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395 プリン
しおりを挟む給食のプリンが一つ余った。
さぁ、戦争の始まりだ。
臆せず名乗りを上げろ、拳を天へと突き出せ、そして立ち上がるのだ。
「てめえら、プリンが欲しいかーっ!」
「おーっ!!」
そして担任のヨーコ先生主導によって、じゃんけんバトルロイヤルの幕が開ける。
まずは参加者全員がそろって、先生を相手にじゃんけんポン。
敗者とあいこは去るという過酷な掟。
ある程度、数がさばけたところで、トーナメント戦へと移行。
最後まで残った勝者のみが、栄光のプリンを手にでき、その恩恵にあずかれる。
じゃんけん大会にはクラスメイトの大半が参加。
参加しなかった者は、健康上の理由だったり、美容上の理由だったり、虫歯のせいだったり、といろいろ。
参加する連中は、まぁ、基本的に意地汚いだけだ。
ぶっちゃけ学校の給食のプリンは、それほどたいした品ではない。
プリンランキングではむしろ下位に属する味と品質。
スーパーに行けば三個百円とかで買える程度の代物。
正直、家に帰って「今日のオヤツなぁに?」ときいて、お母さんから「冷蔵庫にプリンがあるわよ」といわれ、喜び勇んで冷蔵庫の扉をあけてコレだったら、けっこうテンションが下がる。
昨今の児童は舌がとても肥えているのだ。
小学二年生ともなれば、「もう、子どもじゃないんだから、せめてコンビニデザートクラスにしてよね」
だというのに食べる場所が学校の教室になったとたんに、おそろしいほどに美味と化す。
「これはもう学園七不思議の事案だよ」
ミヨちゃんをして、そう言わしめるほどの劇的変化。
これに匹敵するのは遠足でのお弁当か、あるいはデパートのレストランにあるお子様ランチか。
とにかく、それは、もう、すごい破壊力。
だからみんなまるで獲物を狙うタカのごとき鋭い視線と、ふだんはまるで発揮されない脅威の集中力にて、己が手を操りグーチョキパーを出す。
「だーっ、負けたー。ちくしょう、何気にヨーコ先生、じゃんけん強いんだよ」
いいところまで行って負けてしまい悔しがったのはリョウコちゃん。
サッカー少女の彼女はスポーツレディであるがゆえに、勝敗にわりとこだわる。なおもし勝てたら、それは幼稚園の年少の弟へのお土産にするつもりであった。とってもいいお姉ちゃん。
「わたし、職員室のパソコンで先生がネットで『じゃんけん必勝法』ってサイトを見てるの目撃したことあるよ」
そう言ったのはチエミちゃん。彼女は早々に敗退し、とっくに着席して周囲の喧騒を眺めている。
「たしかにアレはふるいをかけてるってよりも、全員を負かすぐらいの勢いをかんじるわね」
三十路手前の女教師の本気の姿に、ちょっと呆れ気味なのはおしゃれ番長のアイちゃん。彼女はバトルロイヤルには不参加。プリンは美味しいけれども、甘い物の過剰摂取はお肌によくないから。
「それはしかたないよ。大人の世界でもじゃんけんの強弱は重要だって、まえにやっこ姉さんが言ってたもの。飲み会の席とか、下手に酒が入ると急に勝負! とかゲーム感覚で言い出す人がいるんだって。雰囲気を壊すわけにはいかないから断れないし、もしも負けたらお財布にクリティカルダメージを喰らうから、油断がならないって」
そんな大人の事情を披露したのはミヨちゃん。
これを聞いた幼女たちは、気合の入っている先生に生温かい視線を送る。「そうか、もう向こうのおごりでは誘われないんだね」との意を込めて。
そうこうしているうちに、ふるい落としが終了。
だがそのとき教室にて立っていたのは二人きり。
壇上にて仁王立ちするヨーコ先生と、ヒニクちゃんである。
ふつうでアレばここで勝負は終了。
勝者はヒニクちゃん。
しかしヨーコ先生はちょっとふつうじゃない。だからモテない。生徒には大人気だけれども大人の男の人からは、まるで恋愛対象としてみられない。
そんな女が言った。
「やはりアンタが残ったか。いいだろう、ラストバトルは三本勝負としゃれこもうじゃないか」
女教師、教え子の小学二年生相手にやる気まんまん。毛筋も引くつもりはないらしい。
これを受けてヒニクちゃんポツリ。
「糖には中毒性があるらしい」
糖の過剰摂取はお肌のシワやたるみの原因となる。
糖の過剰摂取は脳をバカにして飢餓状態を誘発する。
糖の過剰摂取はコレステロールバランスを崩す。あと何より太る。
……なんぞと、コヒニクミコは考えている。
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