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295 馬の耳
しおりを挟む日曜日、昼から図書館にそろって出かけていたのはミヨちゃんとヒニクちゃんの二人。
無料の映画の上映会があったので、そちらに参加。
家族を事故で失い、心に深い傷を負った少女が、祖父母らの牧場に引き取られ、そこで出会った一頭のウマとの交流を得て、立ち直り、やがては女性ジョッキーを目指すという物語。
登場人物たちの心情を細やかに描き、なおかつ美しい自然の中をウマにまたがり疾走する少女の姿、そのステキなことといったら。
はじめは中々言うことをきいてくれない暴れウマが、さまざまなことを経てついに少女に心を開き、その背をゆるした瞬間なんて鳥肌モノ。
さすがは国の教育機関が推奨して、図書館なんかで上映されるだけのことはある。
もっとも全体的に地味な印象はぬぐえずに、公開当時は大ヒット御礼とはいきませんでしたけれども。
しかしうん十年を低調にしぶとく生き続けた結果、このような売れ方をする。
名作、良作と呼ばれる作品は、なんだかんだで時を超えて愛されるということを証明したような本作品。
幼女たちにもそれはしっかりと伝わった。それはもうグサリと胸につきささり、その影響がはやくも出始めている。
映画が終わり、感動のままにブラブラしていた二人が足を止めたのは商店街の電気屋さんの店先。
ショーウィンドウにて展示されている大型のワイドテレビ。
そこに流されていたのは、大人たちがみんな夢中になっているウマたちのレースシーン。
日曜日の午後とえば、ゴルフと競馬とバラエティ番組の再放送と相場が決まっている。
ミヨちゃんたちは知らなかったのだけれども、今日はGワンとかいう、とってもおおきなウマのレースがある日だったようで、気がつけば周囲には彼女たち同様に足を止めて画面をみている人たちがチラホラ。
やがてお馴染みのパラパパラパーという音楽が鳴ったかと思ったら、スタート。
ものすごい勢いにて一斉に走り出すウマたち。
これまではテレビで中継をみかけても、とくに何も感じなかったというのに、あの感動巨編を視聴したあとだと、印象がまるでちがうことにおどろく幼女たち。
「これがヨシコさんが目指す世界なんだね」
感慨深げにミヨちゃんがつぶやくと、ヒニクちゃんもコクンとうなづく。
ちなみにヨシコさんとは映画のヒロインの名前。
レースは団子状態にて、どれがだれやら素人目には区別がつかない。
だが終盤になると徐々に団子がほつれていき、ついには頭一つ二つと前へ飛び出すものがあらわれはじめたところで、テレビからだけでなく周囲の観客らからもどよめきが起こる。
やがて実況をしている男性アナウンサーの絶叫を引き連れて、先頭が一着にてゴール。
次々と後続も駆け抜けていく。
割れんばかりの大歓声に、舞うハズレ馬券の紙吹雪。
あとは掲示板によくわからない表示がピコピコと出たところで、ミヨちゃんがふとこんなことを言い出した。
「ウマってやっぱり頭がいいだね。だってあれだけ大人たちがみんな熱心に応援しているんだもの。きっと言葉がわかるから、その応援に応えようといっしょうけんめいにがんばっているんだよ」
ウマたちの力走を目にしたミヨちゃん。
彼女のけがれなき瞳にはオリンピックとかでがんばるスポーツ選手たちのように、その姿がみえた。
だがここでおもむろにヒニクちゃんがちょっと残念そうな表情を見せつつ、口を開く。
「ウマの耳に念仏」
ありがたい仏さまの説教すらも受け流すウマの耳。
それが欲にまみれたオッサンのダミ声じゃあ、
いっそうまじめに耳を傾けるとは、とても思えないのだけれども。
……なんぞと、コヒニクミコは考えている。
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