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358 負け惜しみ
しおりを挟む連休の最終日の夕方、ヤマダ家のリビングにて。
テレビをつけるとニュースにて流れる映像は、各交通機関の込み具合の様子。
高速道路ではあちらこちらにて何十キロにもおよぶ大渋滞が発生。
高速鉄道では乗車率が百を超えただのなんだの。
空港でのインタビューでは、海外のどこそこを強行軍にて、すっかりヘロヘロになったパパさんが「明日は仕事になりませんね」と苦笑い。
商店街にてそんな世間の様子を訊ねられた主婦は、心底うんざりした表情にて「連休なんて三日ぐらいでちょうどいい。長いとそれだけ夫や子どもの手間が増える。いくら世間が休みったって、主婦業が休みになるわけじゃないんだもの。どちらも会社と学校に行ってくれてたほうが、ずっと楽」などと身も蓋もないけれども、ごもっともなご意見。
そして家でそんな映像をぼんやりと眺めていると、お父さんは言った。
「ほら、見ろ。休みの日に出かけたってロクなことがない。あれじゃあリフレッシュじゃなくてかえって疲れに行っているようなもの。やっぱり休みは家でゴロゴロするに限る」
その場では父に話を合わせて「そうだね、おうち最高」とにっこり笑みを浮かべたミヨちゃん。幼女ながらに大人に気をつかってのこと。
休み明けの学校の朝。
ひさしぶりに顔を合わせるクラスメイトたちに元気よく「おはよう」と挨拶をしながら、つい先日のこのやりとりを話題にしたのはミヨちゃん。
「でも、これって結局、どこにもいけなかった人間のひがみっていうか、負け惜しみっていうか」
ミヨちゃんの意見を受けて「まぁ、大人の言い分も理解はできるけれどね。実際、子ども連れはたいへんよ」とこたえたのはクラスのオシャレ番長のアイちゃん。「彼らもなんだかんだで後ろめたいのでしょう。せっかくの休みに子どもをどこにも連れていかなかったことが。それに対するかなしい言い訳みたいなものよ」
とても小学二年生とは思えぬ大人な回答に、おもわずその場に居た女子たちがパチパチ手を叩く。
手を叩いたのは、みな同じ境遇にて。とどのつまり連休中にどこにも家族で出かけなかった面々である。
まぁ、事情はそれぞれにて割愛する。
「でも休みだろうが、そうじゃなかろうが、動く人はバンバン動くよね」
そう言ったのはスポーツ少女のリョウコちゃん。結局、出不精はいかに条件が整って恵まれようとも出かけない。
一定の年齢に達したことで、市内のバスがタダで乗り放題パス券が発行されたとしても、億劫がってほとんど利用しない。
五体満足にて健康でも動かない人は動かないし、たとえ寝たきりだろうが、指一本しか動かせなくともアクティブに活動する人はする。
これはもう個人の性分、いや魂の在り方に由来するといっても過言ではあるまい。
それもまたしようのないこと。
だって世の中には二種類の人がいるのだから。
観光だの遠出だのと楽しめる人種とそうでない人種の二種類が。
金と時間がありあまっていても、部屋から一歩も出ない人はやっぱり出ない。
リョウコちゃんの「飛べないブタはただのブタ理論」に、みなウンウン頷く。
これを受けてヒニクちゃんがポツリ。
「世の大半の人間は、言い訳人生を送る」
自分に言い訳をして、居心地のいいぬるま湯にどっぷりつかり、
高い壁からは目を背け、厳しい現実をも言い訳に利用する。
でもカツカツでセカセカより、ユルユルもまた最高の贅沢なり。
……なんぞと、コヒニクミコは考えている。
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