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394 フリ

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 天気がグズつくとの予想から、せっかく傘を持ってきたというのに見上げた空は青い。
 気象衛星だのネットをつかった情報収集だの雨雲レーダーだのと、いろいろ駆使してかなり精度がました天気予報。
 それでもハズれるときにはハズれるもの。
 予報はあくまで予報でしかない。
 それでも晴れといわれて、土砂降りとかになるよりかはずっといい。
 だからフンフン鼻歌まじりにて、手にした傘をマーチングバンドのバトンのように持って、歩いていたいたのはミヨちゃん。
 その隣にはいっしょに下校途中のヒニクちゃんの姿もある。
 仲良し幼女のいつもの景色。
 が、そのとき、ふいに鼻歌がやんで、ミヨちゃんの視線が道端に釘付けになる。
 そこにあったのは一冊の捨てられた週刊誌。
 表紙に大きく書かれてあった記事のタイトルは、つい数ヶ月前に浮気が発覚して、世間からボロクソにバッシングされた某アイドルヤンママタレント。
 イケてる理想の夫婦を演じ、世間からもおおいに羨ましがられ、注目されベスト夫婦とかの賞にも選ばれ、手掛けたファッションブランドも大当たり。
 まさに順風満帆な最中にすっぱ抜かれたスキャンダルに世間はわきにわいた。
 それどころが沸騰しまくって、大噴火!
 なまじ好感度が高すぎたのが裏目に出る。また発覚した浮気現場もよろしくなかった。夫の留守宅に浮気相手を連れ込むのは、いくらなんでも……。
 といった具合にて、それはもう過剰なぐらいにマスコミも世間も叩きに叩いた。
 よくもまぁ、首をくくらなかったものであるというぐらいに、責め立てた。
 まぁ、たしかにやったことはよろしくない。
 ファンが起こるのも、まぁ、なんとなくわかる。
 でもその他大勢が、訳知り顔にて「あれはナイよね」「さいてー」「ひどすぎる」「子どもがかわいそう」なんぞとのたまうのはどうなのだろうか?
 それもまた芸能人の宿命といえば、それまでなのかもしれないけれども、よくもわるくも浮気である。
 べつに刃傷沙汰に発展したわけではない。
 なんだかんだかで夫婦の問題、家庭の問題、個人の問題である。
 憤りは憤りとして、何事にも原因やら過程などがあり、そのへんの詳細や感情の機微なんぞは当事者たちにしかわからない。
 外野はしょせん外野なのだ。

 そんなこんなでおおいに世間をにぎあわせた女芸能人。
 だというのに半年ほどでシレっと、ふつうに業界に復帰して、自虐ネタにておおいにテレビを盛り上げるという逞しさを披露。

「女って強いよね」とミヨちゃん。ちょっとしけった雑誌を傘の先でつんつん。「でもちょっとおかしいよね」

 ミヨちゃんが続けて発したのは、その図太い神経の女性のことではなくて、他の芸能人たちについて。
 わりと浮気現場をすっぱ抜かれて、スキャンダルが発覚する人は多い。
 俳優さんから人気芸人、有名コメンテーターやらえらい学者先生に政治家などなど。
 なのにこの社会の反応の差はなんだ? と幼女は問題提起。
 先の女性はボコボコに袋叩きにあった。それはもう目を背けたくなるほどにヒドイ。
 なのについ先日、同じように家庭持ちのくせして浮気が発覚した芸人は、とくに叩かれることもなく、「まぁ、芸人だし、しょーがないよね」と流されてふつうにメディアに顔をだし、特に企画やら番組が飛ぶこともない。
 俳優さんにしても「やっぱりモテるんだろうね」で済まされ、呆れられつつもすぐに収拾がはかられる。

「なんだかズルくない? 男の浮気はよくって、女の浮気はボコボコって」

 やってることの悪質さは同じなのに、性別によって社会の受け止め方や反応に激しく差が生じる。片や無罪放免、片や下手したら死んでる一歩手前まで追い詰める。
 声高に叫ばれるジェンダーフリーはどこへ行った?
 小さなミヨちゃんの内に秘められた大きな怒りを受けて、おもむろにヒニクちゃんが口を開く。

「男の浮気は甲斐性、女の浮気はビッチ認定。これが平等社会の現状」

 世の中に男も女もいっぱいいるのに、どうしてわざわざそこへ行くの。
 子どもが産まれて妻がつれなくなった? 夫が自分を女として見てくれない?
 アレもコレも欲しいだなんて、まるで駄々っ子じゃない。
 体だけ大人の子どもが格好つけて親のフリをするから、子どもが苦労する。
 ……なんぞと、コヒニクミコは考えている。


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