母は出戻り幽霊。居候はしゃべる猫。 父は何の因果か輪廻の輪からはずされて、地獄の官吏についている。 そんな九坂家は由緒正しいおんぼろ道場を営んでいるが、 門弟なんぞはひとりもいやしない。 寄りつくのはもっぱら妙ちきりんな連中ばかり。 かような家を継いでしまった藤士郎は、狐面にていつも背を丸めている青瓢箪。 のんびりした性格にて、覇気に乏しく、およそ武士らしくない。 おかげでせっかくの剣の腕も宝の持ち腐れ。 もっぱら魚をさばいたり、薪を割るのに役立っているが、そんな暮らしも案外悪くない。 けれどもある日のこと。 自宅兼道場の前にて倒れている子どもを拾ったことから、奇妙な縁が動きだす。 脇差しの付喪神を助けたことから、世にも奇妙な仇討ち騒動に関わることになった藤士郎。 こんこんちきちき、こんちきちん。 家内安全、無病息災、心願成就にて妖縁奇縁が来来。 巻き起こる騒動の数々。 これを解決するために奔走する狐侍の奇々怪々なお江戸物語。

四尾がつむぐえにし、そこかしこ

月芝
児童書・童話
その日、小学校に激震が走った。 憧れのキラキラ王子さまが転校する。 女子たちの嘆きはひとしお。 彼に淡い想いを抱いていたユイもまた動揺を隠せない。 だからとてどうこうする勇気もない。 うつむき複雑な気持ちを抱えたままの帰り道。 家の近所に見覚えのない小路を見つけたユイは、少し寄り道してみることにする。 まさかそんな小さな冒険が、あんなに大ごとになるなんて……。 ひょんなことから石の祠に祀られた三尾の稲荷にコンコン見込まれて、 三つのお仕事を手伝うことになったユイ。 達成すれば、なんと一つだけ何でも願い事を叶えてくれるという。 もしかしたら、もしかしちゃうかも? そこかしこにて泡沫のごとくあらわれては消えてゆく、えにしたち。 結んで、切って、ほどいて、繋いで、笑って、泣いて。 いろんな不思議を知り、数多のえにしを目にし、触れた先にて、 はたしてユイは何を求め願うのか。 少女のちょっと不思議な冒険譚。 ここに開幕。

柳鼓の塩小町 江戸深川のしょうけら退治

月芝
歴史・時代
花のお江戸は本所深川、その隅っこにある柳鼓長屋。 なんでも奥にある柳を蹴飛ばせばポンっと鳴くらしい。 そんな長屋の差配の孫娘お七。 なんの因果か、お七は産まれながらに怪異の類にめっぽう強かった。 徳を積んだお坊さまや、修験者らが加持祈祷をして追い払うようなモノどもを相手にし、 「えいや」と塩を投げるだけで悪霊退散。 ゆえについたあだ名が柳鼓の塩小町。 ひと癖もふた癖もある長屋の住人たちと塩小町が織りなす、ちょっと不思議で愉快なお江戸奇譚。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

冒険野郎ども。

月芝
ファンタジー
女神さまからの祝福も、生まれ持った才能もありゃしない。 あるのは鍛え上げた肉体と、こつこつ積んだ経験、叩き上げた技術のみ。 でもそれが当たり前。そもそも冒険者の大半はそういうモノ。 世界には凡人が溢れかえっており、社会はそいつらで回っている。 これはそんな世界で足掻き続ける、おっさんたちの物語。 諸事情によって所属していたパーティーが解散。 路頭に迷うことになった三人のおっさんが、最後にひと花咲かせようぜと手を組んだ。 ずっと中堅どころで燻ぶっていた男たちの逆襲が、いま始まる! ※本作についての注意事項。 かわいいヒロイン? いません。いてもおっさんには縁がありません。 かわいいマスコット? いません。冒険に忙しいのでペットは飼えません。 じゃあいったい何があるのさ? 飛び散る男汁、漂う漢臭とか。あとは冒険、トラブル、熱き血潮と友情、ときおり女難。 そんなわけで、ここから先は男だらけの世界につき、 ハーレムだのチートだのと、夢見るボウヤは回れ右して、とっとと帰んな。 ただし、覚悟があるのならば一歩を踏み出せ。 さぁ、冒険の時間だ。

裏切りの代償

中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。 尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。 取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。 自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。

処理中です...