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336 ドローン
しおりを挟む今日、ちょっと学校でめんどうくさい通達があった。
「登下校のときに、空き缶や小石を蹴飛ばさないように」
缶そのものをカランコロンとボールに見立てて蹴飛ばす遊び。
小石よりも、踏みつぶしたペチャンコの缶をシャーッと滑らすのが、近頃のトレンド。
そいつを大人たちが禁止をした。
外部からのクレームが入ったらしく、まぁ、小石なんぞはうっかり車とか人に当たると、けっこうなことに。
だからとて大々的に禁止するのはいかがなものかと、子どもたちはムクれた。
そもそも自分たちは子どものころには、散々にやって遊んだくせに、立場が上になったとたんに後輩たちの首根っこを抑えるなんて。
で、一部の反骨精神あふれる勇姿たちは、通達にあえて逆らうかのようにして、カランコロン、シャーッ。
おかげで本日の下校時間の通学路は少々さわがしい。
きっといまごろ学校では電話のベルがひっきりなしに鳴っていることであろう。
そんな騒動を尻目に、いつものように二人仲良く帰っていたのはミヨちゃんとヒニクちゃん。
「昨日さ、ヒロ兄ちゃんがちっちゃいドローンを持ち帰ったの。手の平にのるぐらいで、ブーンて飛んでかわいいんだけ、操作がむずかしいんだ。ちょっとコントローラーに触れただけで、上にあがったりしたに落ちたりして、ちっとも落ち着かないの」とミヨちゃん。
近頃、猫も杓子もドローン。
テレビの中継でもかかせない機械になりつつあるし、どこぞの通販会社はドローンで商品を配達するとかしないとか。他にも海外では軍事利用なんかの研究も盛んらしく、その操作技術を競っての世界大会とかもある。
小型のオモチャみたいなモノから、飛ぶ自動車を目指したモノなどまで、じつに多岐にわたってそのすそ野を広げつつある時代の最先端。
とはいえ実物を間近に見て、触れたのははじめてだったので、ミヨちゃんもはじめのうちは「へー」「ほー」「おもしろーい」と興味津々であったのだが、あることに気がついてしまい、あれれ? と小首をかしげる事態に。
「ドローンってさぁ、ヘリコプターじゃないの?」
幼女の何気ないひと言に、ヤマダ家のリビングがしばし凍りつく。
円らな瞳がお母さんを見たら、「あら、そういえば洗いものがまだ」と言ってそそくさと行ってしまった。
おばあちゃんを見たら、「同じじゃないのかい。風車の数が多いだけだろう」と事もなげに言い放つも、もちろん適当。
お父さんは新聞をバサッと広げて、向こうに顔を沈めて、愛娘の視線を避ける。
次男のタカ兄は「宿題しなくちゃ」とウソを吐いて自室へ。
唯一残された長男のヒロ兄は、「ちょっと待って」とスマートフォンにて調べはじめる。
妹の疑問にキチンと答えてやろうとマジメな長兄。
それでネット受け売りの知識をだらだらと説明されたミヨちゃん。
だが小学二年生の女の子に、揚力がどうの、回転や飛行原理がどうの、自律性がどうのなんぞと聞かされたとてチンプンカンプン。
あげくに長聴講につきあわれた末に「広い意味ではラジコンのヘリコプターもドローンも同じものだね」なんぞと言われてしまい、幼女はさらに頭を悩ませることに。
いずれは空飛ぶ自動車も実現されるかもと、夢が広がるこの話題をふられて、ヒニクちゃんがおもむろに口を開く。
「空よりもまず足元」
いっこうに無くならない危険運転と交通事故。
進まない法整備、増え続ける犠牲者たち、悔しい想いをする遺族。
地面の上でもこれなのに、空の上をフラフラって、もはや狂気の沙汰。
……なんぞと、コヒニクミコは考えている。
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