ミヨちゃんとヒニクちゃんの、手持ち無沙汰。

371 やらせ

　
　この頃、ちょいと世間の目が厳しい。
　大人気バラエティー番組にて、過剰演出による「やらせ」問題が発覚。
　人気があった分だけ、騒動が方々に飛び火して、けっこうな騒ぎに。
　だが、この手の話は、わりと昔からよくあった。正直、いまさら感が否めない。
　なんちゃら探検隊なんて、むちゃくちゃインチキだし。
　某セクシーグラビアの写真集なんて、撮影地を偽っており、海外のなんちゃらビーチとか言ってたくせに、実は国内某所だったとか。
　映画のロケなんて、それこそ「やらせ」のオンパレード。どこぞの砂漠を火星と偽って撮影したりとか。
　恋愛ドラマなんて完全にファンタジーだし、そもそもしょぱい現実の近所に身長百八十オーバーで、顔も頭も性格もよい男なんていやしねえ。
　アイドルなんてそれこそ「やらせ」の塊みたいなもの。むしろ素であんなのがゴロゴロしてたら、逆に世の中がやばいと思う。
　とどのつまりすべては演出なのだ。
　制作サイドのサービス精神のあらわれ。
　さすがにドキュメントとかニュースでやったら駄目だろうけれども、しょせんバラエティだし……、という意見も根強い。
　しょせんとか言っちゃってる時点で、ちょっいと上から目線なのかもしれないが、世間的な位置づけがそうなのだからしようがあるまい。

「なんていうか、アレがダメなら政治家のパフォーマンス、ぜんぶ『やらせ』になっちゃうよね。でも、それはキビしすぎるとおもうんだ」

　こんな感想をもらしたのはミヨちゃん。
　いつものように仲良しのヒニクちゃんとの下校中の会話。
　最近、この手の反応に敏感になるあまり、テレビが妙に委縮しちゃっているせいか番組がつまらんとの、貴重な視聴者のご意見。

「かといって正直すぎても、やっぱり世間から叩かれちゃうんだよねえ」

　むーんと唇を尖らし、眉間にシワをよせ険しい表情をするミヨちゃん。顎に小さな梅干しが出現。
　幼女にそんな顔をさせたのは、ワイドなニュースショーを連日にぎわしている若手の政治家。
　領土問題で微妙な地域にわざわざ乗り込んで、酔っ払った挙句に、問題発言で現在大ピンチ。
　国土問題なんて話し合いで解決するわけなんてないじゃん。結局、最後はどつき合いでしょ？　なんてことを公衆の面前で吐いてしまった。
　なお一部過激な表現が過ぎたので、言葉をかなり濁してマイルド化しており、実際にはもっとしゃれにならない言い回しにて。
　まぁ、言ってることは間違ってはいない。
　国が自国の領土を手放すとか、ほぼほぼありえない。
　相互理解と交流と話し合いでどうにかなるなんて、誰も本気では信じていやしない。
　だけれども、それを言っちゃあおしまいよ。
　というのが彼の問題発言。
　大人の世界では、いいや、たとえ子供の世界だとしても、本音全開でなんて生きられない。そんな真似をしていたら、あっさり社会からつまはじき。
　事実、その政治家は党からあっさり追い出され、誰からも相手にされず、ボッチ街道をただいま驀進中。しかも向かっている先に待つのは断崖絶壁、せめて立ち止まる理性があればいいのだけれども。
　いいかげんに誰か止めてあげて！

「やらせでウソをついたら怒られて、正直に本音をぶちまけてもやっぱり怒られる。でも黙っていてもやっぱり怒られるし、頭を下げてもやっぱり怒られる。誠意が足りないって何？　いつ、自分もこのトラブルに巻き込まれるかわからないこれからの世の中、正解はなんなんだろうねえ」

　昨今の大人たちの狂騒ぶりを見るにつけて、自分の将来に不安を抱かずにはいられない小学二年生。
　幼女の悩みを受けて、これまで黙って話に耳を傾けていたヒニクちゃんが、おもむろにその口を開いた。

「かなしいことに、やらせが横行したのはドキュメントと報道がメイン」

　真面目な顔をして嘘を吐くのと、へらへら笑いながら嘘を吐くの。
　どちらがより罪深いのかなんて、子どもでもわかるというのに。
　あとお詫びの検証特番とかって、やたらと早朝や深夜に放送するよね。
　……なんぞと、コヒニクミコは考えている。