ミヨちゃんとヒニクちゃんの、手持ち無沙汰。

月芝

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275 マヨ

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 上級生の男の子とのケンカ騒ぎも、なんだかんだでみんなが納得して終了。
 もっとも最後の最後にオチがひとつ待っていた。
 あの日、自宅を留守にしていたヒニクちゃんのお母さんのコヒニサユリ。人形作家の彼女は地方で開かれる個展の準備に出向いていた。
 お母さんが来れないのならば、かわりにお父さんがということになり、まじめなサラリーマンのコヒニイサムが、保護者会の開かれていた会議室に姿を見せたのは、ほぼほぼ問題が解決した最後のほう。
 映画でいえばスタッフロールのあとの、うっかり見逃しかねないオマケ映像のような登場の仕方。

「おそくなってすみません」

 ガラリと扉をあけて入ってきたサングラスにスーツ姿の巨漢。
 ムキムキの未来からきた殺人サイボーグみたいな人物の登場。
 クラスメイトたちや参観日に彼を目撃していた者は知っていたので、ギョッとはなりましたが、せいぜい軽くのけぞるか、ちょっとイスから腰を浮かせる程度ですんだ。
 ですがそれを知らない六年生側の関係者および子どもらがプチパニック。
 しかも彼こそが事件の中心であった、二年生の女の子の父親なのだと知って、顔面が蒼白に。幼い娘ですらがあの強さ。父親はきっとクマぐらい笑いながら殴り飛ばすにちがいない。
 彼らは思いました。「知らないとはいえ、バケモノのしっぽをふんでしまった」と。
 例の武道家のママさんは、さすがにビビることはなく、一瞬だけ警戒態勢をとりましたが、教頭先生が目で制すると、すぐに態度を軟化しました。
 こうして一件落着とみんなが油断しているところに、コヒニイサムがおおいにビビらせるという、サプライズにて騒動は本当に幕を閉じました。
 なおコヒニイサムは武道家ママさんから、父娘ともども熱烈に入門をすすめられて、おおよわりしました。

 そんなこともあった週末。
 ひさしぶりにのんびりと家の裏にある家庭菜園の世話をしていたヒニクちゃん。
 やはり土いじりはいい。心が安らぐ。
 そこにひょっこりと顔をだしたのは、大きな野良犬のボス。
 街の生きた伝説的な存在。荒々しい見た目に反して、野菜好きなボスは、ときおり、コヒニ家の裏庭に顔をだしては、収穫物をねだります。
 これに快く応じているヒニクちゃん。彼はいろいろと畑仕事を手伝ってくれるし、なによりその嗅覚がすばらしい。食べ頃の野菜を見事にかぎ分ける鼻には、全幅の信頼を寄せているヒニクちゃん。

 鼻をクンクンさせながら、鋭い眼光にて家庭菜園内をノシノシとねり歩く大きなイヌ。
 ボスが立ち止まり、前足にてカリカリと掘り出したのはジャガイモ。
 どうやらコレがいま一番の食べ頃みたい。
 さっそくヒニクちゃんとボスがいっしょになって掘り出していると、「えぇーっ!」というおどろく声があがりました。
 見れば畑の入り口にミヨちゃんの姿が。
 ボスといっしょになって土を掘っている友だちの姿に、目をぱちくり。
 動物好きなミヨちゃんは、おもわず駆け寄ろうとしましたが、それを止めたのはヒニクちゃん。
 いかに獣の女王との異名をとる彼女がそばにいようとも、動物たちはけっしてミヨちゃんを受け入れない。
 小学校の飼育小屋の帝王パッソ、大野良ネコのドン、そしてこのボスも、この一線だけは頑なに拒む。
 もしもこれを押して参ったら最後、パッソの頭突きが骨を砕き、ドンの猫爪が血の雨を降らせ、ボスのパワーボムが炸裂して首がぺっきりしてしまいかねない。

 ボスには待てを命じて、ジャガイモがいっぱいになったバケツをかついでミヨちゃんのところに向かったヒニクちゃん。そのまま二人連れだって家の中へ。

 しばらくして再び戻ってきたときには、その手のザルの中には山盛りの蒸したじゃがいも。
 ずっと大人しく待っていたボスにどっさり与えてから、残りを仲良く頬張る幼女たち。

「フライドポテトもおいしいけれども、カロリーが乙女の敵だからねえ。その点、蒸したのはヘルシー」

 がつがつと豪快にジャガイモを食べるボスを尻目に、ウマウマと頬張るミヨちゃん。
 ミヨちゃんのじゃがいもの上には、たっぷり濃厚バターがのってる時点で、けっこうなカロリーのような気もするけれども、そんなヤボは言わないヒニクちゃん。
 そんな彼女はカロリーが三分の一とかいうマヨネーズでぱくり。
 そして一言。

「マヨネーズはノーマルにかぎる」

 麺、パン、チョコ、アイス、ケーキ、ゴハン、お肉、調味料などなど。
 カロリーオフだの、血糖値をおさえるだの、減塩だの、太りにくい油だの。
 健康志向がやかましい昨今。世に溢れる代替え品。でも本家が一番うまいと思うの。
 ……なんぞと、コヒニクミコは考えている。


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