ミヨちゃんとヒニクちゃんの、手持ち無沙汰。

月芝

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374 工作

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 想像力の豊かな子どもの手にかかれば、お菓子の空き箱、ダンボール、牛乳パックにペットボトルなんかも、たちまち遊び道具に変わってしまう。
 ハサミでじょきじょき、まるでちがう形状の素敵な何かにかわることもあれば、表面を塗られて秘密の宝箱になることも。
 最近では百円ショップに行けば、加工につかえそうなアイテムがたくさんあるものだから、ますますパワーアップ。
 そんな時代のとある町にある小学校の片隅にて、ペットボトル相手に格闘していたのは、くせっ毛の端がいつもクルンとはねているミヨちゃん。
 本日はみんなで持ち寄ったペットボトルにて、ロケットを造る授業があった。
 そちらの方は班ごとにて、とっくに終えている。
 それを尻目に黙々と何を造っていたのかというと……。

「できた! これで雨の駅もへっちゃらだよ」

 幼女の手にあったのは、四角いペットボトルを二つにぶった切って、横の部分にプラスチックの取っ手をつけたもの。なおこの取っ手は家電とか大きな荷物を購入した際に、店側がつけてくれるヤツの流用。

「えーと、それはデカいジョッキかな?」

 ミヨちゃんがかかげる完成品を前にして、そんな言葉を口にしたのはリョウコちゃん。
 彼女には幼稚園の年少の弟くんがいるので、女の子のわりに、この手の工作はわりと得意。
 なにせテレビや雑誌とかで、おもしろそうな工作があるたびに弟が「あれ、作りたい」と言い出すくせに、いっつも途中で放り出しては、全部、姉に丸投げするもので。
 そして姉の苦心の作品で遊んでは、これを乱雑に扱い、すぐに壊す。
 ふつうならばぶち切れて「二度とつくるか!」となりそうなもの。
 しかし出来たお姉ちゃんは、「しょうがないなぁ」のひと言ですます。
 彼女のタフな精神は、きっと弟の面倒をみることによって、日々培われているのだろう。

「ジョッキじゃないよ。これはねえ、こんな感じで使うの」

 何かをすくうような動作をみせるミヨちゃん。
 その動きから、これがスコップみたいなものだということはわかった。
 だがスコップと雨の駅がどうしてもつながらず、首をひねるリョウコちゃん。

「ポタポタ落ちてくる雨漏りを受けとめる、とか?」

 地下鉄とか、油断しているといきなり頭上からポタリときて、「ひやっ」となることがある。
 ホームの老朽化にて屋根の一部がもれていることも。
 そのことを思い出してアイちゃんのご意見。
 だがこれもハズレであった。アイちゃんの目にはただのデカいコップの出来損ないにしか見えないので、うーんと考えこんでしまった。

「雨の日、駅、すくう……、うーん、ダメだ。ミヨちゃん、降参するから答えをおしえて」

 まいったと両手をあげたのはチエミちゃん。
 偉大なる凡である彼女は、平均値という道のど真ん中をひた歩く運命であるがゆえに、どうやら考えて益のあることとそうでないことを、本能的に嗅ぎ分ける嗅覚を持つよう。
 で、今回のコレは適当に流してよいと、早々にあきらめたのがことの真相。おそるべきは偉大なる凡である。惜しむらくはその才能の活かし方を当人も周囲も気がついていないことであろうか。
 これを受けて「しょうがないなぁ」とミヨちゃん。
 ついに謎の道具の使い方の説明をはじめる。

「これはね、ひどい雨のときとかに、あふれた溝の水をすくうのにつかうの。ほら、ゲリラなときとか、あまりの勢いで排水溝がつまって水があふれることがあるでしょう。そのときにコレが大活躍」

 先日、ニュースを見ていたら、局地的豪雨の影響で地下鉄の排水が追いつかずに、あちこちにて水があふれて大さわぎ。
 これを相手に駅員さんたちが、ひっしに水をかき出して格闘しているシーンがあった。
 小さなポンプなんかじゃ追いつかないので、手にしたコップやペットボトルの底を抜いたモノでせっせと水をくみ出していた。
 ただでさえタイヘンなときに、懸命に水と格闘する駅員たちの姿を見て、ミヨちゃんはとっても感心した。そしてこうも思った。

「エライけど、それ、ちょっと小さくない?」と。

 駅員たちが水をかき出すのに使っていたのは、洗面所とかにあるプラスチックのやつ。ペットボトルは五百ミリリットルのボトルを加工したもの。
 幼女の目にはお風呂の水をコップでチマチマとすくっているように映る。
 これではいくら頑張ろうともの、遅々として作業はすすむまい。
 この一事を経ての、二リットル用のペットボトルを加工しての、改良ひしゃく。
 それがミヨちゃんの手にある品の正体であった。
 ミヨちゃんのやさしさから生まれた発明品に、班の一同、「おぉー」と感心。
 これを受けて、一連のやり取りの裏にて、こっそりと後片付けをしていたヒニクちゃんがおもむろに口をひらく。

「必要は発明の母、皮肉は発明の父なり」

 頭の仲にてアイデアを思いつくのは、誰にでもできること。
 それを形にしようと動き出し、造り出す実行力こそが尊い。
 そして更に昇華させるような人が、きっと偉人になると思うの。
 ……なんぞと、コヒニクミコは考えている。


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