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370 シメ
しおりを挟む十五年にも渡って週刊誌にて長期連載され、そのスタイリッシュな作画と魅力的なキャラクター、ワクワクがとまらないストーリー展開にて、テレビアニメ化に映画にゲームにとメディアミックス展開を成功させ、累計部数で一時期ギネス記録を達成、世界中に多くのファンを獲得した、雑誌の看板作品のひとつがついに完結。
最終話が掲載される号が発売される前夜には、夜のニュースでとりあげられたほど。
おかげで雑誌は売れに売れたそうだが……。
「いや、なんかね……。それっぽくはまとめてはあるの。でもけっこうな数の伏線とか謎がほったらかしで、なによりラストが意味不明というかなんというか」
大御所作家さまの大作の最終回ゆえに、感想の言葉を濁したミヨちゃん。
とどのつまり、「やっちまったな」と幼女は感じた次第。
小学二年生ゆえに、兄たちの影響にて後追いという形で作品に触れた彼女は、後追いゆえの特権として、リアルライブ感が楽しめないかわりに、コミックスを一挙に乱読できた。
おかげで十五年もの奇跡をドドンと一気読み。
そりゃあ、長く続いていたから途中で話が横道にそれたり、迷走したり、あきらかに変な展開なんかもあったけれども、それでもそれなりのクオリティが保たれていた。
なんといってもバツグンに絵がうまかった。
キャラクターが格好よかった。
この作家さんの書くキャラクターで初恋をすませた男性女性が数多というのも、うなずけるほど。
でも途中から、新キャラどしどし、パワーインフレどしどし、設定どしどしにて、あきらかにキャパオーバー。
結果として大風呂敷を広げまくったせいで、たぶん作家先生ですらも忘れていたアレやコレが多数噴出。長期ゆえに生じた矛盾を後付けにて無理矢理ねじ伏せるも、それが更なる歪みを生み、ボロボロと綻びが発生。
一部の手厳しいファンは、これを指摘して作品より離れたりもしたけれども、多くのファンたちは自主的に脳内補完をくり返し、現実から目を背けた。
結果としての十五年おつかれさまへと繋がる。
が、さすがに祭りが終われば、熱気も消えて、とたんに頭が冷えて、理性がムクリとかまくびをもたげる。
おかげで最終回が公開された直後から、インターネットの掲示板が大荒れ。
国をまたいで、多言語が入り乱れての騒ぎになっているそうな。
「あー、あれなぁ、わたしも読んだけど、もともと本編がどんなのかあまり詳しく知らないから、最終回だけ読んでもダメだった。よくわからなかったよ」
リョウコちゃん、とりあえず話題になっていたから一週遅れぐらいで、散髪屋の待合室で読了。
「わたしは、聖海殿編でやめた口だから。やっぱりあそこで終わっとくべきだったのよ」
そう言ったのはチエミちゃん。
ちなみに聖海殿編とは、メインヒロインの一人が敵にさらわれて、これを救出すべく主人公が仲間たちと敵陣に乗り込んでいく話。
何故だかいちいち律儀にタイマン勝負をする敵味方。急いでいるはずなのに正面から決められたルートをきちんとなぞる主人公たち。
そしてそんな彼らをのんびり待つ、敵のボス。
そしてラストバトルは、ここまでのタイマンなんてくそくらえとばかりに、全員でボコるという、いかにもな展開。
だが、あの頃が一番熱かったと、チエミちゃんはしみじみ。
この次の章にて新たなヒロインが登場。命懸けで助け出した子をそっちのけで、新しいキャラにかまう主人公に嫌気がさして、チエミちゃんは離れた口。
実際に、この章を連載している間は、女性ファンからの抗議の手紙が編集部に殺到していたらしい。
「うちのタカ兄ちゃんも、最終回でぶち切れた口でね。なんじゃこりゃーって。怒りのあまり、せっかく揃えていたコミック、まとめて商店街の古本屋に持っていっちゃった」
「えっ、あれって百巻ぐらいあるんじゃなかったっけ? それはミヨちゃんのお兄さんもタイヘンだったろうに」とリョウコちゃん。
「うん。でもタイヘンだったのは、せっかく持って行ったのに、そのまま持って帰るハメになったことなの」
同様の行動を起こした人が多数にのぼり、古本屋に殺到。
さすがにそんなに同じ在庫は抱えられないと、タカ兄、買取を拒否されてしまったそうな。一歩、出遅れてしまったらしい。
ネット上でも売りが続出。その勢いはいまも続いている。
「なんていうか、お話のシメってむずかしいよね」
ミヨちゃんぽつり。
この友のつぶやきを受けて、おもむろにヒニクちゃんが口を開く。
「最初の一行と最後の一行がもっとも難しい、って誰かが言ってた気がする」
物語を書き始めることは、きっと誰にでも出来るはず。
物語を書き続けることは、相当の労力と時間を必要とするはず。
物語を書き上げることは、たぶんやった人にしかわからない領域。
……なんぞと、コヒニクミコは考えている。
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