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361 キャッシュレス
しおりを挟むスマートフォンを機械にかざすと、ピッとしてパッとなって、会計完了。
近頃、世間はそんな塩梅らしい。
増税にまつわるオマケのばらまきにも、このシステムが導入されるらしいのだが、でもそれだとスマートフォンを持たない人はどうすればいいの? 税金は同じだけ絞り取られるというのに、恩恵はまるで受けられないの? そんなの払い損じゃん!
だったらいい加減にスマートフォンぐらい持てばいいのに……。
ことはそんな簡単な話じゃない。
だって高いんだもの。本体価格がめちゃくちゃ高いんだもの。月の利用料金もものすごいんだもの。携帯料金が家族四人で月五万を超えるとか、そんなの狂気の沙汰だよ! よく考えてみて? 年間五十万オーバーだよ。十年で五百万だよ。それだけあったらキッチンとお風呂とトイレのリフォームが可能なぐらいの金額。
税金を搾り取るは、控除は受けられないわ、挙句にろくすっぽ使いもしない最新危機を持たされぼったくられる。
しかもその最新機器を悪用した犯罪に巻き込まれるリスクはグングン急上昇。
人々の生活を豊かに快適にするはずのツールが、かえって日々を脅かす。
本末転倒な現象が多発しているというのに、法整備の方が技術の進歩に追いつけなくって、完全に置いてけぼり。おかげで悪人ばかりが笑って、やり逃げ。泣くは善良な人間ばかり。
「おカネもどんどん失くす方向なんだってさ、ニュースでいってた。よその国でも拡大中なんだって。でもその心は、じつはニセ札対策とか脱税防止ってのが、ちょっと泣けてくるよね。誰がいつ何をどこで買ったとか丸わかりだよ。管理社会ここに極まれりだよ」
そうぼやいたのは下校時のミヨちゃん。
となりにて仲良く歩くヒニクちゃん相手に、昨今の世相について語る。
テレビが娯楽の王座から陥落して久しいが、いまだにヤマダ家では健在。
よってミヨちゃんはとってもテレビっ子。大人といっしょにテレビを眺める機会も多いので案外、情報通。
だってインターネットをしようにも、小学二年生の末娘にはパソコンなんてあまり触らせてくれないし、もちろんスマートフォンもない。
そんな幼女にキャッシュレス時代はあまりにもやさしくない。
「携帯を持ってないと駄菓子屋で買い物できないの? 本屋で少女コミックが買えないの? よしんばこれまで通りにおカネで買い物しても、店員さんから『ちっ! いまどき現金かよ。面倒くせえ客だなぁ。どこの田舎もんだよ』とか思わて、冷たい視線をおつりとともにもらうことになるの?」
いや、さすがにそこまでは……、とヒニクちゃんも言いたいところではあったけど、なんだか本当にあり得そうな気になってきたから、とってもふしぎ。
もしもこのまま加速度的にキャッシュレス社会が進行すれば、ミヨちゃんの予想もあながち外れていないのかもしれない。
限られた軍資金を握りしめての駄菓子屋探訪。
いずれはそれもまた遠い過去の光景になってしまうのだろうか。
時代の移ろいとともに新たに生まれるものがある一方で、失われるものも多い。
近い将来、お正月とかに「はい、おとし玉」とか言いながらスマートフォン同士にてやりとりして、チャリンと相手の口座に直接振り込んだりするようになるのかもしれない。
なんだろう……、とても便利になる反面、おカネのありがたみや怖さが薄れて、勘違いして身を亡ぼす人間が続出しそうな気がしてしょうがない。
そんなことをミヨちゃんの話から連想していたヒニクちゃん。
おもむろに口に開いた。
「カード社会の悪夢再来」
クレジットカードの全盛に比例して、身を持ち崩す人が続出。
しまいには借金を返すために借金をする。来月の支払いのために今月働く。
自転車操業がたくさん潜在。近未来、どうにもヤバイ臭いがプンプンするぜ。
……なんぞと、コヒニクミコは考えている。
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