393 / 1,003
393 ちくりん
しおりを挟む日曜日の午前中。
市内某所にある竹林にお邪魔していたのは、ミヨちゃんとヒニクちゃん。
ここは知り合いの土地にて、いい加減にボウボウが見苦しくなってきたので、ここいらでいっちょうキレイにするかとなった。
だが個人でどうこうするにはちとたいへん。
そこで囲碁サークル仲間に声をかけて応援要請。
夕食にタケノコづくしの晩餐をエサに、どうには人手を集めた。
集った面々は性別も年齢もバラバラ。
大学で竹を研究しているという教授が率いる学生軍団もいれば、幼稚園で流しそうめんをするので竹を求めて参加している保母さんたち、美味い飯と酒に釣られた友人知人たち、他にも工芸作家さんやら、大工さんに資材屋さんなんかも混じっている。こちらは刈られた竹が目的みたい。
切り倒すだけでなく、その際に切り出された品の処分もしてもらえて、地主としては大助かり。
ちなみにミヨちゃんたちはおばあちゃんにくっついての参加。
まだ小さいので戦力としてはまっこと頼りないが、何事も経験だとの祖母の教育方針による。
しかしお年寄りキラーなミヨちゃん、その場にいるだけで年寄り連中をおおいに鼓舞する。おかげでそこかしこにて競い合うようにして、竹を斬って斬って斬りまくる。それこそ武士のごとく、えい、やぁ、とぅ。
が、竹という植物は斬ればパタリと倒れてくれる、そこいらの木とはちがって根性がある。
貪欲に陽の光を求めるその性質ゆえに枝ぶりは遥か天空にて、「オラオラ、もっと寄越せ、オラー!」とまるで両手をめいっぱいに広げて独り占めする勢い。
おかげで根元がバッサリされても、あっちこっちで引っかかって絡み合い、すんなり倒れてくれやしない。
そしていかんなく発揮されるその柔軟性。
押せども引けども、びよんびよんとチカラを逃がして、ふんばり続ける。
そのしなやかさに地表をはいずる側は四苦八苦。
かと思って、ちょっと油断しているとすぐさまストンと降って来て、ワサワサな枝葉でこちらを踏みつぶそうとするからたまらない。
うっかり巻き込まれたら、たくさん切り傷をこさえることになる。
そんなことに注意しながらも、みんなでせっせと切り倒し続けて、じきに置き場には竹がうずたかく積まれてちょっとした竹の長城がお目見え。
ミヨちゃんとヒニクちゃんは、それぞれ一本ずつだけ切らせてもらい、あとは適当に見学したり、周囲をうろちょろしつつ、竹を加工してちっとも飛ばない竹トンボや、微妙に動きずらい竹馬、水鉄砲なんぞをこしらえて遊んでいた。
「わたし、この竹のにおいってスキ」
ミヨちゃん、鼻をスンスン。
青竹を斬った際に薫る独特の清涼感。
茶色く枯れた老竹だとて、それ相応のニオイがするもの。
それを大量に切れば、一帯にこれが満ちる。
加えてうっそうと茂っていた竹が減っていくほどに、木漏れ日が降り注ぎ竹林の内部には光があふれ、そこを爽やかな風が抜けていく。
「ずいぶんさっぱりしたねえ。これでヤブ蚊がでなければ最高なんだけど」とミヨちゃんのおばあちゃん。これに幼女二人もウンウンとうなづく。
そうなのだ。竹やぶにはコレがいるからやっかい。
蚊取り線香をつけようとも、虫よけスプレーを浴びるほどに受けようとも、ぷーんと耳元にこられたらときの不快感たるや。
よくもまぁ、昔のお坊さんや俳人や茶人に剣豪なんか、こんなところに庵を造って引き篭れたものである。
森ガールとかスローライフの厳しい現実の一端に触れたミヨちゃんが「シティガールにはムリ」との結論を下したところで、おもむろにヒニクちゃんが口を開く。
「竹の可能性は無限大」
ザル、カゴ、茶せん、茶しゃく、一輪挿し、尺八、しの笛、竹刀、弓、鹿威し、
ほうき、釣り竿、柵、すだれ、オモチャ、竹炭、竹酢液、生薬、メンマなどなど。
工芸、芸術、建材、各分野にて大活躍。勝手にずんずん増える夢の素材。
なんとなく一攫千金のニオイがするかも。
……なんぞと、コヒニクミコは考えている。
0
あなたにおすすめの小説
乙女フラッグ!
月芝
キャラ文芸
いにしえから妖らに伝わる調停の儀・旗合戦。
それがじつに三百年ぶりに開催されることになった。
ご先祖さまのやらかしのせいで、これに参加させられるハメになる女子高生のヒロイン。
拒否権はなく、わけがわからないうちに渦中へと放り込まれる。
しかしこの旗合戦の内容というのが、とにかく奇天烈で超過激だった!
日常が裏返り、常識は霧散し、わりと平穏だった高校生活が一変する。
凍りつく刻、消える生徒たち、襲い来る化生の者ども、立ちはだかるライバル、ナゾの青年の介入……
敵味方が入り乱れては火花を散らし、水面下でも様々な思惑が交差する。
そのうちにヒロインの身にも変化が起こったりして、さぁ大変!
現代版・お伽活劇、ここに開幕です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
狐侍こんこんちき
月芝
歴史・時代
母は出戻り幽霊。居候はしゃべる猫。
父は何の因果か輪廻の輪からはずされて、地獄の官吏についている。
そんな九坂家は由緒正しいおんぼろ道場を営んでいるが、
門弟なんぞはひとりもいやしない。
寄りつくのはもっぱら妙ちきりんな連中ばかり。
かような家を継いでしまった藤士郎は、狐面にていつも背を丸めている青瓢箪。
のんびりした性格にて、覇気に乏しく、およそ武士らしくない。
おかげでせっかくの剣の腕も宝の持ち腐れ。
もっぱら魚をさばいたり、薪を割るのに役立っているが、そんな暮らしも案外悪くない。
けれどもある日のこと。
自宅兼道場の前にて倒れている子どもを拾ったことから、奇妙な縁が動きだす。
脇差しの付喪神を助けたことから、世にも奇妙な仇討ち騒動に関わることになった藤士郎。
こんこんちきちき、こんちきちん。
家内安全、無病息災、心願成就にて妖縁奇縁が来来。
巻き起こる騒動の数々。
これを解決するために奔走する狐侍の奇々怪々なお江戸物語。
四尾がつむぐえにし、そこかしこ
月芝
児童書・童話
その日、小学校に激震が走った。
憧れのキラキラ王子さまが転校する。
女子たちの嘆きはひとしお。
彼に淡い想いを抱いていたユイもまた動揺を隠せない。
だからとてどうこうする勇気もない。
うつむき複雑な気持ちを抱えたままの帰り道。
家の近所に見覚えのない小路を見つけたユイは、少し寄り道してみることにする。
まさかそんな小さな冒険が、あんなに大ごとになるなんて……。
ひょんなことから石の祠に祀られた三尾の稲荷にコンコン見込まれて、
三つのお仕事を手伝うことになったユイ。
達成すれば、なんと一つだけ何でも願い事を叶えてくれるという。
もしかしたら、もしかしちゃうかも?
そこかしこにて泡沫のごとくあらわれては消えてゆく、えにしたち。
結んで、切って、ほどいて、繋いで、笑って、泣いて。
いろんな不思議を知り、数多のえにしを目にし、触れた先にて、
はたしてユイは何を求め願うのか。
少女のちょっと不思議な冒険譚。
ここに開幕。
柳鼓の塩小町 江戸深川のしょうけら退治
月芝
歴史・時代
花のお江戸は本所深川、その隅っこにある柳鼓長屋。
なんでも奥にある柳を蹴飛ばせばポンっと鳴くらしい。
そんな長屋の差配の孫娘お七。
なんの因果か、お七は産まれながらに怪異の類にめっぽう強かった。
徳を積んだお坊さまや、修験者らが加持祈祷をして追い払うようなモノどもを相手にし、
「えいや」と塩を投げるだけで悪霊退散。
ゆえについたあだ名が柳鼓の塩小町。
ひと癖もふた癖もある長屋の住人たちと塩小町が織りなす、ちょっと不思議で愉快なお江戸奇譚。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
冒険野郎ども。
月芝
ファンタジー
女神さまからの祝福も、生まれ持った才能もありゃしない。
あるのは鍛え上げた肉体と、こつこつ積んだ経験、叩き上げた技術のみ。
でもそれが当たり前。そもそも冒険者の大半はそういうモノ。
世界には凡人が溢れかえっており、社会はそいつらで回っている。
これはそんな世界で足掻き続ける、おっさんたちの物語。
諸事情によって所属していたパーティーが解散。
路頭に迷うことになった三人のおっさんが、最後にひと花咲かせようぜと手を組んだ。
ずっと中堅どころで燻ぶっていた男たちの逆襲が、いま始まる!
※本作についての注意事項。
かわいいヒロイン?
いません。いてもおっさんには縁がありません。
かわいいマスコット?
いません。冒険に忙しいのでペットは飼えません。
じゃあいったい何があるのさ?
飛び散る男汁、漂う漢臭とか。あとは冒険、トラブル、熱き血潮と友情、ときおり女難。
そんなわけで、ここから先は男だらけの世界につき、
ハーレムだのチートだのと、夢見るボウヤは回れ右して、とっとと帰んな。
ただし、覚悟があるのならば一歩を踏み出せ。
さぁ、冒険の時間だ。
裏切りの代償
中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。
尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。
取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。
自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる